不定形な文字が空を這う路地裏

猫の記憶









つ、たん、とわずかなタップダンス、軒先を転がるようなリズムがして

時のながれをひとあしおいこして行く


あのひとは、いまごろ猫だろう、思いのほか自由な四肢で世界を掻いて

いずれかの路地裏へ、気取られず走りさる

うつくしい
流水のような毛並みを面影と呼ぼう


きっと穏やかな陽だまりの日には
ぼんやりと思い出すのだ

いつも、さりげなく身にまとっていたかすかな香りや

不文律を味方につけたような櫛の使い方

朝のうちスイッチを入れたままの
小さなラジオにハミングする口角

少し冷めすぎるまで待ってから飲みほす紅茶には
必ずセロファンのような厚みの檸檬の輪切り

ふ、とため息をつくと

ほのかにそれの香りが風に乗ったものだった


猫が好きだ、とよく言っていた、「人となりも知らずに惹かれてしまうような」彼らの奔放さが

何故だか大好きで堪らないと

いまにして思えば、そんなふうに語るときでさえ
ほんのかすかな乱れさえ見せることは無かった


柱時計があった場所から
なるはずのない時報がひとつ聞こえた

生活とはそんなふうに染み込んだひとつひとつなのだと
無人に近いようなひとりの部屋の中で

なるはずのない時報が


そうした奔放さが、あのひとの望みであったのなら、むしろ、そんなものは叶わないほうが良かったのだ、そう言ったら

それは男の傲慢というものだと
あのひとは、僕を諭すのだろうか


傲慢でない思いというものがうまく想像できない
そういう点で間違いなく僕は子供なのだ

だけど
恥ずべきことでないのならそれは触れなくてもいいことではないだろうか?

路地裏へ、気取られず、消えて行く
あなたの足音が聞こえる



そのうつくしい毛並みを
面影だと



僕は

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