あともう少しだけ

日々の出来事綴ります。やらずに後悔よりやって後悔。

対話 徒労

2015-10-16 22:20:40 | コラム

「秋だな」

「秋ですね」

「寒い秋だな」

「寒い秋ですね」

「お仕事が最も忙しい季節で、わたくし大変疲れております」

「お疲れ様でございます」

「この疲れをいやすべく、近所の温泉に行ってきました」

「またですか。好きですね温泉」

「温泉以上にコスパがいい娯楽施設ってなかなか無いと思うんだ。それはともかく、温泉に浸かってたときのことだ」

「男湯にですよね」

「何言ってんだお前は」

「すみません、合いの手の入れ方を間違えました」

「疲れてるもんね最近」

「それで湯船に浸かっててどうしました?」

「肩まで浸かってボケーっと浴場の入口見てたら、知ってる人が入ってきたんだよ」

「誰です?」

「近所のおっさん。たまにすれ違う」

「近所のおっさんの裸体をボケーっと見ていたんですね」

「そう端的に言うとすごい気持ち悪いな。とにかく問題だったのは」

「問題だったのは?」

「その人は俺が日頃カツラ疑惑をかけている人だったんだよ」

「ハゲが温泉に入ってはいけないと。貴方は多くの名も知らぬ人を敵にまわしましたよ?」

「そんな悪意のある解釈すんな!考えてもみ?浴場に入って、普段と同じ髪型だったんだよ?カツラっぽい人が!」

「ああ、つまり。風呂でもカツラをかぶってる」

「そういうことだ。で、その人がシャワーの方に行ったのね」

「ほうほう」

「カツラをつけて浴場に入った人間は、どのタイミングでカツラを外すのか。もう興味深々」

「裸のおっさんの一挙手一投足に注目している、欲情のアラサー♂」

「『よくじょう』の字が違うな?けど気になるでしょ?」

「まぁ、気になりますけど」

「で、じーっと見ていたら」

「じーっと見ていたら?」

「普通に髪を洗いだしたんだ」

「・・・」

「結局カツラじゃなかったんだねあの人」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・とりあえず謝りましょうか」

「カツラと決めつけてて申し訳ありませんでした」

「あと私にも謝ってもらえませんか」

「何でだよ」

「すごい徒労感があったので」

「疲れてんのは元からだって」

「さらに疲れました」

「じゃあ温泉行こう。明日は休み。山の紅葉も丁度いい頃だ」

「去年は繁忙期終わった頃に須川登ろうとしたら閉山してましたもんね」

「あれは空しかったなぁ」

「あ、温泉行ってる暇ないです。明日は稲の脱穀作業しないと」

「・・・あったなそんなの」

「家の仕事も手伝わなきゃだめですよ」

「あぁ・・・秋忙しいなぁ最近」

「シーズンですから」

「そういう負の面で季節を感じたくない」

 


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