産業道路沿いに貸家らしき二戸一の平屋建てが数軒、今でもある。
各入居区分には庭が付いており、それは産業道路に面した玄関前から始まり家の側面に添って奥まで伸びるL字形になっていた。
家々には塀も垣根も門柱も無く、通勤バスの中からも各家の庭を見ることができたのである。
その中に彼女の庭はあった。
どの家も洗濯物を干せる場所は庭しかないようだったし、余ったスペースは自転車や単車などの置き場にしている家が大半だった。
しかし彼女はL字形の、長いI字部分の家の壁ぎりぎりに沿って物干竿を設置すると他は通路と植栽スペースにする事を選んだようだった。
植えられているのはありふれた花と野菜で、たとえば花なら朝顔とかノースポール、ビオラにチューリップ、ヒマワリ。野菜はエンドウらしきものにネギ、大根もあったと思う。
園芸をやっていると飢餓感のようなものが出てきて『アレもコレも』欲しいという園芸袋小路にはまりこんでしまいがちだ。
だが彼女の庭は『お花が好き!』と言っていた女の子が大人になってすぐ作ったお花畑みたいな感じがして、その分かりやすさを私は非常に好ましく思ったものだった。
洗濯物や布団を干してある脇の丹念に育てられた花や野菜。その庭のそんな光景を通りすがりに眺めるのは通勤時の楽しみだった。が、彼女の一家はどこかへ引っ越してしまい、次の入居人はあのL字形の庭をコンクリ固めにしてしまったのだった ・・・
でも、と思う。彼女は引っ越し先の新しいスペースに彼女の庭を再生しているだろうと。
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