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内外行動日記です。blog復帰しました^ ^

巧の器具その1

2010-05-17 22:24:26 | 歯科臨床
私が日々歯科臨床で用いている道具を紹介したいと思います。
自分で言うのもおかしいもしれませんが、道具にはかなりのこだわりをもっているつもりです。

どんなこだわりかというと、以下の3つです。
1、仕事が速くできること
2、患者さんの負荷が軽減できること
3、構造がシンプルなこと
です。

写真はYDMの「オートマチックリムーバー」です。
主に「仮歯(テンポラリークラウン)」を外す時に用います。

今までは通常のリムーバーを用いていましたが、これを用いるようになってから、
TEKを外す時間が短縮され、外すのが楽しくなりました。
・・・・少し言い過ぎたかもしれませんが(^^;

通常のリムーバーは定価で5000円程度
オートマチックリムーバーは定価で36000円程度
この価格の差で用いている歯科医院はかなり少ないはずです。

しかし、作業の効率化、負荷の軽減は術者のストレスも軽減させます。
テンポラリーをあまり作らない先生にはお勧めできませんが、
私は一日に数多くのプロビジョナルを作製しているため必要不可欠なのです。
そんなわかる人にはわかるちょっとマニアックでお勧めの巧の器具なのです。
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超弾性ファイルを用いた根管治療

2010-03-21 20:26:52 | 歯科臨床
歯内療法に、超弾性ファイルを用いる比率が格段に高くなりました。
写真で見ると「クネッ」と急激に彎曲しているのがわかります。
この、急激に曲がることができるのが超弾性ファイルの特徴です。
つまり、根管において、根管の本来の形態を壊すことなく、拡大形成が可能なのです。

歯内療法は、根管治療とも呼びますが、これは、大きく2つに分かれます。
1、抜髄
2、感染根管治療
この2つの処置は似ていますが、目的は全く異なります。

1の抜髄は、むし歯が、エナメル質(C1)→象牙質(C2)→歯髄(C3)と達し、歯髄に炎症が起きた状態に行う処置です。
目的は無髄の状態を作り、今後感染を起こさないように密封してあげることです。

2の感染根管治療は、図のようなファイルを用いて感染歯質(いわゆるむし歯)を徹底除去することが目的です。すると、根尖に起きた病巣も自然治癒力で治癒します。
そこに咬合が加わり、長期に渡りセメント質の肥厚を起こし、生理的な封鎖を目的とします。

感染歯質の除去方法ですが、
歯は、頭の部分の「歯冠」と根の部分の「歯根」に分かれます。
歯冠の部分のむし歯は直視が可能なため、機械的に除去することが多いです。
以前に「う窩処置」の部分で詳しく述べましたのでそちらを参考にすると良いでしょう。

しかし、歯の内部で感染が起こると、歯根の部分に、内面からむし歯ができます。
このむし歯は、直視が極めて困難です。勿論直視をすることも可能ですが、それは、マイクロスコープという顕微鏡を用いて治療を行います。これに関して述べると話がものすごく長くなりますので、マイクロスコープを用いた治療方法に関しては後日述べさせて頂きます。

つまり、通常では直視が困難なために、手指の感覚によるファイルを用いた感染歯質の除去が行われるわけです。
ファイルは以下の2つに分類されます。
1、ステンレスファイル
2、Ni-Tiファイル(超弾性ファイル)

リーマーを昔の先生はよく用いていましたが、リーマーの役割は、Kファイルの中に全て含まれるため、私はリーマーを用いることはありません。
昔の先生はリーマーとHファイルのコンビネーションが多かったイメージです。

私は、基本はKファイル(ジッペラー社、Kerr社、一部のみマニー、デンツプライ三金)
を用いています。
主力はジッペラー社のKファイルです。
ジッペラー社のKファイルは剛性に冨み、根管の走行や、根尖部1/2の形成に向いています。適度な彎曲を前もって付与(プレカーブの付与)することで、根尖部の微妙な彎曲に対応させます。このファイルは先端の切れ味が命なのです。

次にKerr社のファイルですが、そもそもKファイルの名前の由来はこのKerr社にあります。つまり、Kファイルの元祖がKerr社なのです。
Kerr社のファイルは私の個人的なお気に入りです。
今では用いている先生もめっきり少なくなりました。
なぜお気に入りなのか??というと、このファイル、折れないんです。
正確には、ねじれに極めて強いのです。
欠点としては、切れ味に難点があることですが(^^;
これが人気が無くなった理由でしょうか??

