残響が果ても無く木霊する
冬枯れた丘の途切れるところ
巨人の矢尻のように鋭く
天を目指し隆起した岩の精気
冷気を孕む風はいつでも
強力なタービンの稼動に似ている
えぐられたように大地が終わるところ
見えない河のせせらぎを聞く
祈りとは制約の無いものだと
旅の果てに初めて知りえた
光源から真っ直ぐに降り注ぐ冬の日
荒れた息が静まるまでずっと眺めていた
人を知るのなら
人でないもののことを知りなさい
光を求めるなら
たくさんの闇をまずくぐりなさい
苦を知らぬ幸など
爪の先ほどの価値も無いと
種を落としたあとの
草の精霊が囁く
誰にでも言えることは
所詮その程度のこと
あなたは
あなたの真実を求めるのです
誰も居ない
そんなところこそ
たくさんのものの声がする
それはたいていの場合優雅で
そして何もかもをいちどきに語る
宗派や流派
国境や人種を
鼻で笑い飛ばすみたいに
捕らわれることの愚かさを
踊らされることの醜さを
いちどきで語りつくしてみせる
あなたはひとりの人間であるのだから
ひとりであるということをまずは知らなければならない
ここにあるもののすべてを聞きなさい
せっかくここを訪ねたのだから
思うがままに振舞いなさい
すべてのことを知る権利がある
すべてのことを知る権利があるということは
すべてのことを選択する権利があるということ
すべてのことを選択する権利があるということは
すべてのことを選択する必要があるということ
時々で
駒のように選んでいきなさい
真実を定義してしまうことは
ひとつの歌しか唄えない歌い手になるということ
程なくそれは干されてしまうでしょう
塵ほどのもの、そこから始まって
広大な宇宙にいたるまで
世界の枠から外れることは無い
あなたが決めないなら
どこかであなたを見かけた聡明な誰かが
あなたの持つものに名前をつけてくれるだろう
世界と呼ばれるものは
世界と呼ばれていることなど知りえないものです
呼吸をすると
深く呼吸をしたくなるのは
空気に混じっているひとつの世界の要素を
得る機会を知っているということです
あなたを取り巻くものには名前など無い
便宜的に名づけてかまわないものばかりだから
あなたはそれをどんな風に呼んでみてもかまわない
あなたの好きな名詞で呼んでくれればいい
どうせあなたはそれらよりも長く生きることは無いから
矢尻の天辺に上って
この場所の終わりを見なさい
あなたを浮遊させる
確かな風の力を知りなさい
その上昇を
あなたは記憶しなければなりません
あなたがここに来たことに
何らかの見返りを求めるというなら
あなたの心がここから離れることはないと
全存在をもって誓わなければなりません
判りますか
存在と呼ぶのなら
私たちはひとつのものです
あなたは風景であり
私はあなたであります
その切り立った岩の先からなにが見えますか
空の果てに眼を凝らしていると
見えるもの以上のことが見えた気になるでしょう
それを忘れてはなりません
この世は球体の上なのですから
終わるところは永久に無いのですから
いつかあなたの背中が見えたら
それはあなたのひとつの終了かもしれません
もしそれほども確かなことが訪れたなら
ここに来て横になりなさい
それは個体としては無になるということですが
それはすべての事柄に対して呼応出来る存在になるということです
もしそれほども確かなことが訪れたと感じたのなら
ここへ来て横になるといいでしょう
もっとも
そんな確信など百年のうちになど訪れないかもしれませんが
岩の形を知りなさい
その形状で
肌を切ることがあることを知りなさい
傷つき
治癒するさまを眺めなさい
あなたの血が
蓋にもかわることを知りなさい
私たちはすべてを知って
すべての事柄に対して呼応出来る存在になりました
あなたがもしもそれを知りたいというのであれば
深く呼吸をするときを見極めなさい
ときを知りさえすれば
それはあなたのもっとも深いところまで降りてゆくでしょう
ありとあらゆる言葉を聞いたなら
日が落ちる前にここを去りなさい
光は人を食べ尽くします
だからこそ闇がくるのです
闇は葬列です
あなたは
まだそれを眺めてはなりません
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