因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

アロッタファジャイナ2007年12月番外公演『クリスマス、愛の演劇祭』

2007-12-23 | インポート
公式サイトはこちら 渋谷ギャラリー・ルデコ4F 公演は16日で終了
 若い女性が悩ましげな姿態で横たわるチラシにどきっとした方は多いだろう。裏面を見てもっと驚いた。劇団の中で6つのプロジェクトを立ち上げ、6本の芝居を次々に上演していくというのである。並大抵のエネルギーではできないだろう。劇団の中には多くの俳優やスタッフがいて、そのどれにも光るものがある。それをどうにかして舞台に活かしたい。主宰の松枝佳紀はじめ劇団員が総力をあげて実現した、まさに「演劇祭」である。午後3時少し過ぎて開演し、6つの舞台が終わったのが9時15分くらいだっただろうか。この間、口にしたのはチェルシーひと粒、あとは飲まず食わずトイレにも行かず。

 もっとも見応えがあったのは、青木弟組による『地下室の労働者』であった。劇団の女優青木ナナの弟である青木康浩の作・演出による。前の組と舞台と客席の並びを変えるということで、いったん席を立ち、設置を待つ。客席前から座布団、丸椅子、最後列にパイプ椅子が並ぶが、ぎりぎりのスペースである。背もたれが欲しくて最後列に座ったら舞台がまったく見えなくなってしまい、立ち見することに。

 地下作業室に外国人労働者男女4人が寝起きし、働いている。2台の自転車を交代で漕ぐ。彼らは日本語を話せない。現場監督の男は日本人で、彼らが怠けないように目を光らせつつも、多少の優しさや配慮もみせる。4人の言葉はまったく理解できないが、必死で働きながら地下室からの脱走を計画しているらしいことがわかる。ある日雇い主が現れ、時間になっても眠りこけている労働者を叩き起こし、彼らのみならず現場監督にも罵声を浴びせ、暴力を奮って労働を強いる。罵倒された現場監督は、今度は人が変わったように労働者に牙を剥く。聞くに耐えない暴言と目を背けるような暴力に、客席の空気が凍りつく。それまでの3本の芝居がホームドラマ風、ファンタジー風、コント風だったのに比べるとクリスマスとも愛とも遠く、いささかバランスが悪いのではと思うほど重苦しい。当日チラシに作・演出の青木康浩が思いをしたためており、これも誠に硬派で誠実なものであった。日本語を使わないこと、物語ではなく人間によって感動を作りたいこと、俳優に自主性を求めていること。今回の舞台作りの過程を網羅したという「作品資料集」が販売されていたのだが、まずは目の前で起きたことから考えたいと思い、敢えて購入しなかった。

 見応えがあると感じたのは、舞台の内容があまりにへヴィーだったからではなく、作り手の気持ちが直球で投げられていたからではないかと思う。観客を楽しませたい、喜んでほしいという気持ちも大切だが、これはうっかりすると創造の志に逸れることもあるだろう。青木弟組の舞台には客席を拒絶するかのような張りつめたものがあり、ぼんやりしているとこちらが倒れてしまう。物語、台詞を越えた人間の力、演劇の力を作者は必死で探そうとしている。重みのある直球の勝負。自分は受けて立てるだろうか。「おもしろかったよ」「がんばってね」という思いやりはあっても根拠のなさそうな感想や励ましは言えない。もっともっと鋭く強く、的確な言葉が必要だ。それを探したい。

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