天沼春樹  文芸・実験室

文芸・美術的実験室です。

超世代本『アリストピア』解題

2011年03月11日 14時15分42秒 | 文芸

ひきつづき、『アリストピア』の制作裏話。大竹茂夫さんとは、銀座の青木画廊の関係者を通じて彼の画業を知った。もともと神戸在住の画家大竹さんをデザイナーの北村武士氏がみいだして、Tokyoでの活動を支援していた経緯があったようだ。すでに早川書房などで、装丁画として印象的な仕事をされていた。水野さんと同じく、大量の作品ポジが渡された。これで何かを生みたせという課題だ。作品のミステリアスな魅力にひきこまれつつも、絵の内部に心をこらしていく。すると、描かれている女の子がみな同じではないか?と気がついた。一人の少女が、不思議の国に毅然として立っているではないか。これは大竹茂夫さんのアリスにちがいないと直感した。そこで、アリスと国をあらわすTopiaを組み合わせて、アリストピアAlicetopiaなる造語をつくりだし、既存の絵をパズルのようにならべてはひっくりかえし、テキストもシュールなものにして、組み立てていった。ルイス・キャロルのように単なる言葉あそびの要素も楽しんだ。もちろん世界観は私流だけれど。出版直後、ベルギーだかどこかの出版社から翻訳出版のオファーが来たが、いつのまにか沙汰やみになっている。条件が折り合わなかったのか、テキストが翻訳不能と判断したものか不明。

本書は、大竹茂夫+天沼春樹+デザイナー北村武士の3者の合作ともいうべきもので、どれひとつかけてもなりたたなかったと思う。版元? 編集段階でなにも口出ししなかったことが最大の功績じゃなかろうか。もともと私には、なんの口出しもしない版元だけれどね。

後に、本作にインスパイアされて、アリストピアをモチーフにした現代舞踊家、矢作聡子さんもあらわれたり、別のアーチストを刺激していて嬉しいかぎりだ。ちなみに、その現代舞踏の次の舞台のシナリオ書きを手伝ったりして、新たな体験にもつながっている。

http://www.kk-video.co.jp/schedule/2006/08_0102_yahagi_latrace/08_01latrace.html


著者解題(かいだい)超世代本『旅うさぎ』『アリストピア』

2011年03月11日 13時11分22秒 | 文芸

パロル舎で3冊ほどだしている超世代本の来歴をすこし。先行企画には、落田洋子さんや建石修志さんの絵に舟崎克彦さんが文をつけた作品が2点ほどあった。このシリーズはもともと原画があったものに、ストーリーを創作してアート絵本とする企画だったのだ。したがって、テキストに絵をつけるという通常の制作のながれとはちがう。テキスト作者とデザイナーの手並みが試される仕事である。私はもともと気に入った画家の絵に触発されて物語が生まれるタイプなので、まさにうってつけの企画だった。それに、気に入っている画家を選んでもよいのだから。第一作の画家、水野恵理さんは、ギャラリー活動をしているテンぺラ画の画家で、絵本などの経験もない。はじめにすでに発表されている作品のポジフィルムを貸してもらった。すべて、一枚絵、しかも動物の肖像画ともいうべきもので、人間や風景画というものは一切ない。しかし、描かれたそれぞれの生物たちのまなざしが、深遠な何事かを語りかけていた。そのメッセージは、受け取る側にゆだねられている。しばらく思い悩んだ。なぜこの画家は人物を描かずに動物ばかりを描くのだろうか?そんなことも考えたり、直接本人にたずねてもみた。本人の返答はここでは書かないことにする。

啓示があった。これらの賢者のようなまなざしをもった動物たちのもとを訪ねていくことにしよう。そして、彼らから何事かの言葉を聞いてこよう。聞き手は、旅うさぎのトマス・ハーゼンタール(ドイツ語で野ウサギの谷の意)。この名前はすいと出てきた。トマスは先祖の残した虫食いだらけの書物のなかで、唯一読みとれた「汝、旅に出でよ!」の言葉にしたがって、夢のなかに現れたペリカンの賢者シュナーベル・レイ(Schnabelはドイツ語でクチバシの意)のもとへの旅にでかけていく。ちなみに、登場してくる生物たちの名前の多くはキリスト教の聖者の名前からきている。これも、テンペラという古典技法で描かれた彼らにはふさわしいように思えたのだ。かくて、一連のストーリーはできあがった。すると、水野さんは、なんと新しく旅するトマスの姿を描きたしてくれた。かくて、絵本的流れがうまれ、一枚一枚が独立していた作品群が再構成されて『旅うさぎ』となった。デザイナーの細部にいたるまでのアートワークのおかげて、いまだに愛読者を持つロングセラーとなった。子供向きではないといの評判もあるが、はなから子供の読者など想定していないのだ。絵本だから子供用というのは、既成概念ではないのか。日本人のこのへんがキライだ。すぐに、なんとか向けっていいたがる。読めるのではあれば、子供だろうと成人だろうと、オランウータンであろうとかまやしないのである。それがこの超世代本のコンセプトなんだが、いまひとつ浸透していないようだ。以前、ジュンク堂などと語らって「超世代本コーナー」という、まあ余計な試みだけれど、アピールをしたことがある。

水野恵理さんとは、このほかにグリム童話の『白雪姫』を、すべて猫のキャラクターで描きおろしてもらって制作したことがある。このイレジエをしたのは私である。ヨーロッパの絵本に犬のグリム童話絵本があったのを思い出したのだ。『白雪姫』なら、キャラクターはやはり猫でしょう。とくに妖しくも美しい白雪の母親などは、犬タイプではないですよ。

目下第3作にとりかかっているが、今度は・・・・・・と、バラすわけにはいかない、サプライズがあるのだが、ひとつ心配事もあるとだけ、もったいぶってしめくくる。

参考水野恵理「イノセンスの迷宮」展http://www.aokigallery.jp/new/exhibition2008/mizuno/index.html