私はこれを、根管の探索に向いていますので、私は、♯06、♯08、♯10、♯15、♯20、♯25
♯30くらいまでを揃えています。
要は、根管長の測定に用いるのです。21ミリが最も多く用います。


マニー社のKファイルは♯20、♯25、♯30、♯35のみを用います。
マニー社のファイルはねじれに弱く、個人的には好んで用いないのですが、利点として、
とてもよく「しなる」のです。
つまり、形成された根管を「なぞる」のに適しています。

私の場合は、根管内に、次亜塩素酸Naを満たし、OSADA製エナックの根管治療ツールにマニー製のKファイルをとり付けています。
長さ、太さを調整してフレアー形成に用いるには良いファイルなのです。

と、各社のKファイルの特性について私の主観で勝手に述べさせて頂きました。
知らない人にはマニアックすぎて、ここまで読むことすら不可能でしょう。

これらの技法は、ものすごく熟練された手技です。
経験の浅い歯科医師が治療を行うと、時間がかかってしょうがないのでしょう。
私の場合は、歯医者になって一年目は、この根管治療の勉強に大半を費やしたほどです。
しかし、未だに極めていません。
これには理由があるのですが・・・。
これについては、マイクロスコープについて語る時に詳しく述べます。
とにかく、歯内療法は完璧にやろうと思うと、難しい治療です。
私の主観では、インプラントよりもはるかに難しいです。
特に大臼歯部の治療がはとても困難です。

そこで救世主となるのがNi-Ti ファイルです。
私は現在はプロテーパーと、プロテーパーリトリートメントを用いています。

クラウンダウン法で、根管を上部から安全に形成していきます。
従来のステップバック法や他の方法とは少し異なるのです。
目的は、
1、根管口のロート状拡大
2、根管上部1/2の形成
3、根管下部1/2の形成
です。
従来は、ゲーツのエンジンリーマーを用いて1、2の手技を行っていましたが、
プロテーパーではSxを用いるだけでこの1、と2、の動作が終了できます。
つまり、今までよりはるかに時間短縮され、かつ、制度が上がるのです。
これは、私が行おうと、経験の浅い先生が行おうとほぼ同じ時間と精度が得られます。

あとは、3を従来のKファイルを用いてステップバック法を行おうが、Ni-Tiファイルを用いてクラウンダウン法を行おうと自由です。

根管治療で最も時間がかかるのが上記の1と2なので、これが、1~5分でできるようになると、患者さん側も苦痛を大幅に軽減できるのです。
そして、従来では常識であったアピカルシートの形成は行いません。
こんな動作を行うから根尖から押し出して打診痛の原因を作るのです。

大切なのはファイルの形に根管を合わせることではなく、根管の形に沿ってファイルを合わせてあげることなのです。
そういう意味でNi-Ti ファイルは理に叶っています。

そして、アピカルシートを形成しない、適度なテーパーの付与された根管は、最終形成ファイルと全く同じ号数のメインポイントで根充を行う方法が現時点で最も速く正確であると思っています。
シングルポイント充填です。
根管充填も試行錯誤で色々と試しました。
・側方加圧
・垂直加圧
この垂直加圧が色々な方法が出ています。
オブチュレーション、オピアンキャリア法、JHキャリア、NTコンデンサ法、NTコンデンサ変法、サーマフィル法。
ここ最近はNi-Tiでの形成が増えたため、ちまちま積み立てる方法よりも、シンプルでかつ正確なシングルポイントによる根充が私の現時点での結論です。
そして、シーラーは用いたほうが良いでしょう。

ただただ、Ni-Tiファイルは、価格が高いのが難点なのです。
折れる危険を察知し、常に新しいものを用いるからです。
価格はステンレスファイルの5~8倍します。
新品に取り替える頻度はさらに5倍程度。
つまり、通常の20~40倍ものコストがかかってしまうのです。
保険の制度で行うと大赤字部門になってしまっているというのが悲しい現実なのです
(^^;






