フォト俳句・天使の梯子

    時として見る天使のはしご
    まるで神の呼びかけのよう。

            花木柳太
   

不思議な半年ー①

2025-02-09 15:54:47 | 創作

      創作 「不思議な半年」ー①







平成4年10月1日、私はそれまで続けて来た自営業に見切りをつけ宅配大手のM運輸に入社した。二カ月間の研修を経て埠頭にある東営業所に配属された。いまから18年前40歳の時だった。パン工房を備えたファミリーマートが向かいにあって、夜になるとそこだけが埠頭の闇の中に浮かび上がったかのようでほのぼのとした佇まいを見せていた。12月の或る日の朝、日経新聞の朝刊の"春秋"の欄にあれと思うような記事が載った。マクドナルドのマニュアル通りの接客に関するもので研修でも取り上げられ、よく耳にするものだったが何か自分に向かて書かれたような感じがした。
それが最初の出来事だった。12月の中旬、配達がうまくいかなくて営業所勤務になった。こんなことも今では神の仕業かと思う。配達がうまくいかなかったのは住所が1678番地といったものだったから。3丁目22番18号といったものなら配達は出来た。つまり、そのように営業所勤務はどうにでもできる。ホーム作業と事務所の仕事、街はクリスマスの雰囲気に包まれ営業所は繁忙期に入っていた。時期がクリスマスの頃だったこともそうなのだろうと今では思う。次々に掛かってくる電話の応対、事務処理をしていると自分に意外な能力を発見したりした。今まで事務の仕事はしたことがなかった。
体調も万全でまるで高校生に返ったかのように体が軽かった。或る日ホームで一人作業をしているとナナハンのバイクが構内に入って来て入り口であざやかにUターンしていった。それがなぜか私には何かの合図のように思えた。それは普通に有りそうなことだが、多分そう思わせることができるのが今では分かる。それが二度目の出来事だった。何かは分からないが繁忙期の営業所の中で何かがおかしいと思えるようになっていた。どうも何かがおかしい・・まるで劇団の中で仕事をしているかのようだった。
そんなある日、私は発送する宅配便のボックスに営業所のコードが記された小さな発店シールに小さく「本日は晴天なり」と書いて貼った。何かがおかしいと思えるので青空を見ていてそう書いてしまった。どうも営業所というよりM運輸全体で何かが行われているように感じたからだ。その時川本という男が配達から帰って来て遠くから大きな声で「あ~やっと分かったか。今日はいい天気だなあ」と云って通り過ぎた。どういう事だろうと思った。腕時計の文字盤ほどのシールに書いた文字が見えるはずはないしその前の言葉も・・。本人は別の事を言っているだけかも知れない。そんなことが次第に起こるようになっていった。

M運輸は運送会社にしては週休二日制だったし、会社の生い立ち、劇的な歴史、全てにおいて気に入った。今までどうしてこんな会社に巡り合わなかったのだろう。初めに言葉を聞かされ、後になってあの時の言葉はそうだったのか、伏線だったと思わせる為だったのかと思えるような事が幾つかあった。例えば研修の時社員食堂の食券を買おうと並んでいると教官が近づいて来て「ああ、あなたがそうですか」と言う。意味が分からないでいるといつの間にか所長の転勤が決まっていて次の所長は私だという設定になっている。M運輸は試雇機関が一年もあるような会社で、入社間もない私がそうなるはずはない。しかしそういう雰囲気になっている。訳が分からない。が悪い気はしない。新卒採用の34歳の男はもうすっかり次の所長は自分だと思い込んで浮足立っている。そんな設定になっていた。そんな時、日経の春秋欄にはもっと高次元の人事を例にとって「知らんぷり・・」を決め込むようにアドバイスが書かれてあったりした。人事は意外と‥で始まるものでもう文章は憶えていないが良い文章を書くなあと思った。日経の新聞の文章までがガラリと変わったようにも思えた。いまではそれも有りうると思う。

                                       -つづくー




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