祖母へのプレゼント

「『基礎からわかる数学入門』を借りてきた」
「何です？今から大学受けなおすんですか？」
「興味もなく役にも立たないただ覚えるだけの勉強はもう充分だ。今の俺を勉学の道へと突き動かすのは純粋な好奇心、そして探究心。わかる？」
「また頭のネジが外れましたか。で、勉強してるんですか？」
「読み始めてまだ一日だけど、頭が良くなった気がする」
「台詞が馬鹿っぽいです。自己満足は構いませんが、明日は敬老の日ですよ。いつまでもあると思うな親と金。引いては親の親、つまりは貴方のおばあちゃんに労いの意をみせなければいけません。準備はしていますか？」
「母の日もそうだが家族に感謝するのは当然の事で、わざわざ何かするというのは正しくないと思う」
「感謝の意を常日頃持つのは当然ですがそれを行動で示すのは気恥かしい。だからこそその機会として記念日がある訳です。屁理屈をおっしゃってないで準備です」
「心がこもってればプレゼントなんて何でもいいよね」
「その通りですがその言い方には心と言うより悪意がこもっているように聞こえます。別に形あるものでなくてもいいではないですか。お食事に連れて行くとかどうです？」
「母さんが今日どこかへ食べに行くって言ってたから二番煎じになる。肩たたき券とかどうだ」
「あんた何歳？マッサージチェアとか言ってくださいよせめて」
「冗談だ。椅子と言えば、ばあちゃんは膝が痛くて座るの大変なようだな。座る時に膝が痛くない椅子ってあったよね」
「ありますね。あれいいかもしれません」
「いくら位するんだろう？」
「さて？」
「ネットで調べてみるか。なんて検索しよう。『高齢者』、『座る用の椅子』と」
「座らない用の椅子なんてありますか」
「細かい事はいいんだよ。あ、出た」
「そのワードで出るんですね。どれどれ・・・」
「・・・高いぞ？」
「品質がしっかりしてないといけない分値段も張るんですかね」
「にしてもこれはないわぁ・・・。値段聞いたらばあちゃん引くって」
「探す場所が悪いんですよ。素直にAmazon探しましょ」
「うん・・・ああ、こっちはいいのあるな。5,000円位と手頃だ」
「レビューを読むと心配ですね。少し品質に難ありかもしれません」
「ん～実物見た方が早いな。明日ホームセンターに行こう」
「それもよろしいですね。家具は一度実物を見てから買った方が安心です。何より敬老の日当日にプレゼントを渡せる。これ重要」
「ついでに俺の読書用椅子も品定めしてこよう」
「まだ探してたんですか。いいじゃないですか部屋の隅にあるあの椅子で」
「理想はハンモックなんだよ。座ってるだけでα波が出るようなリラックスできる椅子が欲しい」
「ハンモックが椅子に分類されるかどうかはさておき、明日は自分の椅子探しが主眼にならないか心配です」
「わきまえる所はわきまえるよ俺は」
「それはわかります。だからこそ彼女もいないんですよね」
「関係ねー事言うな」
「ありますよ。おばあちゃんが喜ぶ一番のプレゼント、それは新しい家族です！」
「あ～あ～聞こえない」
「いい年なんだから彼女さんを作れと言っているのですよ！」
「うん、うん、うん」
「何ですかそのリアクション」
「うん、うん、うん」
「ちょっと、ゆっくりフェードアウトしないでください」
「うん、うん・・・うん」
「おーい」
「ぅｎ・・・」