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欠損歯の治療を行う際に見る指標1 ~Eichnerの分類~

2010-03-20 07:35:25 | 歯科臨床
歯の治療を行う上で分類していることは以下の3つです。
1、一次医療(主に予防)
2、二次医療(補綴前処置)
3、三次医療(補綴)

基本は補綴前処置(むし歯、歯周病、その他)が終わると、欠損している部位に歯を入れる補綴治療に移行するわけです。

この補綴設計をする際に指標の一つとして多く用いられるのがこのEichnerの分類です。
ヒトは4つの咬合支持域を持っています。
(上下の大臼歯部、小臼歯部で2つ、左右あるので×2)
この支持域と欠損の状態から、
A1~A3
B1~B4
C1~C3 
と分類します。
A群:4つの咬合支持域に全て対合の接触があるものをA群
A1:上下の全歯が揃っているもの。理想的な状態。
A2:対顎に限局的な欠損があるもの。機能的にはほぼ問題なし。
A3:上下顎に欠損あり。 この場合はブリッジで行う場合が多い。無理にインプラントは必要無いか??

B群:対合の接触が1~3のもの。(支持域外の前歯部も含む)
B1:3つの支持域
B2:2つの支持域
B3:1つの支持域
B4:支持域外(前歯部)に支持域があるもの

C群:対合接触が全くないもの
C1:上下に残存歯あり
C2:片方は無歯顎、片方に残存歯あり
C3:上下無歯顎

当然のことながら、C→B→Aの順に重症なわけです。
CからB4あるいはB3へ、B3からB2へ、B2からB1へと持っていくのが欠損歯列の治療法です。理想はA群まで持って行きたいものですが(^^;
B1くらいがゴールになることも多々あります。
それは、このへんだと、入れ歯を装着すると、逆に不快になることが多いからです。
そんなに咬めないわけでもないので、義歯を作製しても、装着しない患者さんが多いのではないでしょうか??
ですが、ここから欠損が進行すると、急激に不便になるわけです。
臼歯部の支持はかみ合わせを決める最重要項目なのです。
ここに残存する歯の1本あたりの生命力を考慮し、補綴設計をします。
残存する歯をコントロールするのは歯周治療であり、むし歯の治療です。
ここでは、歯周病の項目で述べた。
1、Good
2、Guarded
3、Poor
4、Hopeless
の4つの項目から保存、抜歯の判定を行うわけです。

残存歯の処理(補綴前処置)が終わるといよいよ補綴設計に入ります。
補綴設計のツールは以下の4つです。
・インプラント
・ブリッジ
・義歯
・移植(時おり)

CからBへ、B4をB3へあるいはB2へと行う治療では現時点ではインプラントが最も効果が出やすいと言えます。
今度述べるKennedyの分類で言うⅠ級が難しいわけで、要するに、遊離端欠損の義歯はやはり安定度に欠けるといわざるを得ません。

これを中間欠損にするだけでも義歯の効果は大きく異なってきます。
最近はインプラントをそんなツールに用いています。
本数も少なく抑えることが出来るため、とても便利です。

建築と似ていると思うのは、基本設計をしっかりと行うことです。
建築と異なる点は、生物学であることです。
つまり、「柱」である歯や周囲の歯肉が炎症を起こしたりするため、設計の変更を余儀なくされることがあるのです。

「炎症のコントロール」

これが補綴前処置における最大のポイントと言えます。
そのために活躍するのは歯科医師よりも歯科衛生士の役割が大きくなることが多いのです。

歯科医師を術者とすると、患者さんと術者は目線が異なるものです。
そこの橋渡しをしてくれるのが歯科衛生士さんなのです。
術者側、患者側、両方の視線から両者をサポートします。
歯科衛生士は歯科治療におけるハイブリッドな役割を果たしてくれるのです。



