白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

高校選手権・団体決勝

2016年07月26日 18時07分23秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
現在、第40回全国高校選手権大会が行われています。
7/25(月)~27(水)の3日に渡っての戦いで、男女それぞれ団体・個人の頂点を目指します。
本日は午前中に団体戦の決勝と順位戦が行われ、午後から個人戦が始まりました。
少し様子を見に行きましたが、熱気が物凄い!
真剣勝負という点では私たちプロも負けていないはずですが、しかしあの熱気は出せません。
プロの勝負では負けたくないという意識が強く働き、どうしても暗くなってしまいます。
しかし高校生は純粋に勝ちたいという一心で頑張っており、見ているだけでそれが伝わって来ます。
私も3年間、一生懸命戦いました。
あれから、はや15年・・・すっかりオジサンになりました

さて、本題に戻りましょう。
男子団体の優勝は春日部高等学校でした。
34年ぶりの出場でいきなり優勝とは凄い!
1、2年生中心の若いチームで、勢いもあったのでしょう。

女子団体は戸山高等学校が連覇!
昨年は2年生3人だったので、さらにレベルアップしたチームでした。
とはいえ一度負ければ終わりですから、プレッシャーを撥ね退けての優勝は見事でした。

さて、それでは対局の模様を振り返って行きましょう。
まずは男子団体決勝、春日部高等学校(黒)対上宮高等学校戦です(主将戦?)。



団体戦ならではのプレッシャーがあるのか、お互い非常に手堅い序盤戦でした。
しかし黒△と踏み込んだ手を打ち、ここから戦いが始まりました。





黒△と打たれた場面です。
下辺白には黒Aで分断される弱点があります。
これを素直に守っているようでは後手を引きますが・・・





白1とは飛躍した着想で、素晴らしい!
実は歴史上の大名人、本因坊道策も似た着想の手を打っています。
さて、その心は?





当然黒1と取りに行きますが、調子で白2を打つ狙いでした。
黒3となって、後に黒Aと打って来ても白2が働いて白Bで繋がっています。
先手で傷を守る事が出来ました。





1手稼いだ白は白1から仕掛けて白7までと、強引にコウで黒を分断!
やや闘志過剰気味ですが、それもまた良し!(笑)





勢い黒が下辺を突き破り、白は右辺の黒を分断する振り替わりになりました。
ここで実戦は白Aと生きを目指しましたが・・・





ここは白1が必争点でした。
黒2と取りに来れば白3と大きく構えて勝負します。
下辺の白もまだ味残りです。





実戦は下辺を生きたものの、右辺での力関係が逆転してしまいました。
黒6と封鎖されて生きるのではつらい限りです。
この後、白は必死の頑張りを見せましたが・・・





白1の切りに黒2が手筋、決め手です。
これで白1の石が逃げられず、勝負も決しました。




次は女子団体決勝、戸山高等学校(黒)対栃木女子高等学校戦です。
黒△と打たれた場面、白の石数が少ない状況なので・・・





白1、3と穏やかに打つ所です。
近年はあまり打たれない定石ですが、白△の活力も見てこの際は適切です。





白1、3は打ち過ぎで、黒8まで△を切り離しては黒がポイントを挙げました。





しかしここで白1と強く押さえたのは好手でした。
白△を腐らせない打ち方で、勝負はまだまだこれからです。





黒△と押した場面、ここは分岐点でした。
つい白Aと引っ張りたくなりますが・・・





実戦も白1と打ち、さらに白3とくっついて行きましたがこれは少々重い打ち方です。
黒4と足元をすくったのが好手で、黒6となって3子が宙に浮いてしまいました。





ここは白石の少ない場所なので、白1、3と軽快に動きたい所です。
傷が多いようですが、黒もAやBに断点があるのでそう乱暴は出来ません。





黒2と切って来れば白7まで外回りになります。
これなら急な攻めはありません。





その後、黒1と当てた場面です。
何でもない所のようですが、実はここが重大な場面でした。
白2と繋いだのは利かされで、絶好点の黒3に回られてしまいました。
白4に黒5と進み、左上白を脅かしながら左辺に地歩を進めています。
これで黒優勢がはっきりしました。





