今回のパリ旅行は昨年行き逃したトロワに行くことにした。
昨年はランスからトロワ行きのバスの便がちょうど悪くてランスで1泊、トロワで1泊のつもりがランスだけで2泊にしてしまったのだが、それが返って良かった。ランスを十二分に堪能することができた。
今回、トロワでは見る物が少なくて退屈するかも知れないとも思ったが、昨年の経験があったので初めからトロワを2泊とした。パリ4泊、トロワ2泊、6泊7日の旅である。
イージージェットの往復航空券、パリからトロワの往復列車乗車券、それにトロワのホテル、パリのホテルと全てインターネットで予約、もしくは買ってしまっていたので便利といえば便利だが変更は難しい。
2009/11/09(月) 晴れたり曇ったり / Setubal - Lisbon - Paris
きょうの出発は比較的ゆっくり。
朝9時45分セトゥーバル・バスターミナル発ヴァスコダガマ経由の高速バスでオリエント駅まで。2階建てバスの2階先頭に座ったのでヴァスコダガマ橋を渡るときなど迫力満点である。
いつもなら自分で運転だから前をしっかり見ていなければならないが、きょうはよそ見ができる。塩田にフラミンゴの群れも見ることができた。しかも高い位置から。
リスボン空港でもゆっくりと時間をもてあますほどであった。
イージージェットの出発は少し遅れた。
到着便に病人が出たらしくて、医療チームが慌しく機内に入っていった。若い青年だったが青白い顔をしてよろよろしながらも自力で歩いて出てきた。
イージージェットは自由席だが比較的後ろの方に座った。僕たちの席も、通路を挟んで隣の席も3人掛けに2人だけでゆっくり。ゆっくり出来たと言っても、映画も音楽も食事も何もないのでパリまでの3時間が退屈だ。
出発した飛行機の中ほどにも気分が悪くなった人が居て、客室乗務員たち3~4人が集まって手当てをしていた。A型インフルでなければよいが…。これくらいの出発遅れなら取り戻せると思ったがパリ到着も少し遅れた。
ドゴール空港のいつもの場所にムッシュ・Mは待っていてくれた。サロン・ドートンヌに出品の100号の作品を預け手続きをお願いする。
「パリのホテルまで送っていきます。」と言って頂いたが、今回は辞退した。パリ市内はそろそろ夕方のラッシュ時で、ムッシュ・Mの自宅からホテルまではパリ市内を縦断しなければならない。かえってドゴール空港駅から直接RER(パリ高速郊外鉄道)で行ったほうが早いし簡単だ。
ところがプラットホームに下りてみると、電光掲示板では全て北駅止まりになっている。きょうRERはホテルのあるリュクサンブール駅までは行かないらしい。RERがストライキ中とのことである。
サルコジ政権に変ってもフランスのストライキは相変わらずの様だ。
北駅からメトロに乗り換えだが、ホテル最寄のクリュニュに行くにはオデオンまで行って乗り換え。ところがそのオデオンが工事中。
仕方がないので手前のサンミッシェル・ノートルダムで降りて歩くことにした。パリのメトロ2駅分だが散歩と思って歩けばほんの僅かだ。寒いのにサンミッシェル大通りの歩道には人が溢れている。ポルトガルから来ればやはり人の多さを感じる。気温は10度以上低い。
ホテルの部屋は良かったが暖房が入っていない。最初はそれほど思わなかったが、真夜中にありったけの毛布3枚をかけパジャマの下に肌着を重ね着。
2009/11/10(火) 晴れ / Paris – Troyes
フロントに「暖房が効かなかった」とひと通り文句を言って出発。
列車の切符はインターネットで買って自分でプリントした物だから、そのままで乗ることが出来るのか少し不安だったので早めに東駅に行く。
インフォメーションで聞くとあっさり「そのままで良いです。20分前から列車に入れます。」とのこと。またもや時間をもてあます。
東駅も以前に比べると随分とすっきりとなって、ブランド品のブティックなどのショーウインドウを見て歩くが、見るものもないし、お客もあまり入っていない。
