米国BSE検査体制の甘さ 2月11日

2004年11月、アメリカで2頭目のBSE感染牛が発見された。そもそも2頭目なんて少なすぎる。アメリカがBSEをひた隠しにしていることは容易に想像されるが、案の定、この2頭目でさえ、アメリカ農務省は「シロ」の判定を下そうとしていたことが判明した。共和党に限らずアメリカの政治家にとって、畜産業界は最大の支持勢力といえる。BSEが発覚すると死活問題になりかねない畜産業界は、政治家に圧力をかけ、検査をしないか、陽性の検査結果をねじ曲げるよう強要するのだ。

日本農業新聞によると、このダウナー牛から採取した脳を国立獣医研究所に送ったところ、3度にわたって「クロ」の判定結果が出たにもかかわらず、免疫組織化学検査と顕微鏡による検査では陰性だったとして、農務省は「シロ」の判定を下したそうだ。これに疑問を持った専門家たちが、日本でも採用しているウエスタン・ブロット法などによる検査を提案したが、農務省は「必要なし」と退け、無理やり「シロ」と断定したのだ。

この杜撰な検査結果に対し、農務省監査局が警告を発し、国立獣医研究所はついに、ウエスタン・ブロット法による検査を行った。その結果、3つのサンプルのうち1つが陽性と反応。念のため、英国の研究所で再確認をしたところ陽性であったため、半年以上の曲折を経てこの「2頭目」の感染が明らかになったのだ。

民主党に続き自民党の調査団も米国パッカーの視察に出かけたが、従って、加工処理の段階でどんなに精密にチェックしたところで、感染を隠蔽された牛がラインに乗っている可能性が高い以上、安全が科学的に証明されることはあり得ないのだ。全頭検査をしない米国では、BSE感染検査が実施されている牛は、食肉処理される牛の1%。へたり牛であっても、ノーチェックで処理されているのが現実だ。たとえ「日本向けの牛は、万全のチェックをしている」と当局が主張しても、「クロ」のものを「シロ」に書き換えてしまうような米国農務省を、誰が信用できようか。

米国が、牛の肉骨粉を鶏やブタに食べさせることを放任し、その肉骨粉入りの鶏糞が牛の飼料になっている以上、BSEの感染リスクは拭い去れない。ノーベル賞を受賞した米国の神経学者スタンリー・プルシナー氏は、少なくとも全てのダウナー牛を検査することから始めるべきだと警告している。昨年12月には、米国マクドナルドが、更には乳製品大手のランド・オ・レイクス社が、FDAに対して安全強化を求める意見書を提出している。米国の消費者そして食品業界でさえも、畜産業界の杜撰な安全管理に疑問を抱き始めているのだ。

明らかにされているだけでも米国では年間数百例に及ぶヤコブ病などプリオンが原因の疾患が報告されている。この中には、アルツハイマーと診断された患者は含まれておらず、ヤコブ病による死亡例の報告を義務付けていない州が半数以上あることを考慮すると、米国におけるヤコブ病患者は数千人にのぼることが予想される。米国が正式に発表している変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の患者は昨年までの5年間でたったの1名だが、ヤコブ病と診断されても、死亡したのち脳を解剖して調べない限り、孤発型か変異型かの区別はつかない。BSEをできるだけ隠蔽したい米国では、殆どの場合、脳が解剖されることはない。

恐ろしいことに、既に孤発型ヤコブ病は、米国各地で集団発生している。そして米国では、近年アルツハイマーが激増している。1975年には50万人だったものが2005年には450万人に、2050年には1千数百万人にのぼると推測されており、この中には、ヤコブ病患者が含まれていることはもはや否定できない。米国のアルツハイマー発症率が、宗教上、牛を食さないインド人の約1,000倍であることも、牛と疾病との関連を示唆している。

このような状況にあっても、畜産業界が政治家を抑え込む米国では、来年度のBSE検査に関る予算が、現行の1/10に削減されようとしている。米国政府は、畜産業界の言いなりになるあまり、米国消費者の食の安全をも、危険にさらしてしまっている。そんな驚愕の実態を踏まえると、米国国内での徹底した飼料規制と検査体制が確立されない限り、米国産牛肉が日本に輸入されることなど、絶対にあり得ないのである。

割安で効果的な肉骨粉を、米国農家が使用しなくなる唯一の手段は、法律で規制する以外にない。日本と米国とが、政治的な駆け引きの道具にするほど、BSE問題の底は浅くない。レンダリングによる肉骨粉と油脂がBSEの原因である以上、全世界の公衆衛生のために、WHOによる「肉骨粉の全面使用禁止」の勧告を、強く望みたい。
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