白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

謝女流五冠誕生!

2016年07月17日 23時24分03秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は市ヶ谷で指導碁を行いました。
お越し頂いた方々、ありがとうございました。

さて、本日は第1回扇興杯女流囲碁最強戦の決勝が行われ、謝依旻女流本因坊向井千瑛五段を白番2目半勝ちで破り優勝しました。
これで何と女流5タイトルを独占!
女流囲碁界始まって以来の快挙を成し遂げました。
アルファ碁、井山七冠、そして謝女流5冠・・・今年は驚かされる事が多いですね。
囲碁普及の観点からしても、今年はヒカルの碁以来の大チャンスと言えるでしょう。
この機会を逃してはいけませんね。
さて、それでは決勝戦を振り返って行きましょう。



向井五段、黒△と見慣れない手を打って行きました。
普通の感覚ですと2路左にツケますが、右下黒との間合いを意識したものでしょう。





しかし、上辺の挟みに先行されては成功したとは言えません、
黒△のカカリも方向が逆になっている感じで、左下の勢力を活用し難い状況です。





また、黒1から堂々と戦いを挑んだのも向井五段独特の打ち方です。
白の石数が多い所なので、まずサバキを考える棋士が多いでしょう。
黒5と利かしに行きましたが・・・





白1と単刀直入にハザマを衝いて入ったのが好手でした。
白7と押して左右の黒が息苦しく、白ますます好調になりました。





黒△と守った場面、ここで殆どのプロが真っ先に考える手は・・・





白1の切りです。
黒2、4と大石を逃げるしかなく、白5と先に伸びられて気分が良い進行です。
しかし実戦はこの図を選びませんでした。
黒△を動き出される心配をしたのでしょうか。





実戦は白1の曲げから3、5と一気の押し!
相手を先に伸びさせてしまうのは「車の後押し」と言って、良くないとされています。
しかし白7の大場に回れば分かりやすいという判断でしょう。
この白7の位置にも注目で、一路先のAまで行っても怖いことはありません。
このあたり、謝女流本因坊の優勢意識が感じられました。





ここで向井五段の黒1、3も独特の打ち方です。
見た感じは一貫性の無い打ち方で、謝女流本因坊もこれは行けると思ったのではないでしょうか。





しかし右辺を黒1と利かし、上辺白に黒3、5とプレッシャーをかけて行きました。
このあたりが向井五段の強い所です。
これを思えば・・・





早い段階で白1を利かしておくべきだったかもしれません。
後に3、5の先手も保障されて△に1眼確保、ほぼ生き形になります。





白1、3の対応も堅すぎる印象で、黒4となって黒石の連携が良くなって来ました。





結果、右下隅を利かして黒△に回っては形勢急接近しました。
ここからは息詰まるヨセ合いです。
双方にミスが出る中、黒が勝つチャンスもあったかもしれません。
しかし最後は謝女流本因坊が抜け出し、栄冠を手にしました。


強い謝女流五冠ですが、いつも良い碁が打てるわけではありません。
女流タイトル制覇が懸かった本局も堅さが見られ、向井五段の猛追を許しました。
しかし、苦労しても最後には勝ってしまうのが謝女流五冠です。
全冠制覇するような棋士には、単純な実力だけでない何かがあるのでしょうね。

扇興杯準決勝その2

2016年07月16日 09時00分00秒 | 囲碁界ニュース等
皆様おはようございます。(一度言ってみたかった)
本日は昨日に引き続き、第1回扇興杯女流囲碁最強戦の準決勝の模様をお伝えします。
向井千瑛五段(黒)対藤沢里菜三段の対局です。



序盤、黒1から5はちょっと違和感のある打ち方です。
下辺を盛り上げる方針と合っていない気がします。
この後白Aから上辺を盛り上げる事になり・・・





白△まで左上を大きな地にしては白好調です。





しかし、白2とボウシで消しに行ったのは踏み込み不足だったのではないでしょうか?