黒は強い石なので、そこからさらに1子抜かせてもどうという事はありません。
白2と大場に先行してしまえばこれからの碁だったでしょう。





と考えると、そもそも黒は当てる必要はありませんでした。
黒1と先行したい所です。
白2と打たれても手抜きして問題ありません。
白Aで一応逃げる事は出来ますが、黒Bと出られてバラバラになります。
黒はCで簡単に繋がるので、一方的な戦いになるでしょう。


ともあれ、熱い戦いでした。
優勝した春日部高等学校、戸山女子高等学校の皆さん、おめでとうございます!

プロの碁は難しい?

2016年07月25日 23時13分11秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
皆様はプロの対局をご覧になりますか?
「難しいから見ない」「NHK杯なら見る(解説が付くから)」と仰る方が結構多いですね。
確かに一面ではそれは当たっています。
20手30手先を見ているので、見た目に分かり難い打ち方をすることもしばしばです。
しかし大半の局面では、プロが意識している事はアマの皆さんが意識すべき事と同じです。
本日はそれを念頭に置いて、プロの対局をご覧頂きましょう。



幽玄の間
で中継された、小県真樹九段(黒)村川大介八段戦です。
白1は最近の定石です(以前はAが主流でした)。
黒2となりましたが、まだ定石の途中です。
次の一手はどこでしょうか?





白1から5が逃せない所です。
しっかりと治まり、10目ほどの地も確保しています。





手を抜いて黒1と打たれてはいけません。
次に黒Aも先手になる形で、白は全く眼のない形になってしまいます。
序盤で弱い石を作るのは極力避けなければいけません





手順が進み、右上で戦いになっています。
白1ではAと1子抱える方が殆どでしょう。
何故下がりなのでしょうか?





白1の抱えだと、黒は先手を取って左辺に先行してしまいます。
右辺の黒には黒A、白B、黒Cで△と合わせて簡単に2眼出来ます。
いつでも生きられるのでは厳しい攻めはありません。





実戦の白1は右辺黒の保険を奪うものでした。
ただ守るのではなく相手に響く守り方を選んでいます。
やはり黒4と手を抜きたいのですが、右辺黒に眼がありません。
白7から攻めが続きます。





実戦は黒△と手を入れる事になりました。
左辺の大場には白が回っています。
2つ前の図とは大差です。





さらに手順が進み、黒△と中央を広げた場面です。
黒模様がこのまま地になっては大きいので何とかしたい所ですが、ただ単騎突入しても当てがありません。
こういう時には重要な考え方があります。





白1のツケコシから黒に傷を作り、さらに白5から7と切って行きました。
相手の弱みを衝くというのは、凌ぎの基本です。
皆様の対局を拝見しますと、模様の中に突入したは良いものの逃げる事だけを考えてしまう方が多いです。
挙句一方的に攻められ、最後は頓死という事も珍しくありません。





白の出切りは突入法しては一見乱暴なようですが、実はこれが一番安全です。
弱点が出来た事で黒は自由に打てません。
黒1と丸飲みにしたい所ですが、白6まで進んで黒は困ります。





黒1と押さえると当たり当たりから白6で黒潰れです。
左辺の黒大石に眼がありません。





2子を取られないように黒1と打つのもダメです。
白8まで黒潰れです。





実戦は黒1、3と大石が切れないように打ちましたが、白4、6で包囲網が破れました。
黒Aと逃げたいのですが、やはりダメ詰まりの黒3子が足枷になって思うように戦えません。





結果白2となって凌ぎに成功しました。
黒の弱みを衝いた力強い凌ぎでした。


如何でしょうか?
プロの対局は一手一手は難しい手も打ちますが、基本的な考え方は単純です。
何を考えて打ったのか、大雑把にでも想像して頂くと良いでしょう。
それがプロの対局を楽しむ事にも繋がりますし、上達にも役立つでしょう。

13路プロアマ本戦・3位決定戦

2016年07月24日 22時28分08秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
今回は昨日の続きです。

