不定形な文字が空を這う路地裏

死の匂い








午後の陽射し、擦り切れた身体、十数年前に歯を立てたハムスターの
遺言がまだ左手の
親指の付根に残ってる
寝不足の頭で
過不足な夢を見て
不安定に有りがちな
残像に踊らされていた



自殺未遂の数を数える
ためらい傷の女子高生(ユミだったかエミだったか)
「どんなに決意しても動脈まで届かない」と携帯で
泣きながら誰かに話しかけていた
左手のクレープはもうぐちゃぐちゃに萎びて
彼女の制服の袖を懸命に汚している



最近出来たファッションホテルの看板の下で
チェブラーシカのシャツを着た浮浪者が死んだ
噂に寄ると数年前まで
どこかのレストランの店長をしてた男だという
その店はまだあるけれど
つい最近大幅な改装をしたばかりだって
死体のあった場所は
朝には囲われていたが
昼には開放されて
無数の靴底に踏みしだかれていた



信号が変わるのが少し早すぎる
高速の高架をくぐる交差点の上で
杖をついた老婆が盛大に跳ねとばされて死んだ
加害者は大手の銀行の職員で
社用でとても急いでいたといったそうだ
「手前で止まってくれると思った」
そんな判断で
彼女は二度と動けなくなった



電化店の店頭、液晶ワイドテレビが
どこかの駅前で通り魔殺人と告げていた
その次のニュースでは
やたら健全なミュージシャンが希望を歌っている



今日大橋で見掛けた
フェンスをずっとつかんでいたおっさん
あいつはまだ生きているだろうか
その目が
なにも見ていないように見えたのは
所詮俺の目だったからなのか
見知らぬ死が取り囲む晩夏、下ろした腰が麻痺のように心許無くて
顔を上げると何度目かの目眩が脳みそを揺さぶった



信号が変わる
盲人用のメロディが通過を保証するが




どうにも
俺は歩き出せないでいた

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