不定形な文字が空を這う路地裏

独白は無責任に(けれど真剣さを持って)














生温い雨に濡れながら午前二時、あらゆる神経が脳天に向かって空虚を届けるころ、おれは寝床を拒否してキーボードを叩いている、ヘッドフォンのなかではインプロビゼイション・ノイズが存分に掻き回している、おれたちが人間でないものになるために芸術は存在する、存在せよ、たましいのまんまで…肌を撫ぜる真夜中は母親のようにそう諭している、たったひとつの鍵盤の音があらゆる扉を開くタイミングを知っているか?それがどんな感覚かなんて到底説明することは出来ないが―長く追い求めていればそうした感覚は時折訪れる、距離を必要としない友達のように…さて、人生はたくさん過ぎて行った、あとどれくらいが残されているのか見当もつかない、だからおれはあっけらかんと眠ることが出来ない、もっともそんなことがはっきりこうと知らされたところで、それをなるほどと受け入れたりするかどうかはその時になってみないと判らない、まあ、そんな時が訪れるころにはおそらく、すべてのことは手遅れになっているけれど…このところこの時間にやかましく地面を掘り起こしている工事も今日はないようだ、おかげでほんの少しこころに余裕がある、まったくあの重機の騒音と来たら…!眠る、という行為について少し掘り下げてみたことはあるか?子供のころに、不思議に思ったことはないか?どんなに寝つきの悪いやつでも、目を閉じて開いたら一瞬のうちに朝が来ていたなんていう眠りを体験したことがあるだろう、そんなとき自分がどんな時間の中を歩いていたのだろうかと考えてみたことはないか?おれは子供のころいつでもそんな時間について考えを巡らせていた、おかげでその時そこに在った現実のすべてがおろそかになってしまうくらいに―知らない時間を知ること、知らない時の流れについて決着をつけること、あのころおれはいつでもそのことにこだわっていた、何度か友達に話してみたことがある、不思議に思わないかと、一度眠りに落ちると知らない間に朝になっている、ぼんやりと授業を受けているといつのまにかその日の時間割が終わり、自宅に帰って食事を食べている…おかしいと思ったことはないか?どうしてそうなっているのかと思ったことは、ないか―?おかしなことを言うね、と友達は笑った、そうして話題はほかのことに移った、どんな話題だったのかも思い出せないくらいにささやかなものに―思えばおれはそんな時代のほとんどを、眠り続けて暮らしてきたような気がする…言葉通りの意味ではなく、なにかしら興味を引くものについて、目を引ん剥いて凝視したりするようなことがほとんどないままにそんな時代を過ごしてきたような気がする、もちろん、まったくないわけではなかった、おれの時間について、おれの人生について、必要ななにか、こころを騒がせる何か―微かなヒントくらいは転がっていた気がする、もちろんその時にははっきりそれがそうだと認識するようなことはなかったが…なぜか記憶に残っているささやかな場面のいくつかがそんな示唆を含んでいたのだとずいぶん後になって気づいたことがたくさんあったような気がする、もういまではそれらは妙に現実感のないものとなって脳味噌の片隅に転がっているけれど…信じられるか?自分が十に満たない子供だった頃のことなんて―もうそれはおれにとってなんの意味も持たない、その時代の出来事の数々はもう絵本の中のことのように現実味を欠いている―ともかく!おれはいまでもそんな時間の流れの中に居ると感じることがある、授業はなにも終わってはいない、そう、そんな風に感じることがある、ただ無為に通り過ぎていくだけの時間、あのころよりもいくぶんはまともで、いくぶんは狂っているこの脳味噌をかすめながら通り過ぎていく時間、人生―そんなことを、やたらに咎める連中が居る、時は戻らない、懸命に、がむしゃらに、二度と訪れないこの時を―ハン、お笑い草だ、そんな生き方を望んだらあっという間に頭が煙を吹き上げるだろうさ…時間なんてそのほとんどが無駄に過ぎて行くのみだ、それはおれたちには太刀打ち出来ない代物だ、どんなに回転数を上げたって―過ぎて行く時に追いつくことなど出来ない、大事なのはそんなことじゃない…時間の中にどれだけ自分の撃ち込んだ穴ぼこを残せるのか、しいてスローガンのように語ってみせるとしたらそんなことさ、その瞬間、確かになにかしらを人生にぶち込んだと感じられるかどうか…大事なことはそれだけさ、そしてそれは意外と簡単に出来るもんなんだ―さて、おれはもう三十分ほど、キーボードを叩き続けている、人間でないものになるってどういうことか判るか?思考することに左右されないということさ―この羅列はおれがなにがしかの見解を持つ前に書き込まれている、それがどういうものなのかなんて突き詰める必要はない、いまこの瞬間に頭の中を駆け巡ったいくつかのものが、幾日か眠りを繰り返したあとにそっと語り掛けてくれるだろう…

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