跳ねた
跳ねた
異形の粒が
跳ねた
跳ねた
ご機嫌そうに
肩車して
昨日の死体
明日の腐乱を
拝ませてやれ
ハイヨー
深夜、数十年前に、廃業したまま放ったらかしの、パチンコ屋の廃墟に忍び込んでフィーバーかかってる振りをしてた野町くんは鉄道に飛び込んであれこれ足りない死体になった、とうとう、きっといつかそうなるんじゃないかと思っていた、だってもう彼は首が回らなくなっていたもの、最近はいつ会っても目が血走っていて見開かれていて、言動もなんだかちょっと歪な感じになっていた、文章としてはまともだったけれど使うところがまるで間違えていた、しかたがないっていう他ない、だってぼくら何回も忠告したんだもの
三木谷さんのお母さんが車でブロック塀に突っ込んだそうだ、かなりのスピードが出ていたらしく、彼女の身体はフロントガラスを突き破ってブロックの下敷きになっていたって、ブロックと人間の和え物みたいだったってさ、シートベルトはどうやらしていなかったようで、警察としては事故か自殺かそれとも他殺かとあれこれ調べてみた結果、事故とせざるをえなかった、限りなく自殺に近い事故、という言い方をした、遺書が見つからなかったから事故ということにした、そんな意味のことを言ったらしい、もちろん公にではなく、家族にだけ、こっそりと、だれに聞いても彼女が自殺する原因なんかに心当たりはなかった、それも大きかった、心の病であった可能性も考えられたが、そんな痕跡も見つからなかった、なので事故です、と…残された夫と高校卒業間近の娘はただただ呆然として、呆然と立ちすくんでいた
新聞の死亡欄に
知ってる名前を見つけてワクワクした小5の頃
あの頃は分かってなかった
あの頃は
なんにも
すれ違うひとを振り返っては
口が動いていたかどうか
ひどく気になるなんてことは
跳ねた跳ねた
跳ねた跳ねた
ポップコーンが出来るよに
スコールの
始まりのよに
目が確かなら
目だけで生きてやれ
結構昔から、細木さんは死ぬ死ぬって言っていた、地味なブレザーの制服を着てた頃から、しょっちゅうね、なにもかも嫌になった、こんな世の中とはもうおさらば、なんて言ってるわりには毎朝元気におはようって言ってた、だからだれも本気にしてはいなかった、たぶんだれか本気にしてやってればよかったのかもしれないななんていまじゃ思うこともある、でもそういうのってどうしようもないことだからーだけど彼女らしい死にざまだったよ、飛び降りたけれど死ねなくて、手首切ったけど死ねなくて、なんかの薬を大量に飲んで死ねなくて入院したんだけど、そのとき末期の癌が見つかって、そっからあっという間、最期の言葉は「死にたくない」だったって、自殺未遂で運び込まれたのに
跳ねた跳ねた、跳ね過ぎだ
跳ねた跳ねた、跳ね過ぎだ
あちらこちらにぶつかって
あちらこちらに疵を残して
すっきりしない眠りや目覚め
捨てては拾う言葉の数々
姉さん、姉さんまだ行かないで
せめてあの火が消えるまで
名前も知らないひとの話なんかしていいのかどうか分からないのだけれど、せっかくだから彼のことは話しておいておきたい、これはたぶん一生忘れられない光景だから、もしかしたら嘘だと思われるかもしれないけれどまったく本当の出来事なんだぜ…それは中学生のときだった、何年生かはもうちょっと記憶が定かじゃない、なんてことない春の日で、陽射しが穏やかな午後だった、授業が早く終わる日で、気持ちがのんびりしてたんだ、だからちょっと遠回りした、それが間違いのもとだった、ある道を歩いていてあっと気がついたんだ、その先にはぼくらの間でちょっと噂になってる踏切があるってね…そこについてはいろいろな話を聞いていて、その中には昼間起こったこともたくさんあった、特別ひと気のない場所とかそういうんじゃなくて、人も車もわりと多い普通の踏切なんだけどね、本当にやばいってみんなが言っていた、そんな踏切だったんだけど、引き返すには少し遅いくらいには歩いていたし、まさか自分がそんな目に遭うなんて思ってもみなかったしさ…まぁいいかって歩いてたんだー手前数十メーターのところでカンカンと鳴り出して、遮断機が静かに下りた、あぁ、引っかかっちゃった、とガッカリしながらそこに向かってのんびり歩いていた、そしたら…電車の姿が線路の西に見えて、みるみる近づいてきた瞬間に、遮断機の向こうにいた一人の男が線路に飛び込んだんだ、あのとき男の隣にいた若い奥さんの表情は印象的だったなぁ…それはともかく…凄まじいブレーキの音がして、電車はなんとか止まろうとしたけれど間に合わなくて、男の身体は車輪の間でてんでばらばらに好き放題転がって、首がぽおんとぼくの正面に飛んできて、ちょうどぼくと向き合う形できちんと立つみたいに落ちたんだ、二十歳くらいの男だった、ぎょろりと目が動いてーぼくを見てこう言った、「中学生?」って…ぼくは驚き過ぎて逆にまともだった、「うん」って返事したんだ、そしたら、「そうかぁ」って彼はにっこり笑って、それきりなんにも言わなかった、そのあとのことはよく覚えていない、それからどうしたのか、数日くらいの記憶がないんだ…
だけど最近、彼の笑顔をなんだかよく思い出すんだ、なんであんなににっこり笑えたんだろうって…
跳ねた
跳ねた
何度も跳ねて
跳ねて
それから…
ねえ
どこ行った?
どこ行くの……?
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