黒の形が薄いので、踏み込んで行くべきだったと思います。
白Aのハネ出しで分断するのが狙いです。





実戦は黒1の受けに対して、白2、4のツケ切りが常套手段です。
白はこの手でやれると見ていました。





もし黒1と穏やかに受けてくれれば、白6までの進行が想定されます。
黒地を割っただけでなく、左下黒が弱い石になっています。
これが白の注文でしたが・・・





黒2、4が凄い手でした!
向井五段らしい最強の打ち方です。
一見すると黒危険なようですが・・・





白1とやって行くとこんな進行でしょうか。
下辺を破れますが、黒が厚くなるとAと左下白の眼を奪う手が厳しくなります。





あるいは黒4を打ってからの黒8切りかもしれません。
やはり黒Aが狙いです。
白はどちらの図も思わしくないと判断したのでしょう。
しかし、仕掛けた以上はこれで行くより仕方なかったのではないでしょうか。





実戦は白5までと引き上げましたが、後手で黒地を固めただけになってしまいました。
黒8の絶好点に回られては、形勢は一遍に黒に傾きました。





地道な争いでは勝てないので、その後白は中央を広げる作戦に出ています。
ここで黒Aあたりから右辺の白にプレッシャーをかけて行けば勝負は早かったでしょう。





黒1と堅い石から飛んだのはどうだったでしょうか。
やや震え気味の印象で、白2から目一杯に中央を囲って少し難しくなりました。





黒1から5と切って行きましたが、白6と中央を囲い切って勝負に出ました。
右辺白は生きていませんが、黒にもAやBの傷があって味良く取るのは簡単ではありません。





しかし、震え気味だった向井五段がここで座り直しました。
しっかりと時間をかけて黒1を決行!
恐れずに白を取りに行きました。
これが本局の勝着でしょう。





白は色々と黒の嫌味を衝いて行きますが、黒はしっかりと受けているようです。
白△が最後の罠で、黒Aと受けると白Bの切りが先手になるため、白Cから右上隅を手にされてしまいます。





しかし、既に計算も出来ていたのでしょう。
冷静に黒1と右辺を取り切って黒の勝ちが決まりました。
向井五段の鋭い仕掛けが光った一局だったと思います。

謝女流本因坊と向井五段で争われる決勝は、明日7/17(日)の午前9時から行われます。
対局の模様は幽玄の間囲碁プレミアムで生中継されます。
お楽しみに!

扇興杯準決勝その1

2016年07月15日 20時49分17秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日第1回扇興杯女流囲碁最強戦の準決勝が行われました。
準決勝の組み合わせは謝依旻女流本因坊青木喜久代八段向井千瑛五段藤沢里菜三段となり、謝女流本因坊と向井五段がそれぞれ勝ち決勝進出を決めました。
本日は謝女流本因坊(黒)対青木八段の対局の模様をお伝えします。



序盤から難解な事になったようですが、これは大型定石でプロの対局では数多く打たれています。
白1はAを狙ったシチョウ当たりで、黒は2で防ぎました。
ここで白もAと逃げて行くのが普通ですが・・・





白1、3とシチョウ当たりからの連打を急ぎ、黒2と抜かせました。
右上の連打も大きいですが、黒4と攻められると左下で白が打った手の大半が悪手になっています。
この分かれは黒が良いでしょう。





その後黒△とノゾキを打たれた場面です。
ここでAと受けて生きを確保するか、Bと頭を出すのが普通の発想ですが・・・





気合を重視する青木八段らしく、白1、3と反撃!
しかし黒6となって左辺の白が不自由です。
Aとツケて足早に進出したいのですが・・・





黒2、4であっ!と言う事になります。
ダメ詰まりは怖いですね。





止むを得ず白1でしたが、空き三角はプロの最も嫌う形です。
黒8、10で眼を取られ、苦しくなってしまいました。





左辺の白をなんとか逃げ出したものの、左上の黒模様が大きく固まっています。
さらに黒△が絶好点で、白5子が攻められる事になりました。





白は必死に凌ぎましたが、狭い下辺に押し込められてしまいました。
ここで白Aなら無事ですが、黒Bと1子を抱えられては勝ち目がありません。





そこで白1から5が青木八段の勝負手!
黒Aと打たれると大石に眼がありませんが、中央黒の大石と刺し違えようとしています。
ここで黒が震えて逃げ出すようだと形勢は急接近しますが・・・





黒1、3のツケ切りで力強く反撃!
これがこの碁の決め手になりました。
白の包囲網を破ろうとしています。





黒8で白を切断、白も9から黒を切断しましたが・・・





中央の黒7子と下辺の白が攻め合いになり、その過程で△の種石が抜けてしまいました。
中央の黒は取れましたが、これでは取引になりません。
ここで勝負ありました。
最後は右下の白も仕留め、謝女流本因坊が決勝進出を決めました。

謝女流本因坊の力強い打ち回しが光った1局でした。
青木八段としては序盤から守勢になってしまい、力を出すチャンスがありませんでした。


明日はもう1局の準決勝、向井千瑛五段対藤沢里菜三段の対局の模様をお伝えします。
なお決勝は7/17(日)9:00から、幽玄の間で中継されます。
お楽しみに!

