仕込みの鉱石(黄銅鉱と黄鉄鉱)に付いていた脈石量とそのSiO2量を推算し、泥質片岩の量と比較する。
鉱石の組成分析値は、できるだけ脈石の少ない塊の試料について分析された値と考えら、実際の操業では、鉱石にもっと多くの脈石が付いていたと筆者は推測する。ラロック目論見書に書かれた明治7年の操業実績値に基づいて物質収支を計算し、脈石量とそこからのSiO2量を推算する。
素吹の1回作業につき(素吹は1炉につき1日3回作業が行われた)SiO2、Fe、Cuについて物質収支を計算する。
計算の基になる値
(1)操業実績値:明治7年(1874)6~11月の平均実績値→表の330回作業から1)
仕込:焼鉱 609kg 泥質片岩 40kg 木炭 243kg
回収:鈹 88.4kg 床尻銅 8.5kg 鍰 355kg
(2)鈹の分析値:明治7年6~11月の平均実績値2)
Cu 51.5% Fe 22.5% S 23.5% 不溶分・砂・石英 3.2%
(3)鍰のFe推算値
鍰の分析値:明治7年分析値2)
酸化鉄及び酸化アルミニウム 68.2% 石灰2.8% 酸化マグネシウム 微量 ケイ酸質成分および不溶性残渣 27.6% 銅2.7%
これを基にFeを推算する。SiO2 27.6%とし、Al2O3は開坑当時と推定される鍰3)の比率Al2O3/SiO2=9.0/30.0 と同じと考えて、8.3%となる。FeO=68.2-8.3=59.9 よってFe=59.9×(55.8/(55.8+16))=46.5%となる。
(4)焼鉱中のFe推算値
原料の鉱石の組成値4)
Cu 11.5% Fe 36% S 43% Zn 1.0% Co 0.1% SiO2 7.5% Al2O3 0.7% CaO 0.1% MgO 0.5%
焙焼では、原料鉱石のS分が大きく減り代りにO分が少し足される。焙鉱のCu,Feは原鉱石からの減少はなく、焙焼率は7.23%なので、5) 1/(1-0.0723)=1/0.9277=1.078を原料値にかけると、焙鉱の組成は、Cu12.4 % Fe 38.8% となる。
(5)脈石中のSiO2値---泥質片岩中の石英を主とみて SiO2 70%と推定した。6)
(6)泥質片岩中のSiO2値---68%とした。7)
計算
焼鉱は、鉱石(Fe,Cuの硫化物由来のもの)X重量と、付いている脈石MX重量からなる。
M=(脈石重量/硫化物由来重量) 609=X+MX---(1)
1. SiO2についての物質収支
仕込 焼鉱 609kgの脈石分MX中のSiO2=MX×0.70
泥質片岩のSiO2 40kg×0.68=27.2kg
炭灰からのSiO2 10kg (前報より)
回収 鍰 355kg×0.276=98.0kg
鈹 88.4kg×0.032×0.70=2.0kg
0.70MX +27.2 +10 = 98.0 +2.0 -----(2)
よってMX=89.7 すなわち脈石中のSiO2は89.7×0.70=62.8kgとなる。
(1)に代入して X=519.3 すなわち鉱石分は519.3kgとなる。
M=0.173 すなわち、脈石重量が鉱石(硫化物由来)重量の17.3%とかなりあることが分かる。
この鉱石重量と脈石重量を使ってFeについての物質収支を取り、妥当であるかをチェックする。
2. Feについての物質収支
仕込 焼鉱 X×0.388=519.3×0.388=201.5kg
回収 鍰 355kg×0.465=165.1kg
鈹 88.4kg×0.225=19.9kg
計 185.0kg
185.0/201.5=92%となり、ほぼ妥当である。
同様なことをCuについても行う。
3. Cuについての物質収支
仕込 焼鉱 519.3kg×0.124=62.9kg
回収 鍰 355kg×0.027=9.6kg
鈹 88.4kg×0.515=45.5kg
床尻銅 8.5kg
計63.6kg
63.6/62.9=101%となり、妥当である。
計算からの結論として、鍰のSiO2の由来は、脈石由来62.8%、泥質片岩由来27.2% 炭灰の粘土由来10.0%であり、2/3は脈石からであることがわかった。融剤として添加した泥質片岩の割合は27.0%と低い。これはもし、脈石が(62.8+27.0)/62.8=1.43倍に増えたら、泥質片岩の添加はしないでも量的には間に合ったことになる。ただ融剤と脈石は状態が異なるので、同じ効果とはならない可能性もあるが。別子鉱床の脈石は、結晶片岩で、黒色片岩(泥質片岩)、緑色片岩(塩基性片岩)、石英片岩(白雲母も含まれる)等であり、組成的には可能性はあると思う。
まとめ
①明治7年(1874)の鍰のSiO2は、脈石由来62.8%、泥質片岩由来27.2% 炭灰の粘土由来10.0%であり、2/3は脈石からであることがわかった
②脈石は、硫化物に対して約17wt%とかなりあることがわかった。
③もし脈石が1.43倍に増えていたら(硫化物に対して24wt%に相当)、SiO2量としては、泥質片岩の添加は必要なかったことも考えられる。
注 引用文献
1. ルイ・ラロック「別子鉱山目論見書-第1部-」p159(住友史料館編集 平成16年 2004)→表
2. 同上p161
3. 開坑当時のものと推定される鍰の分析値(近世住友の銅製錬技術p98 表4-3 K05を除いた13件の平均値)
Fe 41.5 Cu 0.6 SiO2 30.0 Al2O3 9.0 CaO 1.8 MgO 1.1 K 0.6 Zn 0.5 S 1.0
4. ラロックの分析値と調査の鉱石分析値から推定した値(近世住友の銅製錬技術p133)
5. 1872年(1872)原鉱石8460tを焙焼して7848tの焙鉱を得た(焙焼減は7.23%)(コワニェの覚書p116)
6. 別子鉱床の脈石は、結晶片岩の黒色片岩(泥質片岩)と緑色片岩(塩基性片岩)である。(「住友別子鉱山史」(別巻)別子鉱床群の地質・鉱床p205(平成3 1991)
主となる石英片岩の構成鉱物(ホームページ 岩石鉱物詳解図鑑>石英片岩)は、石英(SiO2)、白雲母(KAl3Si3O10(OH)2))、緑泥石(Mg,Fe)5Al(Si3Al)O10(OH)8) 曹長石(NaAlSi3O8)などである。
それらの分析値の例
石英 SiO2
白雲母の分析例(平島ら、地質学雑誌 98(5)450(1992)より)
SiO2 50.26 TiO2 0.31 Al2O3 28.53 FeO 3.20 MgO 2.50 Na2O 0.45 K2O 10.31
緑泥石の分析例(白水晴雄「結晶片岩・含銅硫化鉄鉱床(別子)中の緑泥石」ジャーナルフリー 2(1)15(1962))(重量%)
SiO2 26.04 Al2O3 19.96 Fe2O3 1.85 FeO 21.34 MnO 0.47 MgO 18.56 H2O+ 11.62
7. 山崎新太郎 千木良雅弘 地学学雑誌 114(3)109-126(2008.3)
「四国三波川帯の泥質片岩」 バルク密度 2.09 真密度(solid density) 2.71
SiO2 68 Al2O3 16 Fe2O3 5 K2O 3 MgO 2 Na2O 2 TiO2 1 CaO 1
表 別子銅山の明治7年(1874)6~11月の素吹操業実績
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます