因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『忠臣蔵』

2006-05-31 | 舞台
*平田オリザ作 戊井市郎演出 こまばアゴラ劇場 文学座+青年団自主企画交流シリーズ第2弾。
 「え、討ち入りって何?」
 本作のキーワードはこれである。

 あの忠臣蔵を平田オリザが現代口語で書いた戯曲。俳優は浴衣姿だから一応和装であるが、髪型はそのまま、普通の日常会話の調子で話が始まる。
 自分にとって忠臣蔵は非常に魅力的なお話である。なぜか。ひとつには志を貫くために、耐えて耐えて耐え抜いてやり遂げる生き方を美しく思うからである。もうひとつは、思いもよらない困難に襲われたとき、迷ったり悩んだりして、それでも生きていく人々の姿が、討ち入りに参加不参加に関わらず、遠い昔の出来事に思えない現実味を感じさせるからである。
 ほんとうのところ、赤穂のお侍たちはどんな気持ちだったのかな?その疑問に本作は心憎いまでの鮮やかな手さばきで「忠臣蔵」をみせてくれる。大石内蔵助(外山誠二)以外の家臣は「佐々木さん」「久保田さん」等の名前で登場する。名もない義士たちの本音が次々に飛び出す中、次第にことの本質があぶり出されてくる。忠義とは、武士道とは何か?
 
 好感がもてたのは、いかにも「現代風に解釈してみせました」という作者の自己主張や思い入れが前面に出ていなかった点である。俳優では大石役の外山誠二が出色。一代の名演技ではないか。よれよれの袴すがたで飄々と現れ、決して威張らず家臣の意見を聞き入れつつ、場をまとめていく手腕に「この大石ならいける!」と思った。特に終幕で「殿がこうなったのは、運命じゃない?みんなでぱっと江戸に集まって、さっと討ち入りしてちょっと幕府困らせて、それから切腹するのもいい(中略)。この逆境を皆さんの人生にいかしてください」という味わい深いしみじみとした口調には、「きっと大石さんはそう言いたかったんだろうな」と感じさせる(注:台詞は記憶によるもので、正確ではない)。 前作『チェンジング・ルーム』でコーチ役だった横山祥二は、今回自分の意見をなかなか言わないお侍の役であった。アトリエ公演の『エスペラント』の添乗員からは割合想像しやすいキャラクターで、となるとあのコーチ役はほんとうに横山さんだったのか、またしても考え込んでしまうのであった。

 生きていればいろいろなことがある。突然の不幸であってもあまり深刻にならず、できれば笑ってふざけて乗り切っていきたいと願うのは、昔も今も変わらないのではないか。泣いていてもしかたがないし、ともかく生きていかなければならないのだから。

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