13路棋戦は新しい試みで、日本棋院としても私としても経験不足でした。
準決勝は2局を部屋を移動しながら解説しましたが、これが失敗。
予想以上に進行が早く、どちらの解説も中途半端になってしまいました。
解説が物足りなかった方には申し訳ありません。
次回はまた違う形になっているでしょう。

後半は決勝の解説に専念しました。
13路は常に勝負所ですから、1局だけでも精一杯でしたね。
その代わり3位決定戦の方に全く触れられなかったので、ここで振り返っておきます。



大橋拓文六段(黒)対村松竜一八段戦です。
近年、白1の三々は19路ではあまり打たれなくなりました。
しかし13路ではしばしば見かけます。
準決勝、決勝でも河野九段が打っていましたね。
空き隅の選び方も19路とは微妙に異なっているのが面白い所です。
もっとも、河野九段は19路でも時々打っていますが・・・(笑)





そして白1と隅の黒に迫って行った場面です。
黒2以下の対応は、隅に篭ってしまうので良くないとされますが臨機の対応です。





実戦、黒1以下でやれるとの読みがありました。
黒Aが利くのもポイントで、頭を出しながら白を封鎖しては上手くやったように見えました。





しかし白1が好手でした!
次に白Aで1子を分断されるので・・・





黒1と受けましたが、そこで白2の逃げ出しが成立しました。
黒Aと反撃したくなりますが・・・





白8まで黒取られてしまいます。
白△が絶妙に働いているのをご確認ください。





止むを得ず黒1から根拠の確保を図りましたが、黒3となった隅の形は所謂一合枡です。
白4の後Aに置かれるとコウになってしまいます。





という事で黒4の備えも止むを得ませんが、ずいぶん手がかかってしまいました。
白5と最後の大場に回られ、黒地が足りなくなっています。





そこで黒1からは必死の取りかけです。
黒9まで、白に眼はありませんが・・・





白1から反撃して左の黒との攻め合いです。
この攻め合いは白1手勝ちとなり、村松八段の3位入賞が決まりました。


今回で第1回13路盤プロアマトーナメントについての感想を終わります。
如何だったでしょうか?
19路盤ほどではありませんが、13路盤も広大な世界が広がっています。
大橋六段ほど研究していても必勝ではないというのがその証拠と言えるでしょう。
来年以降もぜひ続いて行って欲しいですね。
皆様、今後もご支援よろしくお願いします!

二十四世本因坊秀芳、優勝!

2016年07月23日 23時51分59秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は第1回13路盤プロアマトーナメントの準決勝と決勝が行われました。
決勝に勝ち進んだのは二十四世本因坊秀芳河野臨九段でした。
そして結果は二十四世本因坊秀芳が黒番中押し勝ちを収めて優勝!
前身のクラウドファンディング13路盤選抜プロトーナメント戦と合わせて連覇となりました。
それでは対局の模様を振り返ってみましょう。
なお詳しい解説は幽玄の間youtubeをご覧ください。



黒1の打ち込みから序盤早々戦いが始まりました。
じっくりタイプの二十四世ですが、コミを意識して意図的に早く仕掛ける作戦のようでした。





しかし戦いの最中に黒1を利かしに行ったのが機敏です。
こういった小技は二十四世の得意とする所です。





白3に回られると黒3子を取られますが、4に回って黒優勢です。
こういった優劣の「見切り」が早い所が13路で勝つ秘訣なのでしょう。





実戦は白が隅を受けた所で、一転黒4から動き出しました。





前図から一本道で進み、黒8までとなりました(白1は黒4の所)。
白攻め合い勝ちですが・・・





黒は攻め合い負けは承知の上で、外側に勢力を築く捨て石大作戦でした。
黒10となって下辺一帯を目一杯に構えて勝負です。





白1と伸びて黒の弱みを衝くのに対して、構わず黒4と退路を断ちました!
白5には形が悪くとも黒6の逃げ出しです。
シノギが得意の二十四世としては珍しく全力の取りかけに行きました。





