因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ブラジル公演『天国』

2007-07-21 | 舞台
*ブラジリィー・アン・山田脚本・演出 公式サイトはこちら ザ・ポケット 公演は22日で終了
 「期間工」とは、ある一定期間住み込みで働く期間労働者のこと。当日チラシ掲載のアン・山田の「ごあいさつ」によれば、給与はじめ待遇は悪くないが、単純作業なのでいくら働いても技術の習得にならず、体力はもちろんそれ以上の精神力が必要とされるとのこと。仕事は何でも大変だが、大変さの度合いや喜びや誇りを見いだすことができるかどうかは仕事によって、働く人によって異なるだろう。ブラジルの新作は、どこか地方の町の自動車工場の期間工たちの物語である。

 彼らが美人女将を目当てに夜な夜な集う居酒屋が舞台。期間工として働く理由はそれぞれあって、日頃の憂さを安酒と女将の手料理で晴らす男たちの会話のおもしろさが開幕直後あっと言う間に客席を掴む。謎めいた女将と男たちとの関わりが、過去のものが知らされるだけでなく、どんどんもつれていく。過去はいったい誰の話すことがほんとうなのかよくわからないし、「過去+新規の出来事」が次々に起こって、最後は血まみれの惨状となる。ん?これは先月みた阿佐ヶ谷スパイダースの『少女とガソリン』に似ていないかしらん。

 話が妙な展開を始める前兆として、女将の口調(アクセント)に突然過剰反応する期間工サトウ(西山聡)のリアクションが少々わからず、早々と躓いてしまった。そこまでは馬鹿話だったのが、この場面を分岐点としてとんでもない方向へ暴走していくのであるが、酔っぱらいの奇態にしてはちょっとくどいなと感じ、そのあとの急展開に結びつかなかった。未来の不確かなことの象徴であるかのような期間工を描くことと、過去が明かされ、どんどん事件が起こっていくことのふたつがどちらも重すぎて最後はいささか拍子抜けの印象。結論が欲しい、オチを知りたいというわけではないが、これでは終わっても帰るに帰れず、場内に流れる越路吹雪の『サン・トワ・マミー』を意味もなく口ずさむ。

 設定(場所、登場人物など)と事件のバランスは難しいのだと思う。設定が重すぎて事件が受けきれない場合もあるし、かといって淡々と流れる日常を描き通し、舞台として成立させるにはまた別の力量が必要になる。アン・山田氏は「期間工」という生き方に、どういう距離感をもってこの物語を書いたのだろうか。寄り添う優しさでもなく、冷徹な観察眼とも違う何かがあることは感じ取ったのだが。

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