リュックを担いだままあちこちのベンチに場所を変えて座る。近くに咳をする人がいたり、プラットホームからの風が吹き抜けて寒かったり…。
例によって駅地下にあるPAULのサンドウィッチを買って列車に乗り込む。
時刻通りに発車。パリを出たあたりでサンドウィッチの包みを広げたが、すぐに検札が来た。車掌はプリントした切符にパンチを入れてくれた。そして「ボナ・プティ」と言って立ち去った。インターネットの切符は通常運賃の半額くらいで買えた上に慣れれば随分と楽だ。
1.トロワのホテル
2.ホテルのロビーもコロンバージュ
トロワまでは1時間半。
ホテルに着き名前を告げようとすると、ホテルのマダムが「マダム&ムッシュ・タケモト~?」と先に言った。「地球の歩き方」に載っているホテルだから日本人がよく利用するのだろう。
日本語で「シャシン・オ・イッショニ・トリマショ~」などと明るい声で言う。
部屋もコロンバージュで広いがバスタブはなく、シャワーのみ。でも暖房は良く効いている。荷物を部屋に下ろし、早速トロワ近代美術館へ。明日は祝日で休館なので今日中に観なければならない。
美術館入り口には「ルオー展」の表示があった。
昨年、パリのピナコテカで観た展覧会が巡回して来ているのであろうか?と思ったが観ると全く違う作品ばかりでサン・トロペ美術館からの巡回で、これはついていた。
3.ルオー展カタログ
4.トロワ近代美術館カタログ
この美術館にはアンドレ・ドランがたくさんあるというので今回はそれを楽しみに観に来た。
先月、モントーバンにアングルを観に行ったが近くのコリウールでアンドレ・ドランとマチスのフォーヴ運動の息吹を感じたので今回はこの美術館でドランを観るのを楽しみにしていたのだ。アンドレ・ドランについては最大のコレクションかもしれない。
5.トロワ近代美術館入り口
6.アンドレ・ドランの「ビッグ・ベン」のある展示室
最初期から晩年まで、それに最盛期ロンドン時代の「ビッグ・ベン」など実に多くが所蔵されていた。
ドランはフォーヴィズムの先駆者としてフォーヴ時代の絵の評価は高いが、その後は比較的暗い沈んだ絵になったためか、もう一つ評価は低い。
でもこうして生涯の作品を通して鑑賞してみると実にいろんなスタイルに挑戦していることが判る。そしてその作品どれもが、ある意味で実験的で革新的なのだ。それが時代の流れとはただ単にかけ離れていたに過ぎなかっただけの様な気もする。
7.トロワ近代美術館の庭
8.トロワ近代美術館裏とカテドラル鐘楼が少し見える
この美術館にはドランの他にミレーの肖像画、クールベの雪景色、描き潰したドガ、点描以前のスーラ、フォーヴのブラック、抽象画家ドローニーの具象画など珍しい作品と、ゴーガン、ヴィヤール、ボナール、マルケ、デュフィ、モジリアニ、マチス、ドンゲン、ヴィエラ・ダ・シルヴァそれにビュッフェなどあまり今まで観た事のない作品が多く展示されていた。
夕食にはメインストリートの観光客が一番多く入っているレストランにした。
町に観光客はあまり見かけなかったのだが、この店に集中している様に思う。
トロワ名物の「アンドゥイエット」を食べるのも楽しみにしていた。臓物のソーセージだが、ガイドブックには少々臭いと書いてある。殆どの人がアンドゥイエットを注文している。
ナイフとフォークを使って切る時に強烈な臭いが鼻をかすめた。息をしないで口に入れたが、歯ざわりは悪くない。
隣の席の人は殆どを残して皿を遠くへ押しやっている。早く下げてくれ~と言いたげだ。
僕は一応一皿は全部平らげたが2度と食べたいとは思わない。せっかくこの地に来て、この地の名物なのだから1度は試してみなければならないのだとは思うが、しばらくその臭いが脳天から離れなかった。
09.トロワ名物「アンドゥイエット」
10.トロワのメインストリート
2009/11/11(水) 晴れ /Troyes
昨日より増して寒い一日。そして祝日なので殆どの店が閉まっている。