白1から必死にシノギを目指すのに対して、黒は最強手で対応しています。
しかし白9に対して・・・





一転黒1と丸取りを放棄しました。
これで勝ちという見切りですね。
白2と渡りを目指すのに対し黒3から追及して・・・





中の白を取り込んでは形勢は大差になりました。
白5の後黒Aと手を入れていれば終わりですが・・・





実戦は黒1と手抜き、そこで白2が妙手です!
流石河野九段、隙を見逃しませんでした。





白8まで渡っては大成功です。
しかし黒11からヨセに入り、黒がリードを保っています。





最後は黒1が鮮やかな決め手になりました。
この手でAなら簡単にコウですが、負けると黒2子を抜かれてしまいます。





下がりの効果で黒4を打ってなおかつコウになっています。
黒の花見コウとなり、勝負は決しました。


優勝候補の河野九段を力でねじ伏せるとは流石です。
予想外の激しい戦い戦いになり、面白い対局でした。

幽玄の間では準決勝2局と決勝を解説しましたが、3位決定戦には全く触れられませんでした。
という事で明日は3位決定戦、大橋拓文六段村松竜一八段戦を振り返りたいと思います。

幽玄の間

2016年07月22日 16時31分45秒 | 幽玄の間
皆様こんにちは。
本日は昨日行われた対局から名場面をご紹介します。
なお対局の模様は幽玄の間でご覧頂けます。



彦坂直人九段対(黒)佐々木毅六段戦です。
黒1の打ち込みに対し、白2と根拠を奪って攻めて来ました。
黒はどういう方針で行きますか?



殆どの方は黒1と逃げてしまうでしょう。
しかし白6までと白は広い方に向かい、黒はダメ場を走っています。
しかも黒が安全を確保するまではあと何手か必要になるでしょう。





実戦、黒1は軽いおまじない、そして黒3が手筋です!
「サバキはツケから」の格言通りですね。
左下は白が圧倒的に強い場所なので、正面から戦ってはいけません。





白1と伸びてくれば黒2から捨てます。
増えた白地以上に黒地が盛り上がっています。





実戦は白1のハネでしたが、黒2の切り違いがこれまたサバキの手筋です。
やはり打ち込んだ石は捨て、外に勢力を築きました。
白の多い場所で五分の分かれを得ては黒満足です。
鮮やかなサバキでした。





もう1局は依田紀基九段(黒)対マイケルレドモンド九段戦です。
ここまで良い勝負に見えました。
しかし、白1と利かしに行った事から局面は激変しました。





黒1と受ければ右辺白がいくらか強化されるので、安心して白2の攻めに向かおうという事でしょう。
しかし黒は反発しました。





黒1!
通常ではあり得ないほどの踏み込みです。
しかし上辺の黒はガチガチに堅く、この堅さを最大限に利用する手でした。





実戦、白1から3と出られて取られそうですが、黒4とさらに踏み込みました。





白1と受ければ黒2、4でAとBが見合いとなり、白潰れです。





実戦は白1と戻りましたが、黒8までと渡りに成功しました。





白も1から隅を取り、黒8までの分かれとなりました。
後に黒Aの封鎖が先手です。
隅の黒地が白地に変わりましたが、上辺の黒は堅いので地だけの問題です。

一方黒は右辺に地と厚みを得ました。
元々右辺は黒の弱い石があった所だけに、大きな成果です。
この厚みが睨みを利かせており、白は下辺にも深く踏み込みづらくなっています。
本来白Bで黒を攻めたい所でしたが、Cと遠慮する事になりました。

手堅く打つのは立派な打ち方ですが、ただ堅いだけでは遅れてしまいます。
どこかで仕掛けてこそ堅さが生きて来ます。
依田九段の仕掛けのタイミングは皆様の参考になるでしょう。

明日7/23(土)は第1回13路盤プロアマトーナメントの準決勝と決勝が幽玄の間で行われます。
午後1時~準決勝
午後3時~決勝
となっております。
解説は私が担当します。
今回はシステム上解説が残らないため、ぜひリアルタイムでご覧ください。
お楽しみに!