水の行方
その日、二ヶ月に渡る療養の挙句に会社に見捨てられた私は、まっすぐ家に帰る気にもならず、電車にも乗らずに当てもなくぶらぶらと歩いていた。田舎の高校を卒業して六年間、特別な...
どうか咲いていて
その日、ボロアパートの一室に帰って来ると、玄関のドアを開けてすぐに、花が一輪投げ捨ててあるのを見つけた。俺は一人暮らしで、花などには興味がない。従ってこれがなんという花なのか...
秋のホーム
秋の三連休が明けた月曜日、その日の仕事を片付けて帰りの電車に乗ろうとしたら駅は酷い人込み。ああ、またかと思った。人身事故のため遅れております、とやっぱりの表示。駄目もと...
終戦記念日
わたしは古めかしい歩兵銃を抱えて焼け野原に立っていた。敵と味方の死骸がアザラシのようにそこらに転がって膨らんでおり、鼻腔の奥や喉に針金を突っ込まれて掻き回されているかのような...
はじめから手遅れ
ぼくにしてみればそれはとても上手く行っているように思えたし、彼女にしてもそう考えていると感じていた。でも、こうして突然ぼくの前から消えたということはきっと、ぼくの方にな...
ボロボロの壁
特にこれといって上手く続けられる仕事もなく、思い出したように働いては数日後には辞め...
ピーナッツバタートースト
ちょっと焦げたピーナッツバターが乗ったトーストとカフェオレの為ならなんだって出...
月の下、ふたつの孤独
周辺の木々が溶け込んでいるせいで、夜の闇は微かなグラデーションを描いていた。か...
絆創膏と紙コップ
冴えない中年サラリーマンが、仕事帰りの屋台で誰に聞かせるともなく呟いている愚痴...
キリストとフクロウ
コンビニエンスストアの駐車場で鍵つきの車をかっぱらって、曇り空の下、国道を北方向...