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歯科の分野3 ~歯周治療~

2010-01-06 02:03:29 | 歯科臨床
久々にこっちの記事も更新してみようと思います。

・歯周治療

実は歯科の分野で最も奥が深い分野だと思います。
それは、この分野の習得が最も難しいと私は考えているからです。
とにかく奥が深い。
この分野は幅広い科学的論拠に基づいた知識の習得と、オールマイティーな技術の習得が不可欠だからです。
補綴は、経験論が多いのに対し、歯周病の治療はランダム化された多数のデータによる科学的論拠が重要だからです。
全てを語ると本が1冊書けるくらいの大容量なので、治療内容について簡単に記載してみようと思います。

まず、歯科治療の内容の基本は以下の3本柱です。
①一次医療(予防)・・Sc、PMTC、等
②二次医療(治療)・・むし歯、歯周病等の処置(悪いものを取る、簡単な修復)
③三次医療(機能回復)・・・・入れ歯、ブリッジ等の歯を入れる処置
ここに審美を入れ、4本柱で考える方法もあります。

簡略にまとめると
・一次医療は予防
・二次医療は補綴前処置
・三次医療は補綴です。

歯周治療をこの分野でどこに属するのか??
というと、一次医療の分野も、二次医療の分野にも属すると思っています。
それは、予防であり、かつ、補綴前処置である。ということです
歯周補綴なんて用語も使われていますので、補綴にも属するのでは?
とも思っています。

歯科の分野で比較的独立している、矯正治療も歯周治療の一環で行われることは非常に多いのです。
実際に歯周病の患者さんで、矯正治療が必要な方は多数です。
歯周治療は総合的な歯科治療そのものと言っても過言ではないと思っています。

歯周治療を簡単に分類すると、検査、基本治療、外科治療となります。
・歯周検査
歯周ポケット、出血、動揺度、PCR、細菌検査、CAL、分岐部病変の分類、付着歯肉の幅、など、多くのデータを採取します。

・歯周基本治療
ここがとても範囲が広く、動機付け、ブラッシング指導、スケーリング、ルートプレーニングの他にも、むし歯処置、歯内療法、咬合調整、保存不可能歯の抜歯、矯正治療、不良補綴物の除去、バイトアップ、急性炎症の除去、など。
とにかくここで歯科全体に及ぶ分野が登場します。
歯周基本治療はとても奥が深いのです。
つまり、ここでは歯科の全ての分野の知識、技術が必要不可欠なのです。

・歯周外科治療
歯周基本治療で治癒しない時、あるいは治癒が見込めない時でかつ、抜歯を行わない歯に適応する治療方法です。
①切除療法
②再生療法
③形成外科
と分けています。ここは後ほど詳しく記載したいと思います。

私の中でむし歯の治療や、予防、補綴治療は、ある程度の結論が出ているのに対し、歯周病の治療に関しては技術も知識もまだ習得中で完全な結論はまだ先になりそうです。ひたすら論文で良いデータの出た治療法を選択して行っていき、結果が悪い時はその原因を考察する。そして修正する。
歯医者さんに一生勉強が必要なのは、この歯周病の治療があるからだと思います。いかにして歯を保存させるか??機能させるか??長く持たせるか??
は、論文による科学的論拠と実際の経験をふまえ、仕事を続ける限り研究していかなくてはいけないのだと思います。
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ラバーダム防湿法3

2009-12-02 16:21:07 | 歯科臨床
1でクランプのかけ方。
2でむし歯の処置について記載しました。
今回は隣接面の歯冠修復について述べたいと思います。

むし歯の処置→修復の流れですが、
1、むし歯の除去、歯髄の保護
2、人工エナメル質の付与
3、防湿、複雑窩洞の単純化
3、歯冠修復
の流れで行います。
C2は、処置後に象牙質が露出します。
象牙質はエナメル質に比べ弱い組織なので人工的にエナメル質を補強してあげる必要があるのです。
今回はパナビアというフッ素徐放性のあるレジンセメントを用いました。
その後は象牙質色、をフローで、エナメル色をペーストで築成していくと完成です。

この治療で最も難しいのは何と言おうと防湿がしっかりできるかどうか?なのです。
ラバーが歯肉溝にしっかりと食い込まないと防湿はできません。
防湿が完全だと歯が乾くため、色が微妙に変化します。
なので、色あわせも非常に難しいのです。

