因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

TRASHMASTERS vol.24 『猥り現』(みだりうつつ)

2016-02-27 | 舞台

*中津留章仁作・演出 公式サイトはこちら 赤坂RED THEATER 28日で終了
 ここ数年、まさに「ぶっ飛ばす」ような勢いで精力的な活動をしている中津留章仁だが(1,2,3,4)、しばらく足が遠のいていた。東日本大震災と福島第一原発事故以来、これまでこの国で何が起こり、何が見過ごされて今に至ったのか、現在起こっていること、これから起こり得ると予想されること、何がいけなかったのか、どうすればよいのかといった極めて硬質で喫緊の問題に、恐れることなく正面からぶつかる姿勢には、「頭が下がる」などといった控えめな感想では太刀打ちできない。観る方もただ受けとるだけではなく、何らかの主体的な考察、行動を求められているかのようで、重すぎることが理由のひとつ。それから舞台の勢い、発するエネルギーの力強さはたしかにものすごいものがあるが、うまくことばにできない違和感があった。

 最新作のテーマは「宗教」である。オウム真理教による一連の事件が起こってから20年が過ぎた現在、世界を脅かしているのはIS(イスラミック・ステート)によるテロ行為、破壊活動だ。

 結論から言うと、自分は2時間30分を長尺とも思わず、緊張感を保ったまま舞台に集中し、かつ芝居として楽しむことができたのである。中津留章仁作品の観劇でははじめての感覚で(失礼!でもほんとうなのだ)、それは何本か体験して慣れたからというよりは、今回最前列の座席になり、最初はただでさえ強烈であろう中津留作品を、この距離で見るのはきついと怯んだが、はじまってみるとまったくの杞憂であったのだ。最前列であるから舞台しか見えない。ほかのお客さまがどんな様子であるかということを、ほぼまったく感じることなく、あたかも「舞台VS自分」のごとく、気を散らさずに見ることができたのは幸運であった。

 物語は、冒頭こそ「クリスマスに恋人がいないとどんな気分か」といったふわふわした会話が聞かれるが、あっという間に怒濤のごとく議論の応酬になり、とんでもない事件が起こる。引き込まれながらも、ところどころ、「あれ、これでいいのかな」とか、「ちょっと無理があるのでは」といった箇所が散見する。前半の警官の挙動や、一般企業人と言いながら実は刑事である男性が終盤に宗教学者に同行を求めるところで、逮捕状を見せながら何の容疑か口にしないこと、どういう経緯で彼が逮捕されるに至ったかがよくわからないところ、警察を頸になり、宗教学者に利用された元警官や、宗教学者にひれ伏すほど感謝していた店長が小切手を破るところなど、流れが強引であることなどなど。何度か観劇したり上演台本を読めばわかるのだろうか。
 さらに、ここまで細かいことを指摘せずともよいかもしれないが、気になったことをひとつ。商店街で不動産業を営む男性が登場する。彼はカトリック教徒だ。それほど熱心ではないと謙遜する場面で、「両親は週末は教会に行きますが」という台詞がある。彼は日曜のミサに行くことを「週末は教会に」と言ったのか。キリスト教徒にとって、一週間は日曜からはじまる。なのでこの言い方ではいささか妙ではないか。
 彼の別れた妻は弁護士で、イスラム教徒になった。この元夫婦は互いの宗教について、激論を交わす。これが自分の信仰を大切にする気持ちのあらわれでもあろうが、宗教のみならず世界の歴史、日本はじめ世界の政治状況まで網羅する大変なものなのである。ここまで詳しく、情熱溢れる議論のできる人物が「週末は教会に」などと言うのはどうにも残念だ。

 宗教、政治、戦争といったテーマのなかに、ごく個人的な恋愛事情を持ちこむ人物として、若いOLが登場する。ムスリムの青年をしきりにデートに誘う言葉や態度は、彼に恋をしているからというより、興味本位の軽薄な振る舞いに見えるため、彼が同性愛者と知ってショックで号泣するところもとってつけたようである。終始一貫して凛とした姿勢をくずさない弁護士に向かって、「自立した大人の女性になりたいんです」と問いかけ、「女を磨きます」と宣言する。こういう言い方をすることじたい、いや、劇作家がさせることに対して、自分は違和感が拭えないのである。弁護士との対比のためか、軽いノリでムスリムの青年を誘っていた彼女が少しずつ成長していくことを示す意図があるのか。女性の造形について、もう少し踏み込んでほしいと思うのだ。

 この公演のあと、中津留章仁は4月に青年劇場で『雲ヲ掴ム』の作・演出、秋には劇団民藝に書き下ろしと、快進撃が続く。今回の観劇をよいステップにして、また中津留作品と向き合いたい。

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