因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

NHK Eテレ「にっぽんの芸能」より「中村吉右衛門の至芸 歌舞伎“寺子屋”」

2020-05-13 | 舞台番外編

*番組サイトはこちら 2019年9月の秀山祭九月大歌舞伎の舞台から、『菅原伝授手習鑑』の「寺子屋」をダイジェストで紹介する。松王丸役の中村吉右衛門を中心に、武部源蔵を松本幸四郎、妻戸波を中村児太郎、松王丸の妻千代を尾上菊之助と、若手役者が顔を揃える魅力的な座組だ。この4月から番組の司会を勤めるのは、「中村吉右衛門と同い年」という俳優の高橋英樹と、朝の連続テレビ小説『スカーレット』で素晴らしい語りを披露した中條誠子アナウンサーである。

 55分の番組なので、特に前半部分はかなりカットされているものの、ところどころ中條アナの端正な語り口の解説が入ることもあって、あまり違和感はない。寺子屋に手が入り、孫や子を預けた近所のお百姓たちが心配して駆けつけたところでいったんスタジオに戻り、高橋と中條アナがここまでの感想やこれからのみどころなどを短く語ったところで後半に入る。

 後半から浄瑠璃の語りが字幕で示され、物語はぐっとわかりやすくなる。実際に劇場で鑑賞する場合、役者を観ること、その台詞を聴くことに必死で、浄瑠璃や長唄については格調高いBGMと化してしまい、味わうことが疎かになっていることを痛感させられる。

 主君への忠義のために、松王丸はわが子を身代わりに差し出す。堂々と平然としているわけではない。腸が千切れるような悲嘆があり、それが一気に噴き出すのが後半の見どころである。源蔵から息子の最期の様子を聞かされた松王丸は、「たった九つで親の役に立つとは」と安堵するも一転、恩義も果たさず自害した弟の桜丸(これは前段の「賀の祝」を観ていないとわかりにくい)が不憫でならぬと号泣する。松王丸は直接子に対して悲しめない。弟を通して、ここまで来て、ようやく泣けたのだ。

 この場面については、以下過去記事がある。2015年三月大歌舞伎での市川染五郎(現・幸四郎)、2016年十二月大歌舞伎での中村勘九郎の松王丸である。初めて「寺子屋」を観たのが十五代目片岡仁左衛門の襲名披露公演(ただしテレビ中継で)だったせいか、松王丸は人間国宝級の大ベテランが演じるものという思い込みがあった。しかし若手が懸命に挑む松王丸は、その悲しみがひときわ強く伝わってくる。息子は「たった九つ」。松王丸はまだ若い父親と言ってよいだろう。今年の新春浅草歌舞伎では尾上松也が松王丸を丁寧に勤めており、これからの成長、円熟へ向かうことが楽しみだが、まずは今現在の「寺子屋」を大事に受け止めたい。

 前述の通り、舞台中継と解説を1時間弱にまとめた番組なので、あまり気構えずに視聴でき、観劇の予習復習にもなる。今後も大いに活用し、楽しみを増してゆきたい。

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