パロデントという特殊なクランプをかけ、隣接面にコンタクトを付与します。
このコンタクトの付与も難しい操作です。
この特殊クランプで歯間離開を行うのですが、強すぎだと歯周靭帯への影響、弱すぎだと隙間ができます。
程よい離開ができてはじめで単純化できるのです。

ここまでが、わりと複雑な過程で、あとの修復はそんなに難しいものではありません。
この操作が難しいので、インレーによる間接法が多いのです。
この操作は、ラバーダムが出来ない時は行いません。
それは、隣接面の封鎖が不可能だからです。

『処置よりも前処置』

歯科の分野に関わらず、すべての分野に共通することだと思います。
綿密な基本設計なしに完成度の高い工程は不可能なのです。



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親知らずが痛い時

2009-11-21 16:32:21 | 歯科臨床
『親知らず』
という用語を誰もが聞いたことがあると思います。
別名は『智歯』前から数えて8番めの歯になります。

この手前の7番目の歯(第二大臼歯)は12歳を目安に生えてくるのに対し、
8番目の親知らずは、20歳前後を目安に生えてきます。
つまり、20歳代の数多くの方がこの『親知らず』との戦いが起こっているのです。

写真を見ると歯が横を向いているのが見えますが、これは、親知らずが生えきれずに生えてくる前に手前の7番にぶつかって止まってしまったためです。
なぜこのような現象が起きてしまうのでしょうか。

人類の発生から進化を考えてみると、アウストラロピテクス、北京原人、と呼ばれる原始の人々の顎は大きく、発達していました。
一方で比べて現代人の顎が小さいのは周知の事実かと思います。
しかし、現代人のほうが食生活は豊かで歯も大きい傾向があるようです。

つまり、昔の人は顎が大きく歯が小さい。
    現代人は顎が小さく歯が大きい。
特に女性のほうが男性に比べ、この傾向は大きいかと思われます。

顎が小さく歯が大きいのですから、当然歯の生えるスペースは狭くなります。
成長も20歳前後で止まるため、歯が生えきれずに横を向いて止まってしまうのです。

これによって痛み、腫れ、顎関節への影響、下歯槽管への影響、等
いわゆる親知らず(智歯)が原因で様々な影響が出るようになってきました。

その一つが写真の○で囲った部分の炎症『智歯周囲炎』です。
私は24歳の時にこの症状が起こり、智歯を4本、母校の大学の恩師の教授に抜歯してもらいました。

上顎は直ぐに治癒しましたが、下顎は治癒に時間がかかりました。
下顎のほうが骨が堅く治癒には時間がかかるため、腫れも起こりますし、痛みも出やすいのです。

この親知らずですが、痛み、腫れが出ない場合も多く、その場合は無理に抜く必要は無いと考えています。
触らぬ神に・・・・といった考えで(^^;

抜く時は条件があります。
・痛み、腫れが出た時
・口が開かなくなった時
・手前の歯『7番』に悪影響が出る時
・周囲の顎骨に悪影響が出る時
・親知らず自体が虫歯になってしまった時
・etc
です。
要するに、親知らずが他の組織に悪影響が出す時は抜歯するわけです。

しかし、抜歯には危険が伴います。
その中で最も恐れているのが、上顎では鼻腔、下顎では下歯槽管への影響です。
これは、インプラントも同じことが言えます。

特に下顎で、下歯槽管を損傷すると、そこには動脈、静脈、神経が3セット入っていますので、大量出血、神経麻痺等のトラブルの危険性があるわけです。

ですので、私は智歯抜歯を行う際には必ずレベル分けを5段階で行いレベル4までは抜歯し、レベル5については大学病院に紹介するようにしています。
・レベル1:単純抜歯(残根含む)
・レベル2:横を向いているが、切開、剥離を行わず、歯の分割だけで可能なもの
・レベル3:粘膜の切開、剥離が必要でさらに骨削合、歯の分割が必要なもの
・レベル4:上記に加え、さらに歯根の分割、または完全水平埋伏歯
・レベル5:歯が下を向いていたり、下歯槽管に影響が出そうなもの。アンキローシス

