*曲亭馬琴作 渥美清太郎脚色 尾上菊五郎監修 国立劇場文芸研究会補綴
通し狂言『南総里見八犬伝』五幕七場 国立劇場 27日まで
通し狂言『南総里見八犬伝』五幕七場 国立劇場 27日まで
前日の雪がまだ残る正月七日、今年のの初芝居は半蔵門の国立劇場初春歌舞伎公演となった。地下鉄の駅からの道筋が大変静かなせいか、歌舞伎座のような親しみや賑々しさとは違う雰囲気にまだ馴染めないのだが、久しぶりに3時間越えの「通し狂言」に心が弾む。三階席からの眺めも上々だ。
『南総里見八犬伝』と言えば、小学生のとき、家族で楽しんだNHKの人形劇「新八犬伝」(NHKアーカイブス)が今でも記憶に鮮やかだ。物語のおよその筋や登場人物も一応把握しているものの、このたび初めて歌舞伎上演を鑑賞し、馬琴が48歳の時に刊行がはじまって、30年近い年月をかけて完結されたという重厚な物語に圧倒された。公演パンフレットには、本作の成り立ち、歌舞伎上演の歴史なども詳細に記されてずっしりの読み応え。楽しむというより、「勉強する」感覚である。
食事のできるほどの長い幕間がないことに慣れてしまったが、本公演は30分の休憩があり、限られたスペースではあるが飲食は可能である。前述の公演パンフレットに「当たり券」が入っており、国立劇場開場55周年記念の手拭をいただくなど、初春公演ならではの「お楽しみ」も。
3部制がすっかり定着したとはいえ、複数の演目が並ぶ歌舞伎座公演が、美味しいものや珍品をいくつも詰め合わせた豪華な幕の内弁当なら、通し狂言が上演される国立劇場は、一見地味ながら、素材も調理法にもとことんこだわった一品料理の味わいと言えようか。中村吉右衛門が旅立って、その肩にますます責任の重みが加わった当代の尾上菊五郎の貫禄、実父と岳父から学んだ芸道を誠実に歩み続ける菊之助、また今回は特に尾上左近の懸命なすがたも印象に残る。長時間の観劇は久しぶりだったが、心地よく客席に身を委ねることができ、嬉しい芝居開きとなった。
変異株の感染急拡大で、歌舞伎座では配役や演出の変更などの措置が取られている。現代劇公演でも一部休演や公演中止の報道が少しずつ増えていることに不安が募るが、どの舞台も無事に開幕し、最後まで無事に走り抜けられることを願っている。
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