因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

声を出すと気持ちいいの会番外公演『覗絡繰-ノゾキカラクリ-』

2010-11-26 | 舞台

*山本タカ脚本・演出 公式サイトはこちら 明治大学駿河台校舎14号館プレハブ棟演劇スタジオB 29日まで
 これまでにいわゆる「学生演劇」をみたのは記憶にある限り2本である。1本は某女子大のシェイクスピア研究会による『夏の夜の夢』、もう1本は明治大学の実験劇場の公演であった。もう昔むかしのことだ。それから長い年月、保守系の新劇系と自己規定した演劇歴が続き、数年前から小劇場通いに夢中になって、いま久しぶりに訪れた御茶ノ水の町を歩き、非常にわかりにくい場所にある演劇スタジオBに向かう。数年前までの自分には想像もできなかったことである。

 演劇集団・声を出すと気持ちいいの会、通称コエキモは2008年に明治大学の学生が中心になって立ち上げた劇団で、これまで5回の公演を行っているが、今回全てをゼロに戻してもっと素直に芝居を作ろうと番外公演を企画したとのこと。

 舞台は純和風の部屋で、襖や座布団、布などの調度類は古風な作りだ。上演前の音楽も三味線を伴奏にした女声コーラスで、不思議な時空間へと観客をいざなう。

 ひとりの男が、引きこもりの兄の話をはじめる。社会に出る準備をするべくパソコンを買い与えられた兄は、ネットで小説の江戸川乱歩の小説『芋虫』、『押絵と旅する男』に夢中になり、小説の世界に登場する女に恋をした。ふたつの小説はエロティックを通り越してグロテスクな部分もあるが、山本タカは強烈な小説に対してどうすれば自分が描きたい舞台になるかを冷静に考察して周到な準備をし、その上で大胆に腕をふるったと思われる。生身の女を知らない兄のほうが、社会に対しても女性に対しても如才なく振舞う弟に優って、わが身を滅ぼしてまで恋を貫く。どちらがほんとうの恋なのか、いま目にしているもの、手で触れているものはほんものなのか。夢と幻想と幻覚と妄想の虜になった兄と現実世界にいる弟とが、ひとりの女をめぐって複雑に絡み合いながら火花を散らす。

 舞台上にほんものの食べものを出すことで、それとは違うものを観客に喚起させようとしているところに、まだ試行錯誤が感じられたり、弟と恋人との様子があまりそれらしく見えないところ(敢えてそういう造形にしているのだろうか)など、若干違和感を覚える場面もあるが、それでも小さな劇場の空気を静寂から狂気、そして寒々と悲しげな終幕まで自在に作り上げた手腕は、学外の劇場に進出しても遜色ない。いろいろな演劇人と交わって刺激をうけ、みずからの腕を磨いてまた新しい舞台をみせてほしいと願っている。

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