これらはあくまで、患者さんとラポールがとれており、かつ、全身疾患の問題がクリアできている20~30歳代の場合に限ります。

というのも年齢が40歳代を越えると骨質も堅く『しなり』が無くなり、通常の抜歯も困難になるケースが増えるからです。

抜歯は慣れると誰でも出来ますが、落とし穴のある手術なのです。

よくインターネットで親知らずを放置すると大変なことになります。
と脅かすような記載を見ますが、最も大切なことは、
・手前の歯へ影響が出るか?
・歯の周囲に影響が出るか?
なのです。

無理に抜く必要は決して無いのです。


      


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ラバーダム防湿法2 ( う窩処置 )

2009-11-03 02:21:18 | 歯科臨床
前回記載したラバーダム防湿法ですが、その応用例を1例紹介します。
今回はむし歯の除去方法について記載したいと思います。
歯医者さんにとって最も基本であることですが、基本すぎるゆえに軽視されている分野でもあります。

写真は5番(下顎右側第二小臼歯)の遠心隣接面のカリエス(むし歯)です。
ラバーダム防湿を行うことのメリットは
・術野が明確になる
・唾液による窩洞の汚染を防ぐ
ことです。

歯は構造上、『エナメル質』→『象牙質』→『歯髄』の順です。
           C1       C2     C3
エナメル質のカリエスが C1
象牙質のカリエスが   C2
歯髄に達するカリエスが C3
と、歯科検診では構造上の分類でむし歯を診断することが多いです。
今回は象牙質のカリエス(C2)が対象になります。

エナメル質は人体でも最も硬い組織です。この組織はいわゆる『バリア』なのです。ですのでC1はあまり氣にはなりません。
しかし、エナメル質と象牙質の境い目『エナメル象牙境』よりむし歯は急激に広がりを持つのです。


エナメル質は硬い組織で痛みもほとんど感じませんのでタービンで除去します。
問題が『象牙質』です。
象牙質のむし歯は
・多菌層
・寡菌層
・先駆菌層
ここまでが『う蝕象牙質第一層』
・混濁層
・透明層
・生活反応層
ここまでが『う蝕象牙質第二層』
とあります。
第一層は細菌感染しており、第二層は細菌感染がなく、痛みを感じる
そのため学術的には第一層(多菌層、寡菌層、先駆菌層)
までを除去する必要があります。

私のやり方は、以前はADゲルでカリエスを軟化し、手用のスプーンエキスカでみみかきのようにカリカリと削る方法を行っていました。
エキスカはすぐ切れなくなります。
切れないエキスカは使っても全く削れず、余分な力が加わり患者さんが苦痛を訴えやすくなります。
そういう時、エキスカの刃部を茶色のシリコンポイントで研磨するのです。
するとエキスカは再び切れ味を取り戻し、虫歯の除去が容易になります。
これは、スケーラーのシャープニングと同じ要領です。

現在では、エキスカよりも、PMTC用のハンディコントラを用いて新鮮な良く切れるラウンドバーを用い、超低速回転で(回転が目で見えるくらい)トルクをコントロールしながらむし歯を取っています。80%以上の方が無麻酔です。
むし歯の処置方法は色々と行ってきましたが、この方法が私の中では最も術中、術後の苦痛が少なく、かつむし歯の取り残しが少ないと思っています。

このむし歯を取る治療こそが、歯医者さんの基本中の基本であり、かつ最も難しい治療のひとつだと考えています。
私の治療で時間の計算が立てにくいのがこのむし歯を取る治療です。
麻酔を行い、タービンで除去してしまえば20秒で終わるような処置です。
しかし、長期的予後を考え歯髄を保護し、歯の切削を最小限に、かつ苦痛を与えないように行うことは至難なことなのです。
上記のやり方で10~20分近くはかけないと、むし歯を取り除き、予後を安定させることは難しいと思います。

冒頭で、基本中の基本ゆえに軽視されていると述べましたが、今の歯科雑誌でむし歯の処置方法を記載している歯医者さんが本当に少ないのです。

歯周外科、再生療法、インプラント、矯正、審美、
歯科の分野は華やかな分野が多数存在します。
が、その前に何よりもこの『むし歯』の治療を基本から徹底的に学び、技術を習得する必要があるのです。
若手歯科医師は、専門分野だの言う前に、しっかりと基本を抑えなくてはいけないのです。