幽玄の間

2016年07月14日 21時20分27秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
木曜日は棋士の対局日です。
本日も幽玄の間で行われた対局を振り返って行きます。



林子淵八段(黒)対武宮正樹九段戦です。

武宮九段が白1のツケコシで仕掛けました。
黒の弱みを衝く常套手段です。





白1、3はゆったりした打ち方です。
武宮九段のイメージ通りではありますが、これでは甘いと言う事でしょう。





実戦はこのように進みました。
白6と石が下に行って・・・





白1、3、5と2線を打ち続ける!





最終的にはこんな形、これでは武宮九段の碁とは気付かれないでしょう(笑)
実は偽物が打っているのでは?





しかし、白22までと進行してみるといつの間にか中央が白っぽくなっています。
長手数になってしまいますが、あえて1図で示しました。
前図と見比べてみてください。





左上の三々にも悠然と対応して地を与えています。
プロは地が気になって仕方のない人種なのですが・・・
やはり本物の武宮九段でした(笑)





しかし、案の定白地が足りなくなりました。
盤面で20目以上は足りません。
こんな事で勝負になるのでしょうか?





という所で、白は溜めた力を爆発させて攻めかかりました。
白5のような手は周囲の白が強くなければ打てません。





黒1、3と脱出を図った時、白4が双方の急所です。
自分の傷を守りながら黒を攻めています。
さて、ここで黒は重大な分岐点です。





黒1と受けたくなりますが、白2から本気で取りに来られるでしょう。
左上の黒に対して利きがあるため、白8となって黒は脱出出来ません。





止むを得ず黒1、3とかわしましたが、白4となって20目ぐらい地が増えました。
こうなっては一遍に細かい碁になっています。
武宮九段が見事な打ち回しを見せ、最後は黒1目半勝ちでした。
林八段は実力者です。

お知らせ&3子局

2016年07月13日 20時16分52秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
まずはお知らせです。

〇日本棋院市ヶ谷本院指導碁
7/17(日)に市ヶ谷で指導碁を行います。
詳しくはこちらをご覧ください。

〇Twitter
先にお知らせした通り、Twitterを始めています。
https://twitter.com/Shiraishi_igo
そちらもぜひご覧ください。

〇出版
本を出す事になりました。
主に一桁級の方が学ぶべき事をまとめた内容になると思います。
執筆はこれからですが、11月中の出版を目指しています。
進展があり次第お知らせして行きたいと思います。

以上お知らせでした。
さて、それでは本日の講座に移りましょう。
今回は先日の永代塾囲碁サロンでの3子局を題材にします。



白△とタケフに繋がった所です。
次の黒の一手はAとBどちらでしょうか?






実戦は黒1と中央の1子を大事にしました。
白2に黒3と攻め、一見すると絶好調の攻めですが・・・





白1から反撃されてみるとどうでしょうか。
右辺の黒が心配ですね。





黒1から安全を図ったのは止むを得ませんが、黒△の石が動けなくなりました。
白石が全部繋がってしまい、厚みに変わっています。
こうなるとAなどに隙間が空いていて、周りの黒はいかにも薄い姿になっています。





慌てて攻めず、黒1が正解でした。
相手に弱い石があれば攻めるのは当然ですが、その前に自分の足元を固めておかなければいけません。
黒1によって隅と繋がりますし、同時に白の根拠を奪う手にもなっています。
黒△の石が気になるでしょうが・・・





白1に黒2と逃げると白9まで、左上の黒模様が消えてしまいます。
確かにこの展開は黒嬉しくありませんが・・・





1子を逃げる必要はありません。
この石を取っただけでは2眼出来ないからです。
黒2、4と模様を広げながら攻めます。
黒に弱点が無く、理想的な攻めの態勢と言えるでしょう。
右辺の黒がしっかりしているため、後々黒Aなどの打ち込みも安心して打つ事が出来るでしょう。


勢い良く攻めるだけでは真の戦上手にはなれません。
守りながら攻める感覚を身に付けましょう。