ひきつづき、『アリストピア』の制作裏話。大竹茂夫さんとは、銀座の青木画廊の関係者を通じて彼の画業を知った。もともと神戸在住の画家大竹さんをデザイナーの北村武士氏がみいだして、Tokyoでの活動を支援していた経緯があったようだ。すでに早川書房などで、装丁画として印象的な仕事をされていた。水野さんと同じく、大量の作品ポジが渡された。これで何かを生みたせという課題だ。作品のミステリアスな魅力にひきこまれつつも、絵の内部に心をこらしていく。すると、描かれている女の子がみな同じではないか?と気がついた。一人の少女が、不思議の国に毅然として立っているではないか。これは大竹茂夫さんのアリスにちがいないと直感した。そこで、アリスと国をあらわすTopiaを組み合わせて、アリストピアAlicetopiaなる造語をつくりだし、既存の絵をパズルのようにならべてはひっくりかえし、テキストもシュールなものにして、組み立てていった。ルイス・キャロルのように単なる言葉あそびの要素も楽しんだ。もちろん世界観は私流だけれど。出版直後、ベルギーだかどこかの出版社から翻訳出版のオファーが来たが、いつのまにか沙汰やみになっている。条件が折り合わなかったのか、テキストが翻訳不能と判断したものか不明。
本書は、大竹茂夫+天沼春樹+デザイナー北村武士の3者の合作ともいうべきもので、どれひとつかけてもなりたたなかったと思う。版元? 編集段階でなにも口出ししなかったことが最大の功績じゃなかろうか。もともと私には、なんの口出しもしない版元だけれどね。
後に、本作にインスパイアされて、アリストピアをモチーフにした現代舞踊家、矢作聡子さんもあらわれたり、別のアーチストを刺激していて嬉しいかぎりだ。ちなみに、その現代舞踏の次の舞台のシナリオ書きを手伝ったりして、新たな体験にもつながっている。
http://www.kk-video.co.jp/schedule/2006/08_0102_yahagi_latrace/08_01latrace.html