「叶えてしんぜよう・・・叶えてしんぜよう・・・」ガサガサ
「何やってるんですか」
「おう。今オブジェを作ってんだ。夏祭りの歩行者天国で飾るやつ」
「シーズン近いですからね。それは短冊ですか?」
「そう。俺が所属してる団体のみんなで願い事を書いてね。本体にくっつける訳。だからこうやって糊付けしてるの」
「文章だといまいち伝わりませんが、とりあえずそうなんですね」
「100枚くらいあるから、地道にやっております。あ、手伝ってくれるの?ありがとう」
「いえ、すぐ帰りますよ」
「なんだ。何しにきたんだ」
「変な声が聞こえてきたんですもの。叶えてしんぜようとかなんとか」
「あ、聞こえてた?」
「自分で意識してるよりでかい声で独り言つぶやいてますからね貴方。で何してたんですか?」
「いやぁ、淡々と作業するのも暇じゃない?ちょっと遊びを取り入れた。名付けて神様ごっこ」
「一応中身聞いときます」
「今から俺は全知全能の神様です」
「・・・一口目で食通気味」
「こうさ、短冊に願い事が書かれてるじゃん?例えばこれ。『消防士になりたい』」
「こどもらしい夢ですね」
「ふむ・・・叶えてしんぜよう」
「・・・」
「と言いながら短冊を糊付けする。あたかも俺が願いを叶える超越した存在かのように振舞いながら、願いを取捨選別する設定だ」
「・・・ではこの願いはどうです?『英語を喋れるようになりたい』」
「ふむ・・・叶えてしんぜよう」ペタペタ
「『クラゲになりたい』」
「叶えてしんぜよう」
「叶えちゃいかんでしょ」
「何だその願い」
「知りませんよただ書いてあったんです」
「次」
「家族みんな健康でありますように」
「ふむふむ、叶えてしんぜよう」
「水泳25m泳げるようになりたい」
「俺は1㎞泳げるけどな!」
「張り合うな」
「叶えてしんぜよう」
「着物の似合う人になりたい」
「叶えてしんぜよう」
「素敵な出会いがしたい」
「・・・叶えてしんぜよう」
「何ですかその間」
「男の字だよなそれ。ヤローの色恋沙汰を応援するのは気が進まない」
「別にいいじゃないですか。神様は平等であるべきです。次はストレートな願いですね。『金持ちになって女にもてたい』」
「なんと煩悩にまみれた願いよ・・・・叶えてしんぜよう」
「あ、叶えるんですね」
「他の神は知らんけど、俺は寛大な神だから」
「5行前の自分の言葉を読み返してください。次。『海外旅行に行きたい』」
「自分の金で行け」
「いきなり辛辣!なんか悪い琴線に触れたんですか?」
「なんというかね。ある程度金を積めばできる願い事って、神様に頼む系の願いじゃないと思うんだよね。持論ね。神持論」
「もう完全に神様目線で話してますね」
「やっぱり自分が努力して努力して、何とかなりそうでどうにもならない時。ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って、ピンチの連続。そんな時に神頼みするのがあるべき姿ってやつじゃないですか?」
「貴方の中の神様はウルトラマンですか?」
「よく通じたな」
「わからいでか」
「要は、七夕に書く願いは単なる神頼みの願望ではなく、各人の努力の指標であるべきなんだよ。いいこと言った俺」
「で、貴方の願いは何ですか?」
「『雨降れ』」
「これ以上ない神頼みですね」
「野菜苗が枯れるのじゃぁ・・・」
」
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