BSE検証 3月27日

牛丼が食べられなくても、牛タンが食べられなくても、国産牛肉に高くて手が出なくても、私(たち)は生きていける。脳神経細胞に異常プリオンが蓄積し致死する変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)を回避するには、たとえ僅かな確率でも、感染の危険を排除できない米国産牛肉を、口にするわけにはいかないのだ。

厚生労働省は、1980年以降1996年以前であればたった1日でも、また1997年以降2004年の間で半年以上、英仏に滞在歴のある人の献血を禁止した。アイルランド・ベルギー・イタリア・オランダ・スペイン・ドイツ・ポルトガル・スイスについても、6ヶ月以上の滞在歴のある人の献血は禁止だ。昨年亡くなったvCJDの日本人男性に、23日間の英国滞在歴があったことなどから、厚生労働省の警戒は厳しい。お陰で、献血が不足する事態を引き起こしているが、厚労省の徹底振りは稀に見る厳重さだ。

しかし、米国産牛肉と英仏渡航歴のある人の献血の禁止だけでは、vCJDへの危険が全て排除されたことにはならない。様々な医薬品に使用されているウシ由来の原料の多くが、米国産なのだ。遺伝子組替え医薬品・ワクチンなどの培養に用いるウシ血清の45%、多くのカプセル剤が該当するゼラチンカプセルの30%、医薬品として使用される胆汁酸の50%を、米国産のウシに依存している。

献血と同様に、予防的に米国産ウシ原料を含む製品の製造を直ちに禁止すると、HIV治療薬や抗リウマチ薬あるいは抗インフルエンザ薬等各種カプセル剤など、約2,600品目もの医薬品の供給に支障を生ずることになる。厚生労働省は、「BSE発生以前から、薬事法第42条に基づく生物由来原料基準において、脳・脊髄・眼・腸等のリスクの高い部位の使用は禁止されている」ことを理由に、直ちに保健衛生上のリスクがあるとは考えられないとし、製品の切り替えは、平成18年3月末日までに段階的に進めていくこととしている。

米国産の血液凝固因子の投与による薬害エイズ問題は、今も記憶に新しいが、リスクを完全に排除するために、2,600品目にもわたる医薬品の供給をストップしてしまったら、たちまち日本の医療そのものが成り立たなってしまう。段階的に切り替えていくしか術はないが、可能な限り代替品を使用してリスクの確率を引き下げる努力が必要だ。罹患してしまってからでは遅いのだ。薬害エイズの教訓を生かさなければならない。

しかし、多くの患者は、米国産ウシを原料とした医薬品を投与されていることを知らされていない。告知することによる混乱を考えれば、原料中の異常プリオンが製品にすべて移行した場合のvCJD罹患のリスク値が1/10万~1/1,000億と極小であるとされることから、ことを荒立てる必要性が認められていないのだ。しかし、本当にそれで良いのだろうか。私の職場でも、この冬、抗インフルエンザ薬のカプセル剤が飛ぶように処方されたが、本剤については、今月末までに、カプセル原料の原産国を米国から他の国に切り替えるよう指導されている。

仕方がないといえばそれまでだが、極小ながらリスクを承知の上で、医薬品を使用しているのが現実なのだ。万万が一、これらの医薬品によって将来vCJDを発症した場合、いったい誰が責任をとるのだろうか。たった1日英仏に滞在した人の献血は禁止しても、医薬品の供給をストップさせることはできないジレンマが厚生労働省にはある。私たちは、やたらめったら、たいして悪くもないのに病院に行くことを自粛しなければならない。「待ち時間が長いので、本当に具合の悪い時は、病院に来ることはできない」患者さんたちが異口同音に口にする言葉だ。だったら、余計な医療費を使うことのないよう、本当に必要な時だけ病院に行こう。

自己免疫疾患であるリウマチは、身体障害をもたらし日常生活に多大な不都合を生じる可能性を持った重大な疾病である。その治療には十分に研鑚を積んだ認定専門医があたることが望ましく、昨年、京大病院では、専門外の医師による投薬ミスが発生し、患者さんが死亡する事故が起こっている。痛みに苦しむ多くのリウマチ患者にとって、特効薬の開発は、首を長くして待たれるところだ。

