医療制度改革「尾道市医師会方式」 2月20日

いよいよ4月から、医療制度改革の第一弾がスタートする。38万床ある療養病床を15万床まで削減することと、院外処方箋の代替調剤が可能となることが、今回の改革のポイントだ。これらは、国民の目から見ても非常にわかりやすい形の、医療費抑制政策だ。診療報酬もわずかだが引き下げられるが、診療の過程で行われる検査や技術指導は、殆どの場合、患者に選択権はない。例えば、薬の説明を受けていなくても、自動的に「薬剤管理指導料」が加算されるケースは多い。良識ある薬剤師は、料金を頂戴するぶん説明に余念がないはずだが、現実にはそうでない場合も残念ながらあり得るのだ。>

検査となると、料金明細は更にやっかいだ。仮に、検査に「松竹梅」の格差があるとしても、そのどれを選択するかは、患者ではなく医師が判断するのが通例だ。患者は、医師の言われるがまま検査をし、窓口で請求されるがままの料金を支払う。それがこれまでの慣習だった。その点、薬価の高い先発品を選ぶか、薬価の安いジェネリック医薬品を選ぶか、患者に選択権が生じる代替調剤は、患者の意志で医療費の抑制を推進できるという点で大きな進歩といえる。ずれ込むことなく是非とも4月から、代替調剤可能処方箋が発行されることを期待する。

一方、医療費の垂れ流しとも見られていた療養病床の縮減は、識者の長年の悲願だった。6年間の経過措置がついたとはいえ、療養病床の削減が土壇場でねじ込まれた背景には、財務省主計局の大きな力が働いたとされる。家族介護が困難というだけで、殆ど医療処置を講じる必要のない人たちの所謂「社会的入院」の場が、療養病床の実態だった。医療と介護の総費用を抑制するためには、真っ先にメスを入れるべきところだったのだ。本当に一定期間の「入所」が必要なら、特養や老健・有料老人ホームを利用するのが本筋なのだ。

国民的課題である医療制度改革は、まだまだ道半ば、今後も課題は山積だ。今回の改正で最も抜けている点は、医療と介護が具体的にリンクしていないことだ。介護保険制度は、医療費の抑制が主眼でスタートしたにもかかわらず、年をおうごとに医療と介護の総費用は上昇してきた。ピンピンコロリを理想とし、人間らしい終末を迎えるためには、医療と介護とが相互に補完しあうしかない。しかし現実には、民間事業者が介護保険を食い物にし、過剰なサービスの提供により、利用者は自立と逆行する予後をたどる。上がるのは、利用者のアメニティではなく介護報酬だけだったわけだ。

2008年度より、中小零細企業が加入する政府管掌保険が、都道府県単位で運営されることが決まったことは、一筋の光明となる意義有る一歩だ。医療保険と介護保険は、最終的には都道府県・市町村レベルでの運営に持っていかない限り、国民にとって有効な制度には発展し得ない。住民が、自分たちの住む地域の公衆衛生に責任を持ち、健康な人が独居老人を支援し、住民あげて元気維持活動に邁進することで、長野県は医療費の抑制に成功している。医療と介護には、住民自治の小さな政府、すなわち都道府県・市町村単位での取り組みがピッタリなのだ。

一方、医療・介護の地域包括システムを成功させたのは、広島県尾道市医師会だ。医師をリーダーに、コーメディカルがそれぞれの職能を最大限生かしながら連携し、在宅介護の充実をはかり、医療と介護とが効率的にキャッチボールできる環境が尾道市には整備されている。有名無実化していることが多い、ケアプラン作成では極めて重要であるはずのケアカンファレンスも、尾道市医師会方式では、医師が積極的に参画し常時行われている。その結果、患者(利用者)の生活のクオリティは極めて良好に保たれる。

尾道市では病院と診療所がパーフェクトに連携している。病院と診療所両方の主治医そしてコーメディカルが参加して行われるケアカンファレンスでは、入院治療と在宅治療との「病診連携」によってケアプランが作成され、患者のアメニティが良好に保たれる仕組みが見事に構築されているのだ。誰のための医療なのか、何のための介護保険なのか、尾道市医師会方式は多くのことを教えてくれる。

医療は、「患者」があって成り立つ分野であることを、医師をはじめ医療従事者は肝に銘じる必要がある。満足度の高いサービスを患者に提供できて初めて、医療機関はその対価を得るべきなのだ。患者が不満に満ちていても、自動的に診療の対価を要求してきたこれまでの姿勢は、実は既に行き詰っている。真の医療制度改革は、医療従事者の意識改革あってこそ、進歩発展するものだ。患者の窓口負担を何故引き上げなければならないのか、まずは医療従事者がじっくりと考えてみる必要がある。医療人の意識が変われば、霞ヶ関が苦心惨憺しなくても、自然に尾道市医師会方式が全国に展開されるようになるだろう。そんな日が、一日も早く訪れることを期待し、私も自戒して頑張っていきたい。

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