ホテルで貰ったトロワの地図には観光ルートが示されていた。一日それに従って歩くことにした。思っていた以上にコロンバージュ(木骨レンガ造り)の家が多いのに驚く。
11.写真以上に歪んでいたコロンバージュの家
12.今にも崩れ落ちそうなコロンバージュの古い家並
20世紀半ばからしだいに昔の家並が失われていたところ、当時の文化相アンドレ・マルローの提唱により再びコロンバージュの家並が取り戻されたのだそうだ。
そんな情報もあって、もっと新しいコロンバージュだろうと思っていたが古いものが多く残されている。ブルターニュでもノルマンディーでも多くのコロンバージュの家並を見たがここのが一番古い様な気もする。
13.マンホールの蓋までもがコロンバージュ
14.2階がせり出した典型的なコロンバージュの家
途中、ポルトガルのフランゴ料理の店を見つけたがあいにく祝日で休み。
サン・ピエール・エ・サン・ポール大聖堂のステンドグラスは美しく見事であった。正面のバラ窓の黄色いステンドグラスはさすがであったが、遠くてデジカメでは色が出ていないのが残念。
15.サン・ピエール・エ・サン・ポール大聖堂
16.黄色が美しいバラ窓
17.側面のステンドグラス
18.正面のステンドグラス
道具博物館が開いていたので入った。
コロンバージュの町にふさわしい博物館だが、展示のセンスが実に素晴らしい。古い道具を使ってのまるで現代美術を観ている様で感動さえ覚えた。入る時は入場料が少し高いと思ったが、出る時には安いと感じた程だ。
19.道具博物館入り口
20.道具博物館の展示
2009/11/12(木) 晴れ /Troyes – Paris
マルシェ(市場)の肉屋にもアンドゥイエットは売られていた。店によっても味に違いがあるのだろう。地元のおじさんが品定めをして買っていたが、こういった癖のある物ほど慣れればやみつきになるのかも知れない。
21.マルシェのアンドゥイエット
22.トロワの街並
ポルトガルに戻る前夜にIKUOさんの自宅にお招ばれしている。その時に持っていこうとシャンペンを専門店で調達。パリでも勿論買えるが、トロワ産のトロワでしか買えないシャンペンを買いたかったが、店の親父にはそれが通じたのか通じなかったのか「これだ」と言ったのでそれにした。
画集やシャンペンでリュックが重くなったので、列車内で食べるサンドウィッチは駅のキオスクで買った。これが不味かった。フランスのサンドウィッチはたいてい旨いが、今までフランスで食べたサンドウィッチの中で最悪だった。
パリのホテルのフロントには従業員ではなく経営者のマダムが居た。僕たちの名前と顔は良く覚えてくれていていつも歓迎してくれる。
荷物を下ろしムッシュ・Mに電話。
「ドートンヌに搬入するとカタログを渡されたのでどうしましょう?」と言う。いつもなら会場で直接貰うのだが今回から搬入時に配布する様になったらしい。ムッシュ・Mの自宅まで取りに行くことにした。
85番のバスで1本だが道が混んでいて小一時間もかかってしまった。でもこのバスは名所や下町の猥雑なところなども縫って走るので楽しい。カルネたった1枚で随分値打ちがある。
ドートンヌは今回初めての会場でエスペス・シャンペレという今まで行った事がないところ。
ホテル近くのパンテオンからポルト・シャンペレまで84番のバス1本で行く。始点から終点までだ。
ムッシュ・Mの自宅のあるジュール・ジョフリン往復とドートンヌのあるシャンペレ往復でパリ市内観光を全てしてしまった感覚だ。
今年も目立つ良い場所に僕の絵が掛けられていて満足であった。
23.正面の100号が僕の出品作(サロン・ドートンヌ2009)
24.サロン・ドートンヌ2009カタログ
078. マチスとロダンそしてドラン -パリ・トロワ旅日記-(下)-Troyes-へつづく。
(この文は2009年12月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)
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