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生物学的幅径(Biologic Width)

2009-10-12 21:54:10 | 歯科臨床
以前、『矯正的挺出術』の部分で、生物学的幅径を回復させることが目的と述べましたが、ある患者さんより、「生物学的幅径」って何??って質問を頂きました。
よく考えてみると、歯医者さん向けでわかりづらかったですよね(^^;

生物学的幅径(Biologic Width)とは、ひと言でいうと、
「骨を基準に見た歯と歯ぐきの付着の一定の幅」
のことです。それらは常に決まった幅を持っています。

詳しくは以下に記載します。

写真は、歯と歯周組織(歯槽骨、歯根膜、歯肉)の断面です。
歯は歯槽骨という骨に埋まっており、それを覆うように歯肉(歯ぐき)が存在します。
sulcus (歯肉溝)で、0.69ミリの幅
epithelial attachment (上皮性付着) が0.97ミリの幅
connective tissue attachment (結合組織性付着)が1.07ミリの幅
上皮性付着はヘミデスモゾームにて結合されています。

つまり、生物学的幅径(Biologic Width)は、
0.97 + 1.07 = 2.04ミリ
の幅があることを示します。
ただ、臨床的にはどちらも1.0ミリで扱いますので、2.0ミリです。

なぜsulcus(歯肉溝)が含まれないかというと、頬舌側、近遠心側で幅が違うからです。頬舌的に幅は狭く、近遠心的に幅が広いため、0.69ミリなんて幅だけをを覚えても、全く意味が無いのです。
これは 補綴を行う際に、マージンがScallop形態をとる理由です。

この幅がどんな意味があるのか?

それは、生体は、この幅を保とうとするため、歯垢や歯石が原因で歯ぐきが腫れてくると、骨は幅を保つため、溶ける(吸収する)わけです。
だから歯周病になると
骨が無くなる → 歯ぐきが下がる → 歯が揺れる → 抜ける
といった一連の流れになるわけです。
よく、歯周病は、歯ぐきの病気だと思われやすいですが、歯周病は、生物学的幅径を確保するために、骨が無くなることなので、れっきとした『骨の病気』なのです。

写真は「入門・自家歯牙移植―理論と臨床―」『下地 勲 著』 より



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移植 vs インプラント

2009-10-05 22:37:51 | 歯科臨床

歯が欠損すると治療の幅が驚くほど複雑になります。

ブリッジ、義歯、インプラント、移植

それぞれの利点、欠点をふまえ、個々のニーズに合った最適な治療方針を選択していかなくてはいけません。

今回は移植について記載してみたいと思います。
移植の利点は何と言おうと、歯根膜が存在しているため、術式が成功すれば自分の歯のように咬むことができることです。
上手に出来れば素晴らしい治療方法と思います。
しかし、欠点として、術式が難しいことが挙げられます。

形が規格化されたインプラントと違い、移植するべきドナーの歯の条件と、欠損部位の条件の両方を揃えるのが難しいからです。

歯の形はそれぞれ異なります。
また、歯を抜く時も歯根膜を損傷しないよう注意が必要です。

歯を抜く前に、ドナー歯に矯正的な力を加えてあげると歯根膜がたわみ、より強固な癒着が得やすくなります。
なので、ドナー歯には以前より色々とストレスをかけてあげるといいのです。
いわゆる矯正移植です。

写真のドナー歯は、残念ながら移植に適したドナーとは言えませんでした。
しかし、抜歯した穴を丁寧に形成し、移植した後に要固定してあげることで治癒し、歯として機能させることができました。
歯根膜の持つ機能は本当に素晴らしいものがあります。

