すごく長い時間、苦しむみたいに啼く鳥が
不吉な予言の訪れを告げるリズムで啼き続けていた
巷で評判のアイスクリーム・パーラーで銃を乱射した男が
10歳の女の子を人質にして逃亡してるって?それも、酷い話にゃ違いないけど
俺にしてみれば到底
俺の痛みに取って代わるようなことではない
遅かれ早かれ、犯人は撃たれるだろうし―人質が無事かどうかは別にしてもさ
どちらにしても
それはトリガーで決着がつけられる話
そんな個人的な感想の後、街をぶらついていると聞いたこともないような宗派の男に
『神は私たちのおそばにおられます』
と話しかけられた、だったら
いますぐ連れて来て繰れって俺答えたんだ『そういう話ではないんです』そいつはそう言った、『そういう話ではない』俺がプリントを提出するみたいにそう反復すると
『いいですか、大切なのはそう信じることなんです』とまるで自分が精神的に上の位に居るかのように、解きほぐすようにそう答えた
『悪いけど俺には興味がないね』俺はそう答えた、男の言葉は本気で信じてるものの力で満ち満ちていたが
オリジナリティが皆無でまったくお粗末だった、だから俺はこいつの言葉は信じるに値しないと思った
男は天変地異を見るような目で俺を見た、まるで自分の意見以外はすべて邪道だといわんばかり
『いいですか、私は真実を話しているのですよ?』
俺はため息をついて急いでもいないのに腕時計を見た、そして
この男を10歳の女の子を連れて逃げている殺人犯の前に連れて行ったらどうなるだろうと考えた
どうせ、きっと、撃たれるまで話し続けるんだろう…浅はかな言葉は正論でも間違いを犯す
あいつの弾は後何発残っているんだろう?
男はまだ話し続けていたが俺はもう無視をすることに決めて
男に背を向けてさっさと歩き始めた、男が少し声のトーンを高くするのが判った、次の瞬間
背中の左側に極端な衝撃が走り、俺は上手く息が出来なくなって地面にくず折れた『人が大事な話をしている途中で…!!』男はぶつぶつとそう呟いていた
俺は尺取虫のようになりながら背中に手をやった、ゴムシートがずれるような感触があって
見たことない赤さの血が手のひらを染めた、(真実で狂ってる…)喘ぎながら俺はそんなことを思った、男はなおも俺の肩を掴んで引き寄せようとしたが駆けつけた幾人かの善人に引き剥がされた、さっきまでのクールな姿勢とは正反対の
獣のような叫び声をあげていた
あー、くだらねえ…俺はそう思いながら目玉を裏返した
すごく長い時間、苦しむみたいに啼く鳥が、『酷く憂鬱な目覚めの朝』への考察のように鳴き続けている
寝返りを打とうとして強烈な痛みに悲鳴を上げた
通りがかった看護士がドクターを呼んでくれて
『危ないところでしたよ』優しく声をかけてくれた
俺はこの後ピーター・フォークが入ってくるのではないかと密かに期待したが
謎が絡まった事件ではないし俺は生きていたので興味を示さなかったようだ
『あなたを刺した男はその場で逮捕されました』意味は自分で考えてください、とでも言うようにドクターは言った
大丈夫だよ、ドクター
俺は伝わらないことに癇癪を起こしたりするような歳じゃない、生きていたんだし―やつは裁かれたんならもう済んだことだ
傷口が塞がるまでは入院していただくことになります、無難な真実を簡潔に告げて彼は出て行った
『痛みますか?』
看護士がそう尋ねた、うん、と俺は答えた
身体が目覚めたのか、話の途中から疼いて仕方なかった、看護士は痛み止めを打ってくれた、後で胃にきたけれどよく効く薬だった
(まあ…良かったのかな)
次の日、診察室へ向かう途中で
右腕をギプスで固めた女の子とすれ違った、彼女は俺を見ると青ざめてしりもちをついた『この人は違うのよ』彼女についていた看護士がそんなことを言いながら彼女を立ち上がらせ病室のほうへ向かった
女の子は何度かこちらを振り返った―何かされるのではないかというような顔をしながら
『殺人犯に拉致されていたの』俺が尋ねる前に看護士は答えた―おそらくはもっと酷い事態を目にしたのだろう、軽い痛みを覚えたような顔をしながら
『アイスクリーム・パーラーの…?』俺がそう聞くと彼女は頷いた
そうか、と俺は呟きながら女の子の背中を見送った、小さな、あまりにも小さな背中
すごく長い時間苦しむみたいに啼く鳥はいっそう高く長く
薄曇の空へ啼声をエコーさせていた
最近の「詩」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事