結晶を模写したような細工の窓ガラスの粒を数えていたら一日が終わる
口述筆記のような違和感が生じる近しい過去には
巨大な生物のあばら骨が空から落ちてくるなにかを受けとめようとしているみたいな
半永久的な空虚がぎちぎちに詰め込まれていた
だから
喉の渇きを潤すはずのミネラルウォーターは
胃袋ではない得体の知れないどこかへと染み込んでいく
喉を鳴らしながら飲み込むときに欲していたものは
染み込んだ水の行先だったのかもしれない
眠れない夜には昼のように過ごすのが一番いい
次の日のことなど考えてはいけない
無理に横になったりしても矛盾といらだちが生じるだけだ
好きにしていい時間になにかにとらわれてはいけない
こうすべきと決められていることがなにもない時間などに
肉体の中心にあるものが求めているのは
テンプレートに従って進行していくような事柄ではない
夢を見ることにこだわっていてもなにも見ることは出来ない
雨音に隠れている、表通りを走り去る車のエンジンの音に隠れている、強い風が建物を揺らす音に隠れている、すべての振動に隠れている、すべての現象に隠れている、すべての呼吸に、すべての気まぐれに…我々が本当に求めているものの姿が、隠れてほくそ笑んでいる、我々の不自由さを
天国は美しいと誰かが言った
地獄は恐ろしいと誰かが言った
現実はそこへ続く旅であり
いずれ魂になってそこへ還るのだと
まどろっこしい話だ
生きてるうちに天国に行かせろ
時々、真夜中にすべての音を排除して、背もたれに身体を預けて暗闇に紛れ込む
そうすると世界のすべてが知らん顔をしている
目を閉じるととち狂った死の中に溺れているような気分になる
俺はどんなもののことも知らない
知ることがないように努めてきた
俺はいつだって利口な阿呆であり
それだから足枷の存在を感じない
観念的な血飛沫が四方八方から自分を濡らすのをほっぽり出された
ミストシャワーのように感じながら生きている
あの血渋木の向こうの誰かじゃなくてよかった
いつだってそんなことを思いながら
魂は肉体の死後、宙に浮かんで
自分の死後の一部始終を見ているらしい
俺はそれが本当であるといいのにと思う
俺は自分の死骸を見たい
だらしなく口を開けて死んでいる自分を目の当たりにしたそのとき
本当に笑うことが出来るだろう
レストランの廃墟の中に潜り込んで
狂ったように青い海を眺めていた
廃墟の中に居る人間は生きているだろうか
それが知りたくてがらんどうの入口をくぐるのだろう
感覚のすべてが失われたとき
俺は本当の詩を知ることが出来るだろう
朽ちかけたコンクリートの亀裂に
世界への手紙を差し入れる
それは誰も居なくなった未来へと届くだろう
ほっぽり出された記憶がからっ風に吹かれて転がって
煤けた地面の上でポエトリーリーディングのような摩擦音を立てるとき
俺は本当の話し相手を見つけるだろう
そうして目を開くと
カーテンの隙間から潜り込む
どこかの街灯の明かりすら目を焼くほどに痛い
すべての感覚を取り戻して顔を洗い
その時俺はどんなことを考えるのかと思う
それは始まりだろうか
それとも終わりだろうか
眼下に横たわった
間抜けな服を着た自分の死骸を見つめて
絶対的なさよならの清々しさを
どんなふうにして伝えようとするだろうか
死体は
誰の目にも止まらない野っ原へ放り出してくれ
腐り、溶け、食われ、洗われ
あばら骨が天空になにかをねだり始めるその時が来るまで
俺は眺めている、身じろぎもせずに
白骨は欲望の枯れ木だ
寝床とラップトップをどこかへ押しやって
綴ったことのないうたが隠れている物置を覗いてみよう
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