*川村毅作・演出 公式サイトはこちら (1,2,3,4,5,6,7,8,9)
2年ぶりの川村毅新作はワークショップ・オーディションに参加した若手俳優を中心にした近未来の世界を描いたもの。前半と後半で全キャストを替えての2チーム公演で、後半を観劇した。
2年ぶりの川村毅新作はワークショップ・オーディションに参加した若手俳優を中心にした近未来の世界を描いたもの。前半と後半で全キャストを替えての2チーム公演で、後半を観劇した。
正面と左右にいくつもの扉があり、その枠が白くぼおっと浮き上がって見える以外は暗く箱のような部屋が舞台である。白いシャツを着た男女5人(丸山港都、大久保眞希、鈴木結里、下前祐貴、寺内淳志)が立っている。大きなマスクで顔半分が覆われているが、感情が固まったように奇妙な表情であることはすぐにわかる。彼らはかつてウィルスが世界に蔓延したとき、14歳だった。30数年後を経て、新しい世界を創り出すための新たな「政党」を体験するプロジェクトの人員だ。黒服のチーフ・プロデューサー・マネージャー(高木珠里)が指令を仰いでいるのは、プロジェクトを司る組織のリーダーらしい。
「30年後の、ワタシタチ へ」とチラシにあるように、時の設定は205X年、つまりコロナ禍から30年後である。100年に一度と言われるパンデミックと、AIの開発が進む2021年の現実から将来を見据えた作品だ。登場するのは前述の男女5人とチーフ・マネージャーのほかに、プロジェクト・マネージャー(原田理央)、最後に登場する男性(神保良介)の合計8人である。
感染者数が減少しているとはいえ、果たしてこのウィルス禍の完全な収束というものがあるのか、マスクを外して会話できる日が来るのかといった不安や疑問がどうしても消えない現状あり、今夜の舞台もつまりは近未来の話なのだが、SFものと括ることができない。30年など、あっという間に過ぎてしまう。果たしてそのとき、自分は存在しているのか。この世はどうなっているのか。また劇中の台詞にあったように、マスクを付けて相手との距離を取ることが日常となった今、人間同士(特に子どもたち)の健やかなコミュニケーションは成立するのだろうか。
非常に緊張感の高い舞台で、感覚や記憶も統御されたロボットと、生身の人間を行き来する男女5人の発語や動きなど、その造形から目が離せない。これまで何らかの映画で見たことのある、いかにもロボット風のぎくしゃくしたありきたりな演技ではなく、心身のどこかに人間の体温を残していたり、逆に人間のときであっても完全に開放されていないところを感じさせる。戯曲を深く読み込んで試行錯誤を重ね、入念な稽古を積んだことが想像され、見応えがある。特に終盤で人々がフリーズするときの美しさには息をのんだ。
物語の構成や流れについてゆけなかったところもあって、十分に理解できたとは言えないが、再見すればどんどんのめり込み、面白さや魅力を確かな手応えとして得られる作品であろう。2021年を生きているわたしたちが205X年の人々を見ているのだが、同時に、30年後の世界の人々が今のわたしたちを見ているとも言える。2021年と205X年は別世界ではなく、この足元から地続きなのだ。最初は遠く感じられた舞台の8人の俳優との距離が物語が進むうちに交じり合い、カーテンコールでは同じ地平にあると実感した。
『オール・アバウト・Z』は未来から現在を俯瞰し、困難な現実において舞台を創り、それを見るという関係性を提示している。甘い夢や希望を持たせるものではないが、わたしはむしろそこに、作り手の「演劇への信頼」を感じるのである。
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