薬事法改正直前に発売許可された「エンブレル」の疑惑 2月3日

現在我が国では、ウシ由来の原料を使用した医薬品は2500品目存在する。その大半が、BSEが世界的に大問題となり、(おそらくここ1~3年の間のうちに)豪州産やニュージーランド産のウシに切り替えられたとされているが、いまだに米国産ウシを原料に使用している医薬品が19品目存在することが、参議院予算委員会での家西議員の質問で明らかになった。英国にたった1日でも滞在経験のある人の献血を禁止する厚労省が、何故、人体に直接投与される医薬品について放置するのか、不思議でならない。

川内議員の質問主意書では、昨年1月に承認された抗リウマチ薬「エンブレル」について、特に追及している。何故ならエンブレルは、その承認過程で、非常に奇妙な経過をたどったからだ。

エンブレルは、昨年1月19日、世界各国に次ぎ日本で承認された。米国でBSE感染牛が発見されたのち承認された2つの医薬品のうちの1つだ。エンブレルは当初、3月25日に発売される予定だったが、承認直後の1月27日、海外でエンブレル使用者患者がクロイツフェルト・ヤコブ病を発症し死亡するというアクシデントに見舞われ、予定が狂ってしまった。極めて不自然なのは、製造販売元であるワイス社のその後の対応だ。ワイス社は、それから1ヶ月以上経過した3月9日の時点で、初めて死亡報告を承知したと装い、更に、それから遅れること1週間、3月17日になってようやく、(独)医薬品医療機器総合機構に、エンブレル使用患者がクロイツフェルト・ヤコブ病を発症し致死した旨を報告した。

それを受けて、厚労省は3月24日、「薬事・食品衛生審議会安全対策部会伝達性海綿状脳症対策調査会」を開き、本件について安全性ならびに対応を協議している。ここで特筆すべきは、「薬事・食品衛生審議会安全対策部会伝達性海綿状脳症対策調査会」には、「食品安全委員会プリオン専門調査会」の吉川座長以下5名のメンバーが含まれているという事実だ。ワイス社が提出した資料のみをもとに、24日に開催された会議一回きりで、「エンブレルと変異型クロイツフェルト・ヤコブ病との因果関係は非常に低い」と、調査会は結論付けた。そして間髪入れず3月30日(水)、エンブレルの発売が開始されたのだ。

この異例のスピードには、重要な意図が隠されている。翌々日の4月1より改正薬事法が施行され、薬事法第68条11に、生物由来の医薬品について、原料の抽出・加工・製造過程を調査することができるとの規定が設けられた。ワイス社がエンブレルの発売を急いだ大きな理由が、ここにある。ワイス社は不測の事態に備えて、旧薬事法をたてに「現地調査は不可能だった」との免罪符を残したかったわけだ。このことは、牛肉の輸入再開に際しての、政府調査団による現地パッカーの「査察」を想起させるが、これには薬事法のような法的根拠はなく、単に見学させてもらっているにすぎない。

一番の問題は、調査会が、ワイス社が提出した資料のみを材料に断を下している点だ。結局は、薬害エイズの教訓が、まったく生かされていないのだ。製薬会社は、厚労省にとって「大事な天下り先」なのだ。件の19品目について、「速やかに原産国を切り替えるよう指導している」と参議院予算委員会の質疑の中でも川崎厚労大臣は述べているが、それはつまり、厚労省の不作為を公言したのも同然だ。天下り先を確保するために、BSE感染リスクをも黙認する厚労省の対応を、このまま看過しても良いのか。

ワイス社によると、エンブレルの原料となるウシ血清は、「隔離し厳重なエサの管理下で飼育した仔ウシ」のものとされている。しかし、川内議員の質問主意書でもわかるように、米国の飼料規制は、想像を絶する杜撰さだ。ウシのSRM(特定危険部位)をたっぷりと含んだ肉骨粉を飼料とする鶏糞や、鶏の食べ残しの肉骨粉が、ウシの飼料となっている。肉骨粉や代用乳は、レンダリングサイクルの中で生産されたものだ。エンブレルについてもメーカーの主張を鵜呑みにすることなく、どこでどんな飼料を使用して飼育した仔牛なのか、厚労省には精査する責任がある。

参議院予算委員会での川崎厚労大臣の答弁が正確であれば、公表された19品目以外のすべての医薬品には、米国産ウシ由来の原料は使用していないことになる。つまり、HIV治療薬「フォートベースカプセル」を除き全てのカプセル剤が、原料のウシゼラチンの原産国を、米国産から豪州あるいはニュージーランド産に切り替えたということになるのだ。しかし問題は、抗ウイルス薬「タミフル」の例もあるように、いつどの時点でカプセルの原料を豪州産に切り替えたのかということだ。タミフル販売元の中外製薬が、切り替えの時期を曖昧にしたまま依然として公表しないのは、公表できない理由が存在するからに違いないのだ。

そして、何故、件の19品目は、いまだに原産国が切り替えられないのか?メーカーの姿勢が問われるところだ。

参議院予算委員会での川崎厚労大臣の答弁は、国民(患者)の安心・安全を確保すべき立場にある人物の発言とは思えぬ、国民(患者)に心を寄せない荒唐無稽なものだった。役所や政府は、自分たちが責任を回避するための法整備は行っても、あえて性善説に立ち、メーカーのコンプライアンスに対する監視を甘くする。BSEに限ったことではない。政府の対応は、一事が万事だ。メディアを巻き込んだ世論操作を武器にポピュリズム政治を装ってきた小泉政権の本質は、アメリカ追従で業界寄りの弱肉強食社会の形成なのだ。

もう既に、政府による米国産ウシの「安全キャンペーン」が始まっている。信じられないほどの「アメポチ政権」だ!レンダリング米国産ウシの、いったいどこが安全なのか!!川内博史議員をはじめとする、民主党の心ある議員の活躍を期待するしかない。
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