毎年冬至の日に生まれた人たちが、冬至の日に集まる謎の団体がある。勿論年によって冬至の日は異なるので、皆誕生日が同じという訳でもない。ゆず湯に入り、カボチャのスープを飲み、かぼちゃのおかゆを食べる。ただそれだけの集まりであり、全国にある冬至神社にお参り行く。研究者によると、あらゆる生命が、またこの冬至の日から復活するそうだ。これからどんどん日が長くなることをお祝いする、太陽に地球に大自然に改めて感謝する。そういう意味があるらしい。クリスマスも起源は冬至祭(ユール)なのだそうだ。
「美紗子、俺に世界冬至の会から招待状が届いた。」
「ええっ何それ?冬至の会?始めて聞くわ」
「俺が生まれた日は冬至だったんだ。今まで日本の冬至の会に招待されていろいろな冬至神社に行って来たが今年は世界大会だ。今年はノルウェーで開催される。これは超極秘事項らしい、だから誰にも話してはいけない。」
「私に話してもいいの」
「俺たちは結婚するんだから、それに冬至の頃にはもう夫婦じゃないか、と言うことは一緒に行くことになる」
「私も行かないと行けないの?ただ、かぼちゃを食べるだけなんでしょ」
「いや世界大会は何が起きるかわからない。ひょっとして命の危険があるかもしれない。実は夏至の会が戦いを挑んで来ると言う噂もある。」
「あなた、それ真面目な話。何で冬至の会が夏至の会に狙われるわけ?それに夏至の会も聞いた事がないわ」
「今、世界を動かしているのは世界冬至の会のメンバーなんだ。金融から石油メジャー、軍需産業まで、俺たちが動かしている」
「あなたはただの神奈川県庁の職員でしょ、お母様があなたを紹介して下さったのも、一番安定しているって」
「表向きは公務員が一番怪しまられない。これだけはやっぱり結婚前に言っておこうと思って、ひょっとして君もこれから多分生まれてくる俺たちの子供達も、君のご両親だって危険な目に遭うかもしれない」
「本当なの?」
「ああ、本当だよ。誰にも話してはいけないよ。家族にも内緒だよ。でないと命を狙われるかもしれない」
「どうしたの美紗子、元気ないわね」
あの日以来美紗子は、本当に彼と結婚すべきかどうか悩んでいる。今の彼は母が紹介してくれた。この人なら大丈夫だと、今まで家に連れてきたボーイフレンドは、みんな母に見切られてしまった。やれ自分勝手よとか、マザコンだわとか、冷静に見れば確かに当たっているかもしれない。
「もうすぐ結婚式でしょ?や~ね、ひょっとしてマリッジブルー?」
「何故彼を紹介してくれたの、確かに彼は優しくて公務員で安定しているし、結婚相手としては最高だわ。でも、、、」
「あなた、それがつまらないって、この間言っていたわね?007の様な刺激的な男性がいいって」
確かにそんな事を言ってたけど、実際に彼が危険な世界冬至の会のメンバーになるなんて。
結婚式の当日、美紗子は朝から、まだ悩んでいた。
「美紗子、いいんだね俺で、これからの難局を二人で生きて行こう」
「美紗子、幸せに!」母が言った。
美紗子は泣きながら「うん」と言ってうなづいた。
「美紗子、俺は世界冬至の会のメンバーなんかじゃない。ただの平凡な公務員だよ。今まで嘘ついていてごめん。何しろ君のお母さんが、俺があまりに平凡過ぎて、俺との結婚を悩んでいるって言うから、ちょっと嘘をついた」
「ええっ、嘘だったの?」
「命の危険まであるのに、俺を選んでくれてありがとう」
「そうよ、やっぱり美紗子は彼を心から愛しているのよ」
私は何が何だか?わからないまま、結婚式が終了した。何故、母は私が独り言の様につぶやいた平凡過ぎる男でつまらないって言ったのを知っていたのか?そもそも母と彼の関係は?そういえば母の誕生日も冬至の日だけど?そういえば、母は冬至の日にはいつも日本にいないけど?