心を込めて

心の庵「偶垂ら庵」
ありのままを吐き出して 私の物語を紡ぎ直す

飴釉のマグカップ

2022-03-26 21:29:41 | かなしい記憶

母に愛してほしかった私は母にプレゼントを贈ったことがある。お小遣いは支給されなかったしお年玉は搾取の家だったのでお金はないが、何とか気を引きたかったのだ。祖母に貰ったティッシュに包んだ千円札があった、肩たたき券でははなく買ったものをプレゼントしたかった。母が喜ぶ好きなものをと考え抜いて、コーヒーが好きな母の為にマグカップにすることにした。

街に家族で買い物に行った時、店内で別行動を取りリサーチした、ヨークベニマルの食器売り場なのだから実用重視なものしかなかったが、温かみのある手触りの良い飴釉のマグカップがいいと思った。内側まで釉薬がかかっていて素敵だった、きっと喜んでくれる、素敵なものが見つかってよかった。母が仕事で居ない日を狙って自転車で一人で買い物に出かけた、「リボンをかけてください」と店員さんにお願いする自分は大人な気分がした。

満を持して渡した贈り物は、包装されリボンをかけられ立派に見えた、母も妹も目を見張っていた。そうして開封され贈り物を手に取った母はこう言った「何なのこんな茶色のマグカップ」「中まで茶色だからコーヒーの色が判らないじゃない」「内側が白くて中身がみえるカップが好きだ」「こんなもの」。もうこの時点では諦めもついていたが、哀しくないわけではなかった。泣きたかった。骨を折り、母の為に努力した自分を、その積み重ねを、私の捧げる愛と時間と真心を慮って欲しかった。たとえ意に添わないプレゼントだったとしても。

母の肩越しに妹がこちらを見ていた、情けない姿は晒せなかった。何よりも母をめぐって最大の敵なのだから、強がっておどけて見せる以外にどんな方法があっただろうか。心では身を震わせ泣いていても、上辺では強がる方が楽だった、自分なんか簡単に騙せると感じていた。


コメント    この記事についてブログを書く
« 美しいレースを | トップ | あなただけ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

かなしい記憶」カテゴリの最新記事