因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団フライングステージ 第42回公演『Family,Familiar 家族、かぞく』

2016-11-02 | 舞台

*関根信一作・演出 公式サイトはこちら 下北沢OFFOFF劇場 6日で終了(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15)
 昨年秋上演された『Friend,Friends 友達、友達』は、パートナーシップ制度を利用しようとするカップルと彼らをめぐる人々の物語だ。今回は彼らのその後を描いた新作の『Family,Familiar 家族、かぞく』との交互上演である。できれば両方見たかったが、新作のみの観劇となった。

 この2本を途中休憩をはさんで2時間30分強の長編にすることも可能であると思われる。そして今回観劇の最大の収穫は、本作はもはやセクシュアリティに特化された物語ではなく、タイトルのとおり、家族、生活、人生、人間の物語であるという手ごたえを得たことである。

 好きな場面ひとつ。中盤で、レズビアンの母をもつ子どもたちふたりが黙々と食事を作り、いっしょに食べる。一家に母がふたり居る。それぞれ最初は男性と結婚し、子どもを産んだが、みずからのセクシュアリティに気づき、離婚。友里は息子の雄太を連れ、英子の娘のひかりは父親と暮らしていたが、その父が亡くなり、大学を出るまではと別れた母と、新しいパートナー、その息子といっしょに暮らすようになった。なかなかに複雑な事情である。ひかりは誰にも心を開かず、食事も自室でひとり飯、雄太も学校に行っていないらしい。

 たまたま顔を合わせてしまった夕飯どき。雄太がありあわせでおかずを作るという。「魚肉ソーセージとたまねぎを炒めて、焼き肉のたれで」。半信半疑で手伝うひかり。出来上がったおかずに雄太はマヨネーズをかけ、ひかりにも勧めるが彼女はいったん断る。しかし一口食べると「マヨネーズもらえる?」。きっとおいしくなかったのだな。ひかりが最初の一口で、「うわ、おいしい」。雄太が「だろ?お父さんと二人のときはどうしてたの?」などというほのぼのとしたやりとりを思わず期待した。これで二人の距離が一気に縮まると。しかし劇作家はそうしなかった。帰宅した母は、「また変なもの作って」というから、雄太はときどきやってはいるのだろうが、自分でもおいしいのかまずいのかわからずに食べていたのではないか。それはいっしょに食べてくれる人がいなかったからだ。

 だいたい焼き肉のたれで味つけした上にさらにマヨネーズとはどんな味か?!しかし複雑な事情のもとに暮らさざるを得ない子どもたちは、互いに相手を案じており、ひかりが不登校の雄太のあとをつけていたことや、それを彼が知っていたことなどをぽつりぽつりと話す。
 テンポのよいやりとりで軽快に話を運ぶ台詞の名手・関根信一が、ここでは静かな場面を作った。いくら二人とも働いているからといって、子どもたちの食事の材料くらい買いそろえていてもいいじゃないかと、つい自分は考える。けれどそのおかげで子どもたちは心を通わせることができた。登場人物たちですら十分にできないことを、劇作家がしているのだ。温かな視点、いたわり励ますようなぬくもりが感じられる。

 今回気づいたのは、同性であって結婚という選択をとり、パートナーズシップを取得までするのだから、そのカップルはほんとうに純粋に愛し合っており、ノーマルな夫婦よりも固い絆で結ばれていて、打算や妥協など微塵もないのだ・・・という思い込みが自分にはあったのではないかということである。実際報道で見聞きする同性カップルの方々はほんとうに晴れやかで、迷いが感じられない。
 しかし本作に登場するゲイのカップルのひとり尚之は、簡単にばれるような浮気で、パートナーから離婚を言い渡される。が、あまり反省する風もなく、浮気相手の老ゲイにかいがいしく世話を焼き、彼から拒絶されるとこれまたあっさり引き下がり、元パートナーのもとに戻る。こういった関係をさらりと描くところに、劇作家の辛辣な視点が少し柔らかめに現れていると思われた。

 老ゲイについても、最後は尚之の世話焼きぶりにほだされるのではないかと想像したが、「孤独死くらいさせてくれ」とあくまで孤高を貫こうとする。こちらの想像、いや安易な希望を退けるのである。ラストシーン、登場人物たちがそれぞれの思いで夜空を見上げるなかに、老ゲイもいる。相変わらず不機嫌な表情のままだが、彼はこれからもこのままなのか、少しでも変わっていくのか。客席にゆだねられたものはさまざまである。

 すべてを説明しない、解決させない。彼らの物語はこれからも続く。同じように現実の社会、わたしたちの人生もノンストップで続いていく。舞台を見ることが自分自身の生き方につながっていく幸せを感じた一夜であった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 劇団肋骨蜜柑同好会第8回公演... | トップ | 劇団チョコレートケーキ第二... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事