対話 「年末の雑談」

「おばんでーす」

「えっ、今来るの」

「年末ですしごあいさつに上がりました」

「年末も年末だよ？もう全国一律で年越準備の待機モードに入ってる時間だよ？今『笑ってはいけない』見てるんだから」

「あえてこのタイミングで来てみるのも面白いかなと」

「あえて過ぎるわ・・・。急用があるとか、そういうことじゃないのね？」

「全く」

「よし、帰れ」

「急かしますね」

「もう人と話するモードじゃないの。わかる？心静かにして年越しを迎えたいんだ」

「暇を持て余してるじゃないですか。どうせなら今年の振り返りでもしましょうよ」

「今年の振り返り、報告あります。三脚買いました。そして届きました」

「おお、かっこいい。いつ買ったんですか」

「１０日前」

「今年の振り返りにしてはえらい最近ですね」

「マンフロットって海外メーカーの三脚なんだけど、ネットで評判よかったからさ。小さくて便利。今度写真撮りに行くのが楽しみだ」

「バックもついてきたんですか？」

「そうそう。赤と白と黒のカラーリング。かっこいいでしょー」

「いいですね、消防団のハッピみたい」

「・・・ぁっ」

「ん？」

「・・・なんかそれにしか見えなくなった」

「あれ、なんか余計なこと言いました？かっこいいじゃないですか、消防団のハッピ」

「まぁ、そうだけど。『海外メーカーの三脚バック』と『消防団のハッピ』はかっこいいのベクトルが違うでしょ？君の表現はどうしてそうドライと言うか、現実に引き戻すようなあれなのかね」

「誉めてますよ？」

「バックの魅力だけで選んだわけじゃないから。軽さとか大きさとか、使いやすさで選んだから。そんでその期待に応えてるんですから。俺は満足ですヨ」

「自分に言い聞かせている感じがするんですが」

「本当本当。来年はこれでどんどん撮影してやる。酷使してやる」

「撮影と言えば、海撮りに行くって言ってましたよね。どうなりました？」

「行ってきたよ。１週間前」

「やっぱり最近ですね」

「撮ってきました冬の海」

「男一人で？」

「自殺願望者か何かに見られなかったか正直気になった」

「写真あります？」

「アップめんどいから２枚だけね」

「良い色出てますね。これ朝日ですか？」

「夕日。夕方行った。どんどん周囲が暗くなる中で写真撮るのって追いつめられる感じが堪らない」

「冬の海の夕方・・・寒くなかったですか？」

「糞寒かった」

「ですよね。ところで以前ウミネコとカモメの違いを見てくるって言ってましたよね、確認できました？」

「うん、正確にはウミネコの鳴き声とカモメの鳴き声の違い、だね。ウミネコは「ミャーミャー」、カモメは「オウオウ」らしいと」

「どうでした」

「カモメは『オウオウ』鳴いてました！」

「そうでしたかお疲れ様でした」

「反応薄いな」

「ネットで見ればよかったじゃないですか？」

「ネットで確認したらつまらないじゃん」

「それはその通り」

「けどね、カモメを追ってたらこけてさ。望遠レンズ故障した」

「バカですか」

「4万円で買ったのに修理費2万弱だってよ？どうしたものか」

「新しいの買ったらどうです？」

「壊れたって言ってもズームリングが固くなっただけだからねぇ。仕方ない。我慢して使おう」

「カメラに使うお金も限られてますし」

「おい、年明けまで3時間になっちまったじゃないか。そろそろ帰りたまえチミ」

「全然今年振り返ってないですけどね。ま、写真も拝見しましたしそうしますか。・・・」

「どうした」

「ボブサップが戦うじゃないですか。これ見てから」

「帰れ」

「大丈夫、どうせすぐ終わりますよ」

「否めない」

20分後

ショウシャボブサップー

「・・・」

「・・・」

「長引きましたね」

「長引いたけどさ」

「あはははは」

「はぁ」

「帰ります」

「何だかなこの虚脱感」

「ではよいお年を」

「よいお年を」