◎千一夜物語 その9 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(6)
★ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(第807-814夜)(「完訳 千一夜物語10」、岩波文庫)
●「ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語」(第812夜)より
この幸福な生活が6か月続くと、フサイン王子は心配しているにちがいない父君にお目にかかりたい激しい望みを覚えました。妻の魔女に心中を打ち明けますと、妻ははじめは、それは自分を棄てる口実ではないかと恐れたのでした。
「けれども今はわたくしは、あなたの愛情を深く信じ、あなたの愛情の揺るぎなさとお言葉の真実を固く信用しますので、父君の帝王にお目にかかりにいらっしゃるのを、お断りしたくはございません。けれどもそれには、お留守があまり長い間にわたらないようにしていただきたいのです」
「私は留守が長くないことを、我が頭にかけて誓います。私はいつもあなたのことを思っていますから」
「それでは、いとしい方よ、行っていらっしゃいませ。ちょっと御注意申し上げるのを、どうぞ悪くお思いにならないで下さい。第一に、わたくしたちの結婚のこと、わたくしの魔神の王女という身分のこと、わたくしたちの住んでいる場所、ここに来る道、そういうことはいっさい、父君の帝王にも、ご兄弟にも、お話しになることをお慎みにならなければいけないと思います」
魔女は夫に、立派な武装をし、立派な馬に乗り、立派な装備をした20人の魔神の騎兵を与え、王国の誰も持っていないほどの見事な馬を、曳いて来させました。王子はその馬に乗り出発しました。やがて王宮に着きますと、父王は、涙を流して、両腕のなかに王子をお迎えになりました
「…私は矢を探しはじめました。そして地平線をことごとく塞いでいる一列の岩山に行き着いたのを見て、もう自分の計画を放棄しようと覚悟しますと、突然、岩山の1つのちょうど麓に、自分の矢を認めたのでした。この発見は、非常な困惑に投じました。私は道理として、こんなに遠くまで矢を射ることができようとは、到底思えなかったからです。
私はこの不可思議と、サマルカンド旅行の際我が身に起こった一切とが、釈然とわかったのでございます。けれども、これは我が誓いを破ることなくしては、お打ち明けできない秘密です。…。私の消息を得ることのできる場所については、なにとぞ明かすのをご容赦下さいませ」
「お前は好きなときに、お前の住んでいる歓びの住居に戻るがよい。ただ、わしにも、同様にひとつの約束をしてもらいたい。それは、毎月1度はわしに会いに帰ってきてくれるということじゃ」
フサイン王子は、お言葉承りかしこまった旨お答え申し、仰せの誓いを立てて、まる3日のあいだ王宮に止まり、その上で父君にお暇を乞い、4日目の朝、来たときと同じように、魔神の子らの騎兵の先頭に立って、出発いたしました…
…ここまで話した時、シャハラザードは朝の光が射してくるのを見て、慎ましく、口をつぐんだ
★ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(第807-814夜)(「完訳 千一夜物語10」、岩波文庫)
●「ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語」(第812夜)より
この幸福な生活が6か月続くと、フサイン王子は心配しているにちがいない父君にお目にかかりたい激しい望みを覚えました。妻の魔女に心中を打ち明けますと、妻ははじめは、それは自分を棄てる口実ではないかと恐れたのでした。
「けれども今はわたくしは、あなたの愛情を深く信じ、あなたの愛情の揺るぎなさとお言葉の真実を固く信用しますので、父君の帝王にお目にかかりにいらっしゃるのを、お断りしたくはございません。けれどもそれには、お留守があまり長い間にわたらないようにしていただきたいのです」
「私は留守が長くないことを、我が頭にかけて誓います。私はいつもあなたのことを思っていますから」
「それでは、いとしい方よ、行っていらっしゃいませ。ちょっと御注意申し上げるのを、どうぞ悪くお思いにならないで下さい。第一に、わたくしたちの結婚のこと、わたくしの魔神の王女という身分のこと、わたくしたちの住んでいる場所、ここに来る道、そういうことはいっさい、父君の帝王にも、ご兄弟にも、お話しになることをお慎みにならなければいけないと思います」
魔女は夫に、立派な武装をし、立派な馬に乗り、立派な装備をした20人の魔神の騎兵を与え、王国の誰も持っていないほどの見事な馬を、曳いて来させました。王子はその馬に乗り出発しました。やがて王宮に着きますと、父王は、涙を流して、両腕のなかに王子をお迎えになりました
「…私は矢を探しはじめました。そして地平線をことごとく塞いでいる一列の岩山に行き着いたのを見て、もう自分の計画を放棄しようと覚悟しますと、突然、岩山の1つのちょうど麓に、自分の矢を認めたのでした。この発見は、非常な困惑に投じました。私は道理として、こんなに遠くまで矢を射ることができようとは、到底思えなかったからです。
私はこの不可思議と、サマルカンド旅行の際我が身に起こった一切とが、釈然とわかったのでございます。けれども、これは我が誓いを破ることなくしては、お打ち明けできない秘密です。…。私の消息を得ることのできる場所については、なにとぞ明かすのをご容赦下さいませ」
「お前は好きなときに、お前の住んでいる歓びの住居に戻るがよい。ただ、わしにも、同様にひとつの約束をしてもらいたい。それは、毎月1度はわしに会いに帰ってきてくれるということじゃ」
フサイン王子は、お言葉承りかしこまった旨お答え申し、仰せの誓いを立てて、まる3日のあいだ王宮に止まり、その上で父君にお暇を乞い、4日目の朝、来たときと同じように、魔神の子らの騎兵の先頭に立って、出発いたしました…
…ここまで話した時、シャハラザードは朝の光が射してくるのを見て、慎ましく、口をつぐんだ