和田秀樹「血圧と血糖値は
ちょっと高いぐらいがいい」…
高齢者が薬とうまく付き合う3つの原則
いつまでも元気にすごすにはどうすればいいか。
精神科医の和田秀樹さんは「血圧や血糖値はちょっと高めぐらいのほうが
活力を維持してくれる。医者が処方する薬をそのまま飲むのではなく、
本当に必要な薬なのかを点検してほしい」という――。
【写真】和田秀樹氏の著書『老人入門 いまさら聞けない必須知識20講』(ワニブックス)
※本稿は、和田秀樹『老人入門 いまさら聞けない必須知識20講』
(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■飲んで不調になるなら薬を止めるしかない
医者は薬を処方しますが、それを飲むのは患者です。
したがって、その薬を飲み続けることで何らかの不調を感じたら、
そのことをはっきりと言わなければいけません。
言わない限り、医者は薬を出し続け、患者は不調に苦しみ続けることになるからです。
「フラフラする」「眠くなる」「頭がボーッとする」どんなことでもいいです。
それをはっきりと訴えて、まさか「気にしなくていいです」とか
「我慢しなさい」という医者はいないと思いますが、無反応な医者はときどきいます。
患者の訴えに取り合わず、結局、いつもと同じ薬を同じ量だけ出します。
もしそういう医者にいま診てもらっているのでしたら、医者を替えてください。
でも医者が処方する薬を「仕方ない」と思って諦めて飲んでいる人はいないでしょうか。
「これを飲むと頭がボーッとするんだけど、薬だから仕方ないのかな」
どんな薬にも副作用があることは知っています。
ある程度の不調は薬の功罪の罪の部分で、功もそれなりにあるんだからと受け止める人です。
「実際に血圧が下がっているんだから我慢すればいいのかな」と考えてしまいます。
これはとんでもない考え方です。
なぜ薬を飲むのかといえば、不調を治すためです。
いくら血圧の数値が下がったとしても飲めば調子が悪くなる薬なら意味がありません。
そうなるくらいなら、血圧が高くても調子がいい状態に
戻ったほうがじつは身体のためです。薬は飲まないほうがいいのです。
■放っておくと薬の種類と量は増えていく
血圧や血糖値が高めというだけで薬を出されますから、
50代後半ぐらいから何らかの薬を毎朝、飲む人が出てきます。
高齢になるにつれて検診で引っかかる項目が増え、
実際に糖尿病や心血管系の病気にかかる人も増えてきますから、
薬の種類も量も次第に増えてきます。
そのままいけば80代90代になったころにはどうなるのか、
慢性的な不調はすべて歳のせい、病気のせいと思い込んでいるかもしれませんが、
じつは薬のせいかもしれないのです。
そろそろ薬に対する考え方を根本的に見直したほうがいいでしょう。
飲まなくていい薬は飲まない。
飲んでも飲まなくてもいいような薬も飲まない。
飲んだほうがいい薬を必要なぶんだけ飲む。
この3つを守るためにはまず、医者とは堂々と付き合ってください。
薬で調子が悪くなるときははっきり説明して
「減らしたい」「飲みたくない」と申し出ましょう。
医者の私が言うのも何ですが、自分の専門領域しか眼中にない医者ほど、
とりあえず病気の原因となる検査項目の数値、血圧や血糖値を下げようとします。
予防や悪化させないためですからこれは仕方ありません。
■かかりつけの薬局を1つ作って薬を整理してもらう
でも、心血管系の病気でも糖尿病のような基礎疾患でも、
こういった項目の数値を下げるのが治療の第一歩と見なされますから
どの医者も同じような薬を処方します。
3つも4つもクリニックに通っていたらたまったものではありません。
しかも2カ月分くらいどさっと出します。
そこで、せめて薬局をひとつにしましょう。
医者が処方した薬をクリニックに近い薬局から出されるままに持ち帰るのでなく、
できれば自宅に近い薬局を選んでお薬手帳も1冊にまとめ、
薬剤師に話して用途がダブっている薬を取り除いてもらいます。
意外に知られていないのですが、
薬を取り巻く状況はだいぶ変わってきました。
薬局の役割が大きくなってきます。
「薬剤管理」などの名目で個人の薬剤情報の一元管理を目指しています。
多剤処方や重複投薬を防止する方向に進んでいるのです。
医者が処方する薬を「仕方ない」と諦めてそのまま飲むのでなく、
ぜひかかりつけの薬局を作って無用な薬は飲まないようにしてください。
薬のことだけなら医者より薬剤師のほうが精通しています。
もちろん理想を言えば、薬への不満をしっかりと受け止めてくれる医者と出会うことです。
「調子悪くなります」と訴えたときに、「少し減らしてみましょう」
と臨機応変に対応してくれるかかりつけ医を見つけることでしょう。
いちばんいいのは、話しやすくて会うと気持ちが楽になる医者、
つまり相性のいい医者を探すことです。
我慢してまで気に入らない医者と付き合う必要はありません。
そのためにも、薬を飲んで不調になるときには
そのことをはっきりと医者に申し出てください。
そこがスタートです。
■高齢者が薬で「正常値」にする副作用
ほとんどの薬は血圧、血糖値、コレステロール値などの数値を下げるためのものです。
では、そういう数値を下げれば老いても元気に暮らしていけるのでしょうか。
そもそもなぜ数値を下げようとするのかといえば、
正常値とされる数値より高いからです。平均値を挟んで大半の人を正常とし、
高過ぎたり低過ぎたりする人を異常とする統計的なものです。
でも人それぞれの体質や環境があります。
少しぐらい高めでも毎日元気で、自分でも体調がいいと感じている人もいれば、
正常値でも病気になったり不調を感じる人もいます。
たしかに脳梗塞や心筋梗塞のような病気の予防には、
先に挙げた3つの項目の数値は高いより正常であったほうがいいでしょう。
でも薬を使ってまで下げる必要があるのかどうか、
とくに高齢者の場合は疑問です。
私にも経験があるのですが、血圧や血糖値を薬で下げると
ボーッとしたりだるくなったりすることがあります。
コレステロール値を下げる薬は男性ホルモンを抑えますから
活力のないしょぼくれた老人になってしまいます。
コレステロールは免疫細胞の材料でもありますから免疫機能も低下します。
■血圧や血糖値、コレステロール値はちょっと高いぐらいがいい
それだけではありません。
薬だけでなく食事にもつい気を遣うようになります。
しょっぱいものとか味の濃いものを避け、
肉料理のような脂っこいものも避けてしまいます。
何だか食べる楽しみが薄れてしまいます。
その結果、数値がどんなに正常に近づいてもこれといって楽しみもなく、
しかもボーッとしたり元気の出ない生活を送ることになってしまいます。
これでは老いがどんどん加速されるでしょう。
ただ数値を下げるためだけに薬を飲んでも、
QOL(生活の質)までが下がってしまったら意味がありません。
むしろ血圧や血糖値、コレステロール値はちょっと高めぐらいのほうが
高齢者の活力を維持してくれます。
本人がそれで元気なら何も問題はないというのが私の考えです。 -
和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、
老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、
東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、
高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、
現在、国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、川崎幸病院顧問、
一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
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