そんな中、既に海外では70カ国・28万例の症例報告のある抗リウマチ薬「エンブレル(注射薬)」が、去る1月19日付けで我が国においても承認された。待ちに待った承認だったのだが、先日、ウシ血清を原材料に使用した本剤を投与された患者が、vCJDに罹患したとの海外報告があがり、このほど国内での発売が一時延期される措置が講じられた。医療関係者にとっては、出鼻をくじかれた感があったのだが、間髪いれず厚生労働省は、エンブレルとvCJDとの因果関係は認められないとして、近く発売を許可する見通しとなった。本当に心配ないのだろうか。完全に因果関係が否定されない限り、軽率な判断は避けるべきだ。厚生労働省の発表内容に、しっかりと目を通したい。

今現在、米国産牛肉を自ら進んで食べる日本人はいないだろう。しかし、重い病気を患う患者にとって、医薬品はなくてはならない命綱だ。エイズの例をあげるまでもなく、医薬品による薬害は、患者にとっては避けようにも避けられない不可抗力だ。米国産ウシを原材料とする医薬品の切り替え措置について、献血同様に、できる限り厳重に対応するよう、厚生労働省に強く求めていきたい。
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国家試験合格者の氏名 3月26日

4月1日からの個人情報保護法完全施行を受けて、医師・看護師・薬剤師など厚生労働省が所管する国家試験の合格発表が、従来の実名での氏名公表からカタカナ表記に変わる。更に、人事院所管の国家公務員・農水省所管の獣医師・特許庁所管の弁理士などは、もっと厳密に受験番号のみの公表となる。しかし、「厚生労働省が神経質になりすぎ」と指摘する法務省所管の司法試験、あるいは金融庁所管の公認会計士、また国土交通省所管の一級建築士などは、従来通りの対応で実名氏名を公表するという。

患者1人1人の疾病や治療状況の取扱いを管理・監督する厚生労働省が、医師およびパラメディカルの国家試験結果の公表に慎重になるのはある意味当然だ。新聞紙上に合格者の氏名が掲載されることに、違和感を覚える人は多いはずだ。しかし、公共性の高い国家試験の結果は、私的な個人情報とは言えないと判断する向きもある。今回の厚生労働省の対応を、個人情報保護法の乱用による過剰な秘匿にあたると批判する識者もいる。

が、果たして本当にそうだろうか。そもそも、例えば、医師国家試験合格者の氏名の公表に、何の意味があるのだろうか?重要なことは、地域で何人合格したか、ということだ。氏名を知る意義はなく、氏名を知る権利を主張することは、単なる興味本位としか言えない。百歩譲っても、受験番号の公表までが限界だ。例えば、これまでは通称使用で生活を構築してきた在日外国人であっても、国家試験の合格発表は戸籍上の本名が公表されてきた。人権擁護法案の趣旨から言っても、国家試験合格者の氏名の発表は、いき過ぎだったといえる。

それでなくても、住民票情報の垂れ流し状態が続く現状で、個人情報の防衛は社会生活上不可欠だ。明らかに、住民票や運転免許証・健康保険証・年金手帳など公的機関からの個人情報漏洩が後を断たない現在、個人情報の厳格な管理の徹底は公的機関の責任であり、当然、個人個人が求めるところでもある。司法試験合格者を従来通り氏名で公表するとした法務省の外局に、人権擁護委員会を設置するという与党の人権擁護法案は、やはり詰めが甘いとしか言いようがない。

掛け声だけの法律であってはならず、実際に個人のプライバシーと人権が、ガッチリと守られる両法律でなければならない。先日閣議決定された国民保護基本指針によると、日本が武力攻撃を受けた際には、自衛隊が家の中までズカズカと入り込むことを許している。緊急事態ではあるが明らかに戦争を想定し、国民保護法というよりは「国民統制法」、あるいは「自衛隊・米軍活動促進法」と言ったほうが適確で、民主主義とは名ばかり、戦時中に逆戻りといった感が強い。本来、シビリアンコントロール重視のシステムでなければならないはずだ。史上4番目に早いスピードで成立した来年度国家予算。こうして、国民不在のまま、重要法案が着々と成立していく。メディアの責任も大きいが、こんなことで、国会議員が国民への責任を果たしているといえるのだろうか。
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