因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

第34回シアターχ名作劇場

2012-03-15 | 舞台

 川和孝企画・演出 公式サイトはこちら シアターχ 18日まで
*佐藤春夫作 『募春挿話』
*岡本かの子作 『ある日の蓮月尼』
 「日本近・現代秀作短編劇100本シリーズ」と銘打って、1994年から年2回のペースで行われているもの。みる機会がなかなかない作品2本立てが、この超破格の料金(1000円!)である。
 演劇制作の事情の、どこがどうなってこの料金設定になったのかはまったくわからず、興業的に成立しているのか心配ではあるが、ここは感謝して舞台を大切に味わうことにしよう。自分が名作劇場に訪れるのは、1997年の第4回公演『乞食と夢』、『掏摸の家』以来である。
 当日リーフレットはA5サイズの可愛らしいもので、文字の大きさや余白のスペースもきっちりとめりはりのある丁寧な作りだ。10ページにわたって出演者のプロフィール、佐藤春夫、岡本かの子の略年譜、名作劇場の上演記録が記され、さらに「佐藤春夫『暮春挿話』初出から初演まで」について」(武藤康史)、「岡本かの子と『ある日の蓮月尼』」(中村義裕)と、作家論、作品論も掲載された丁寧な作りである。

*佐藤春夫『暮春挿話』 避暑地のホテルに外交官と妻が訪れている。そこへ老紳士が現れ、自分がその妻の父親であると告白して去ってゆく。「ロマンチックな香り高い作品で、戯曲というよりむしろ散文詩ともいうべき詩情豊かな作品」と公演チラシにあるとおり、人物の動きも少なく、舞台を集中して見続けるのはやや辛い。ずっと以前放映されたテレビドラマで、ヒロインがある男性のことを「佐藤春夫の詩じゃなくて、小説を読んでいるなんて、よほどの読書家ね」と評する台詞があった。佐藤春夫といえばまず詩人のイメージがあり、今回自分が小説すらとび越えて戯曲を味わうのはむずかしいものがった。

*岡本かの子『ある日の蓮月尼』 武藤康史の寄稿によれば、人生の苦しみからの救済をはじめにキリスト教に、つぎに浄土真宗に求めた岡本かの子は、次第に仏教研究家として名を馳せるようになる。太田垣蓮月という実在の尼僧をモデルに、みずからの生き方を示そうとしたと思われる作品だ。美しい蓮月尼の庵に、彼女のからだを求めて若者が押し入る。彼を制した尼僧は驚くべき行為にでる。

 着物に鬘をつけ、さまざまな調度も整えた時代劇のこしらえだ。自分を恋い慕うあまり乱暴に及ぼうとした若者に対して、自分の歯を折って貞節の心意気を示す壮絶な場面は、『夏祭浪花鑑』のお辰を思い起こさせる。蓮月尼役の神由紀子、堂々の主演であった。

 公演のたびに新作をうつ小劇場系の舞台に観劇の多くを費やしているのが自分の現状であるが、名作劇場やみつわ会の舞台をみると、数十年前の作品が俳優の肉体と声を通して息づくさまに背筋が伸びる。勉強不足をひとしきり恥じて嘆いたあとは、せっせと戯曲を読み、機会を探して足を運ぼう。戯曲や評論はひとりでも読めるが、それが目の前で立ちあがり動き出す様相が魅力的だから、自分は演劇を見続けているのだから。

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