私の移植とインプラントの選択基準は、抜歯した直後かそうでないか。です。
抜歯した直後でドナー歯がある場合、移植が第一選択にしています。

そうでない欠損顎堤にはインプラントが適していると思います。
欠損顎堤への移植は、骨を大幅に削る可能性があるため術者としては気が向かないのです。

どちらの手技も外科ですので、外科処置を嫌う患者さんには迷わずブリッジか入れ歯をススめています。

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Evidence based

2009-09-30 02:05:08 | 歯科臨床
さて、先日の9月26日、27日の土曜日、日曜日は、「E.P.I.C」という研修会に参加してきました。
約1年間に渡り、前半は歯周病を、後半はインプラントの研修を行います。
特に歯周病の治療は、これからの歯科治療の要となるに違いないでしょう。

そもそも「E.P.I.C」とは、
、Evidence based Periodontology & Implantology
の略です。

この『 Evidence based 』、がキーワードなわけですが、
この用語は「科学的論拠に基づいた」という意味で、学生の時から散々に聞かされてきたものです。

先人達は様々な医療を実行し、成功、失敗を繰り返してきました。
これらの「成功」は繰り返すべきで、「失敗」は繰り返すべきではないのです。
これらの経験は、海外に、「論文」として記録されています。
この論文を熟読し、確かな知識を身につけた上で経験を積みましょうといった内容なのでしょう。

そもそも「Evidence based~」なんて言われるようになったのは、物事を学ぶ上で経験、特に失敗経験を通して学ぶことが多いのはご存知のことです。
失敗は成功の素なんて言葉があるくらいですので。
今までの医療人は根拠ではなく、経験に基づき成長してきたといえます。
しかし、これからの医療人は、失敗が許されないということが言えます。
少なくとも先人と同じ失敗は繰り返してはいけないのです。
「失敗経験は、あらかじめ知識として詰め込み、その上で、成功の確率の高い治療法を選択して行い、経験を積み成長しなさい。治療とは技術、芸術も大事だが、根底にあるのは「科学」なのだ。」
という解釈をしています。

論文を読むことと、読む以前に訳すこと。
この感覚は懐かしいものがあります。


さてさて、アメリカ歯周病学会の専門医のお話によると、今のアメリカでの歯周病の治療は、歯を残す時とはを抜く時がかなりはっきりしており、
・残すなら残す。
・抜くなら抜く。
・抜いたらインプラント

そんな流れが強く、インプラントが完全に主流になってきているとのことです。

アメリカは主治医と専門医によりチーム診療を行いますが、主治医より依頼を受けた専門医は、治療に期間を長くかけられないようです。
それは、専門医は主治医に患者さんを戻さなくてはいけないため、治療が長引くわけにはいかないのだと思います。
 重度歯周病などは、治癒させるのに1年~3年以上かかることがあります。要は、医者~患者関係が長くなるわけです。
この、長い治療期間が、許されないため、重度歯周病でも、残るか残らないかわからない歯は抜歯してインプラントという短期決戦とならざるを得ないのでしょう。

歯を保存か、歯槽骨を保存かで選択する場合、歯槽骨を保存する傾向です。無理に歯を保存して、骨が吸収され、抜歯になった時の対応が大変になあるよりは、骨が残っているうちに抜歯して予知性の高いインプラントを入れましょう
ということです。

私はこれらの内容がどうしても納得できませんでした。
なぜなら、歯を挺出させ骨レベルを上げることと、義歯って単語が一度も出てこなかったからです。

インプラント、インプラント・・・・・って言ってる歯医者さんって正直好きにはなれないのです。
確かに40年以上の歴史が出来てきたため、手技も単純で、予知性が出てきました。
治療結果も良く、素晴らしい治療方法であり、私もこれからどんどん積極的に行っていく治療のひとつです。
私の処置方針では、欠損歯列はまずは義歯、それも健康保険の適応が第一選択です。
それで満足が得られない場合に、保険外の入れ歯やインプラントといった方法を提示するわけです。
智歯が移植に適しているならば、抜歯した直後であれば、歯の移植が第一選択です。
インプラントはあくまで最終手段として検討すべきなのです。

インプラントバブルと呼ばれている現在の歯科治療は、決して鵜呑みにしてはいけないのです。

「科学的根拠に基づく医学」
は大いに賛成です。
しかし、これらはあくまで優れた「医学」であり、優れた「医療」になるとは限らないと私は考えています。


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