この一文はだいぶ前に書いたものだが、いつのものか忘れてしまった。白鵬の優勝回数が大鵬に並んだとあるから、その頃のものにちがいない。
白鵬がついに大横綱・大鵬の優勝回数三十二回に並んだ。あとは前人未踏の記録に挑み続けるのだろう。
彼は角聖と呼ばれた双葉山の「後の先」を理想としているそうである。「後の先」は柔道、剣道、相撲など、多少異なるようである。相撲における「後の先」とは、立ち合いである。
少年たちは相撲部屋に入門するとすぐ、立ち合いのスピードを叩き込まれる。両者が仕切り線で睨み合い、相手より速く鋭く踏み込むことを叩き込まれるのだ。十両から幕内に上がると、立ち合いのスピードが全く違うと言う。さらに上で取るには、より鋭い力強い踏み込みが必要なのである。
千代の富士や白鵬、日馬富士の立ち合いのスピードは凄まじい。かつて中京大学スポーツ科学の湯浅景元教授が千代の富士の立ち合いの速さを計測すると、それは陸上短距離の王者カール・ルイスのスタートと全く同じスピードだったという。
相撲の、双葉山の「後の先」は、相手より遅れて立つ立ち合いである。しかし双葉山はすぐ自分の十分な組み手となって相手の動きを止め、相手を押し込み、仕留めるのである。白鵬は双葉山の古い映像を繰り返し見ながら、「後の先」の奥義を研究しているらしい。しかし白鵬でも、その「後の先」を年に数番しか見せていない。
これは当たり前で、白鵬も角界入りした十代後半から、誰よりも速い、鋭い立ち合いを叩き込まれてきたのである。立ち合いでは本能のように身体が動き、その鋭さ、速さは素晴らしい。
さらに、双葉山の「後の先」は、作戦としての立ち合いではないからである。それは相手より遅れて立ってしまったときに、本能のように対処する方法なのである。
相手より立ち合いが遅れてしまっても決して慌てない。慌てて前に出ようとか、変化しようとか、腰高のまま攻めようとかしてはいけない。相手より腰(重心)を低く、下から、内から、スッと入る、差すのである。基本は重心の低さであり、慌てない不動心なのである。この双葉山の「後の先」は大鵬にも見られた。相手の突進を受けて立ち、組み止める。
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