不定形な文字が空を這う路地裏

狼狽える詩人どもに
















激しい痙攣のあと、強制終了のように訪れる眠りの中で見る悪夢にも似た感覚を現実まで引き摺り出してしまう不得手な目覚めの数十秒、果たして俺はすでに死人なのか、と無意識に手首に触れている…微かに、致命的な嘘つきのようにそれは脈動している、でっちあげでもなんでもいい、とりあえず眠りと目覚めは、滞りなくこの朝も俺のもとに在った―寝床を抜け出すとぶるっと震え…それから初めて寒いのだと気がつく、ついこの間まで―やめておこう、とうにかすれたフィルムをもう一度回すような真似は…パーソナルコンピューターに飲み込ませた音楽データ、ストーンズはパラシュートの歌をうたって…いや、女の歌と言うべきか―いつものように…目覚めが早過ぎる、致し方ないことだが…まだ太陽は始まっていない、地平線の下でウオーミングアップの真っ最中だ、薄め過ぎた黒絵具のような闇が硝子戸の外に広がっている…無意味な走馬灯のように、往来を行き交うヘッドライトが瞬間光の線を描いては居なくなっていく―トーストが焼き上がる頃にはそんな、主役の居ないメランコリックは真っ白な夜明けに塗り潰されている、世界は今日もころころと色を変えていくのだ、死滅した文明の中央部分で稼働を続けている生物コンピューターのように…珈琲を口にするのは早過ぎた―喉元には火傷の感覚がある、剣山で軽く引っ掻かれたみたいな痛み…ふと、この痛みはいつまで持続するだろう、と、俺は考える…痛みは、人生においてもっとも忘れ去られ、そしてもっとも訪れるもののひとつである、そしていつでも、初めてやられたかのように必ずダメージを残す…それが感情のように語られるようになったのはいつ頃なんだろうか…?マグカップを口から話すとき思わずため息をつく、日常には誇らしいと思える羅列がない、そこいらを掘ってもなんの成果もないことはとうに理解出来ている、けれど…無意味なことは必ず否定しなければならない、そうさ、それをしなければ…一生をただ器用なだけの動物として終えることになる―カフェインはほんの少し脳味噌をクリアーにする、ほんの少しだけ…泥水がプールの水になるくらい…それでも今日この日なにかが出来るかもしれないと思うくらいのきっかけにはなる、もちろんそれは幻想に過ぎない、そう、いま俺は口にしたばかりじゃないか…「誇らしいと思える羅列はない」それでもさ―多かれ少なかれ、遅かれ早かれ、望もうが望むまいが、そんな世界の中で生きていかなくちゃいけない、器用な動物たちが、どんぐりの背比べに精を出す世間さ―そういうやつらは実にせせこましい手段ばかりを使うぜ、みみっちくて…見てるこっちが恥ずかしくなるくらいさ―だけど突っついてやるなよ、口を開けばクソだのクズだのと…まるで痴呆症の老人のような言語感覚だ―だけどあいつらにとっちゃ、それが聖剣なのさ…エクスカリバーってやつだ…OK、慣れるなよ、落ち着くな…俺は自分の頬を張る、盲目になっちゃいけない、集団の色に混じることで、自分が偉くなったなんて勘違いをしちゃいけないよ、そんな人間の醜さは嫌と言うほど見てきただろう―俺は服を着替える、音楽は鳴り続けている、冬の太陽が無数の氷柱のように世界を照らし始めている、いまが朝だろうと夜だろうと知ったことか、てめえの頭の中でガチャガチャ転がっているものをぶちまけながら生きるだけだ、世界は繰り返す、俺は渦の中へ巻き込まれながら、昨日とは少しだけ違うことを書く、パラレル・ワールド、無間地獄から抜け出すための常套手段さ、少しずつ少しずつスタンスをずらせば渦の流れから抜け出すことが出来る…昨日と同じ今日であってはいけない、それが俺がこの人生で学んだもっとも大きなことだ、一〇〇年あるかないか、それだけの時間だぜ、同じ色だけで塗り潰すなんて俺には出来ないよ―たったひとつ見つけることだ、たったひとつ見つけることだよ、なにか新しいものを手に入れたら、古びて要らなくなったものは自然に零れ落ちていく―人生の命題など持たぬことだ、フリー・チケットさ―その時に決めた行先だけが本当に行くべき場所だ、彷徨え、彷徨えよ、狼狽えたる詩人ども、小競り合いをしている間にも時間は流れてゆく、下らない連中は放っておくことさ…そうしていつかいまよりもほんの少し居心地のいい場所を手に入れたら、程よく晴れた朝に一緒に珈琲でも飲もうじゃないか…

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