食品の裏側 3月4日

偶然、新聞の書評で見つけた安倍司著「食品の裏側」という本を読んだ。身の回りにあふれる食品添加物の功罪について、素人でもわかり易くつづられており、添加物の入門書としては非常に興味深いものだ。BSEが問題になって以降、私もそれなりに「食の安全」にはこだわるようになった。弁当・インスタントラーメン・ミートボール・明太子・ハム・ソーセージなどスーパーで手にする身近な食材にはじまり、酒・醤油・塩・砂糖・みりん・だしの素などの化学調味料にいたるまで、使用されている添加物を、無添加の場合と比較して恐怖をあおらない程度にしかし正確に指摘する本書は、目から鱗が落ちる面白さで、一気に読破してしまった。手間隙かかっても自宅で調理することの重要性を、無理なく自然に教えてくれる。

それにしてもミートボールには驚いた。子どもたちの大好物であるミートボールは、実は所謂「捨て肉」の塊。ウシの骨から肉とは言えないような端肉を削り取り、卵を産まなくなった廃鶏のミンチで増量し、柔らかな弾力性を出すために「組織状大豆たんぱく」を加え人造肉をつくる。これに、ビーフエキス・化学調味料などを大量に加え味をつけ、歯ざわりを滑らかにするためにラードや加工でんぷんを投入し、結着剤・乳化剤を加えて機械で大量生産する際の作業効率を上げる。更に発色を良くするための着色料に保存料・ph調整剤、色あせを防ぐために酸化防止剤を注ぎ込むが、まだ終わらない・・・。

氷酢酸を薄めカラメルで黒くし、化学調味料を加え「ソースもどき」を作り、トマトペーストに着色料で色をつけ酸味料を加え増粘多糖類でとろみを付け「ケチャップもどき」を作る。これをミートボールにからめて真空パックにつめ、加熱殺菌してやっとミートボールなる商品は完成する。これが子ども達に大人気のミートボールの正体だ。肉骨粉とは言わないが、骨にこびりついた肉とも言えない肉を削り、数十種類にも及ぶ添加物を混入した物体を、「美味しい!」と無邪気にはしゃぎながら、子どもたちは頬張るのだ。

現在使用されている食品添加物は、食品衛生法条に基づいた手続きで、まず食品安全基本法第24条によって、「食品安全委員会」でリスク評価され、パブコメを経てADI(1日の摂取量)を設定し、それを基に厚労省に置かれた食品衛生調査会が最終答申を出し食品添加物として指定する。しかし、動物実験による安全性の確認は、当該添加物を単独投与した場合に限られており、例えばミートボールのように数十種類の添加物が同時に投与された際の安全性の確認は、実際には行われていない。

本書の著者は、大学の化学科を卒業後、食品添加物商社のトップセールスマンとして活躍していた。その著者が、自分の子どもの3歳の誕生日を祝う食卓に、件のミートボールが並び、子どもが美味しそうに頬張る姿に愕然とし、自身がセールスマンであると同時に消費者であったことにも気付き、人生の方向転換を決意することとなる。会社を辞めた著者は、食品添加物の専門家として全国各地で講演活動に精を出し、幼稚園児らにデモンストレーションすることもあるという。食物繊維飲料で有名なフア○○・ミニのオレンジ色が、サボテンに寄生する虫(カイガラムシ科エンジムシ)を乾燥しすり潰したものを原料としていると聞くと、なんだか複雑な心境になる。

更に、ハムについても興味深い事実が紹介されている。100gの豚肉から、120gのハムが出来上がるというのだ。全体の1/6が添加物というわけだ。豚肉の塊に、100本くらいの注射器で、専用のゼリー液を一斉に注入し嵩上げをはかり、ゼリー液が肉全体に均等に行き渡るようにもみこむ・・・なんとも不気味な光景だ。色や弾力を持たせるために更に添加物を注入し、安売り用のハムとして店頭に並ぶのだ。ゼリー液には、大豆たんぱくや卵白・乳たんぱくが使用され、食品表示ラベルには、ハムなのにこれらの文字が躍るのだ。無添加のハムならば、豚肉・粗塩・三温糖・香辛料の4種類の成分表示で済まされるが、一般のハムの場合には、このように数々の添加物が加えられ、十数種類もの成分表示がなされることになるのだ。

しかし、話はここで終わらない。素人が見たのでは、何の目的で使用されているのかさっぱりわからない化学物質が成分表示欄におびただしく並んでいるが、表示されている添加物が、実は使用されている添加物の全てではないのだ。わかり易さを理由に、複数の添加物を使用していても「調味料」とか「乳化剤」などのように一括表示している場合が多いのだ。ここで言う「わかり易さ」とは、いったい何だろう???単なる隠蔽でしかないのではないか。消費者が選択し易くするためにも、すべての添加物を正直に表示するよう法改正すべきだ。

キャリーオーバーと言って、例えば焼肉のたれの原料に醤油を使用したとしても、醤油に使用された添加物は表示しなくても良い。また、表面積が30cm2以下の小さなパッケージ、例えばコーヒーのフレッシュなども、使用されている添加物を表示する義務はない。極力無添加のものを選択しようと思っても、初めから添加物が表示されていないのでは判断のしようがないのだ。

人体に直接摂取される食品添加物が、曖昧な表示のまま流通することは、決して好ましい状態とは言えない。「食の安全」の観点から、著しく逸脱している。選択権は消費者にあり、表示を熟視して食品を取捨選択する消費者は決して少数派ではない。トレーサビリティと同時に、添加物の情報開示も企業に課せられた重要な社会的責任の一つだ。1つ1つの添加物の毒性試験は行われていても、人体でしかも複数の添加物が入り混じる状態での安全性を、科学的に証明する根拠がない以上、極力無添加を心がける必要がある。近年のガン発症率の急増と食品添加物との因果関係は、100%解明はされていないが、無関係であるとも証明されていないのだ。

食品安全基本法は、国民の健康への悪影響が未然に防止されることを目的として制定され(第5条)、8条2項に「食品関連事業者は、食品その他のものに関する正確かつ適切な情報の提供に努めなければならない」と定めている。一方で、9条では消費者の役割も強調し、消費者の意識レベルによって、食品添加物の安全性に対する規制が、強くもなれば緩くもなることを示唆している。輸入品も含めると違法に使用される食品添加物は後を絶たない。大量に摂取すれば発ガン作用を有する添加物は、限りなく存在する。

「SRMを含んだレンダリングの肉骨粉を飼料とした可能性のあるウシの肉を、添加物で塗り固め燻製にしたビーフジャーキー」は、今この瞬間もアメリカから輸入されているのではないか!?飛躍しすぎかもしれないが、私たち消費者を取り巻く環境はそんなに優しくはないのだ。

残念ながら、利便性を追及する以上、現代の食生活から添加物を排除することは極めて困難だ。私たちに出来ることは、トレーサビリティと同時に食品の成分表示にも気を配り、なるべく無添加のものを選択するよう心がけることしかない。その為にまずは、添加物の一括表示をやめて、キャリーオーバーなど全ての免責事項を撤廃し、製造過程で使用された全ての添加物の表示を義務付けるよう、食品衛生法を改正することが必要だ。消費者の声が、法律を動かす原動力になるのだ。

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