BSEについての政府答弁書と政府統一見解 2月5日

国会を紛糾させた、川内博史衆議院議員が昨年10月28日提出した、「BSE問題に関する質問主意書」の九-(1)を、あらためて考えてみたい。

(質問主意書の質問文)九 輸出プログラムの輸出再開前の渡米確認検査について                                (1)厚生労働省と農林水産省により、米国で未実施の規制が完全に遵守されることを前提に、食品安全委員会において米国牛肉および内臓の安全性評価が行われているが、輸出再開以前に、対象工場における具体的な完全遵守の確認方法や、SRM除去率などの科学的キットを用いた調査結果、調査人員、予算、確認頻度などを渡米して確認すべきだと思うが、政府の見解を求める。また、完全遵守にはマニュアル策定や定期検査のスケジュール策定や抜き打ち検査なども必要と考えるが、それら具体的計画について答弁を求める

(閣議決定した政府答弁書)九の(1)について                                 厚生労働省及び農林水産省においては、米国産牛肉等の輸入を再開することとなった場合には、輸入再開以前に、また、輸入再開後も定期的に、担当官を派遣して米国における我が国向け牛肉等に係る食肉処理施設(以下「対日輸出施設」という。)に対する現地調査を実施することが必要と考えている。具体的には、米国政府による対日輸出施設の監督状況、日本向け輸出証明プログラムに規定する品質管理プログラムの文書化の状況、SRMの除去の実施状況、月齢二十月以下の月齢証明についての遵守状況等について現地において確認したいと考えている。                                      お尋ねの抜き打ち検査の実施については、対象が外国にある施設であることから困難と考えている。

しかし、実際には答弁書に書いてある事前の現地調査は行われなかった。1月30日午前の衆議院予算委員会で、中川農水大臣は事実関係を認め、自身が閣議決定に違反し、「事前」ではなく事後調査とした責任をとるとまで言い切った。この中川大臣の第一声とも言うべき発言は、大臣としてまさに正直な心境を吐露したものだと、見ている多くの人は感じたはずだ。ところが、休憩をはさんだ午後の答弁では、中川大臣の態度は一変する。「その後、日米協議などにより状況が変わったので、事前の調査は行わないことになったが、そのことを川内議員や衆議院に説明しなかったことはお詫びしたい」と、主張を切り替えたのだ。大臣辞任をも想像させた「責任」の二文字は、引き続き職務を遂行することで果たしていくという、お決まりのパターンにすり替えられた。

更に今日のサンプロでは、10月31日農水大臣に就任した中川氏は、10月末の石原農水事務次官の「事前の現地調査は必要ない」との発言を、大臣の権限で修正させたことを明らかにした。即ち、11月18日に閣議決定された答弁書の「輸入再開以前に」の文言は、中川農水大臣自身の意思の表れだったことが判明したのだ。つまり、中川大臣の辞任をも匂わせた「第一声」は、中川大臣の嘘偽りのない本音だったのだ。

しかし、中川大臣が責任を認めてしまったら、困るのは何を隠そう小泉総理だ。11月16日の日米首脳会談の想定問答集には、「12月12日に輸入再開を決定し、その後に調査団を派遣する」という内容が記されていたことは、既に周知の事実。米国の主張を受け入れるために日本国民をも欺く小泉総理に説得されて、中川大臣は、「答弁書がどのようにして書かれたのか調査すると、今は言うしかないのだ。

1月30日予算委員会の日の夜、あらためて発表された、答弁書に関する政府統一見解は以下の通り。                                                                                                                                                      川内議員への答弁書では「厚生労働省及び農林水産省においては、米国産牛肉等の輸入を再開することとなった場合には、輸入再開以前に、また輸入再開後も定期的に、担当官を派遣して米国における我が国向け牛肉等に係る食肉処理施設(以下「対日輸出施設」という。)に対する現地調査を実施することが必要と考えている。」といたしました。これは厚労省及び農水省の当時の認識・考え方を内閣として是としたものであり、必ずしも特定の行為をなすことを内閣として決定したものではありません。

その後、実際には、

①日本向けの牛肉輸出プログラムについて、米国が行う施設認定を日本側も調査できること 

②輸出解禁以降でなければ、履行状況の調査ができないこと

が判明しました。 

また、12月12日に米国との間で、輸入再開を決定した後、13日には査察に出発し、第一便の米国産牛肉が我が国に到着したのは16日となっております。                                  なお、閣議決定以降の12月8日に出された食品安全委員会の最終答申においては、査察の実施は輸入再開の条件とはなっていませんでした。       したがって、厚生労働大臣及び農林水産大臣の輸入再開の決定は、11月18日に閣議決定された川内議員の質問主意書に対する答弁に反している訳ではないと理解しております。                         しかしながら、答弁書の閣議決定以降に生じた御説明申し上げたような過程について、院に対し十分な説明を行わなかったことは事実であり、誠に遺憾であります。

最大の問題は、答弁書の文言を、責任逃れと米国の言い分をできる限り聞き入れる為に、不自然な形で解釈しようとしている政府にある。「国民の食の安全のために、事前調査をすべきだった」との反省の弁は、一言もどの閣僚からも出てこない。本来なら十分にチェックを行うべき問題にもかかわらず、米国の言いなりになって事前査察を控えた小泉総理の姿勢は、言語道断。飼料規制も含め、安全意識の低い、極めて杜撰な管理体制にある米国畜産業界が、日本の要請通りの処理を実行するか否かは、徹底的に査察をしてチェックするしか方法はないではないか。中川大臣も必要性を感じたように、当然、事前調査は行うべきだったのだ。ブッシュ大統領のご機嫌とりのために、事前調査をしなかった小泉総理こそ、確信犯なのだ。

更に、米国産牛肉に関する最大の問題が、ウシの飼料規制の甘さにあることを忘れてはならない。SRM(特定危険部位)の脳や脊髄が含まれたウシの死体から作られたウシの肉骨粉を飼料とする鶏の糞あるいは鶏舎のゴミ(食べ残しの肉骨粉)を、ウシの飼料としているレンダリングサイクルこそが、米国畜産業界の最大の問題なのだ。米国国内では、高所得者向けに、「オーガニック」という名の「まともなウシ」も飼育しているが、日本向けの牛肉は、低所得者向けに作られた牛肉と同等のものだ。パッカーの査察を徹底して、SRMを除去しているか否かをチェックすることも重要だが、何よりも、米国には、レンダリングの禁止も含め飼料に対して厳格な規制をさせることのほうが先決なのだ。

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