因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

林光・歌の本Ⅰ~Ⅳ全曲を歌う第2回

2013-06-27 | 音楽

*ティアラこうとう・小ホール 27日のみ
 オペラシアターこんにゃく座の歌役者である金子左千夫によるコンサート(1)の第2回。前回とおなじくソプラノの中馬美和、ピアノ伴奏を大坪夕美がつとめる。ティアラこうとうははじめて訪れた。中央ステージから扇のように広がっている客席のかたちや、床の傾斜、座席のゆとりなど、その名のとおり小さなホールだが、温かみのあるよい空間である。
 今回は林光歌の本Ⅰ「四季の歌」より秋と冬の歌11曲、歌の本Ⅱ「恋の歌」より8曲、ほかに宮澤賢治の詩による歌、萩京子作曲による歌数曲が披露された。
 金子が2006年から行っていた「ソングコンサート・イン・ムジカ」や、今年いちばんの大雪が降った日に行われた林光さんの追悼コンサート「希望の歌」で聴いた歌もあり、とても親しみやすく楽しいステージであった。テノールの金子とソプラノの中馬の二重唱の歌、ぞれぞれソロの歌のバランスもよく、金子や中馬が短く曲の解説をしながらときおり脱線する演出?もほどよく、よいチームワークである。

 今回はとくにピアノ伴奏の大坪夕美の演奏に目や耳を奪われるところが多くあった。けっしてピアノが主役になるわけではないが、歌を構成する大切な要素のひとつとしてしっかりと存在し、あるときは歌い手を優しく支え、またあるときは力強くけん引する。音色の変化、テンポや間合いの絶妙なること、まことにすばらしかった。
 千駄木のムジカホールではグランドピアノのかげになっていたが、今回は演奏の様子をしっかりとみることができた。背筋はすっきりと伸び、肩や腕や手首にもむだな動きがなく、とても美しい。林光の歌は、歌唱部分はもちろんのこと、ピアノ伴奏のパートももうひとりの重要な登場人物のように魅力的だ。歌とともにピアノを聴き、演奏のすがたをみる楽しみがあるのである。

 聴衆は林光さんの曲を1曲覚えて帰る。これが本コンサートのウリのひとつである。今回は、コンサート中盤に「かわいいシュゾン」(「フィガロの結婚」劇中歌 ボーマルシェ詩 内藤濯訳 林さん18歳のときの作曲!)、アンコールに「わたしのすきなこなひきさん」(マザーグース詩 谷川俊太郎訳)をうたった。前者はフィガロの主旋律を歌う金子に合わせて、「ゾゾン、ゾゾン」と繰り返す。それだけなのだがこれがめっぽう楽しく、この歌がいっぺんに好きになった。
 後者は粉ひきの若者を恋する娘の可愛らしい恋歌である。聴いているぶんにはとても易しい歌のようだが、じっさいに歌ってみると、冒頭の「つむじまがりでこなまみれ」の「こなまみれ」のメロディが「ソソソファレ」となるところ、とくにファ→レへ下がるのは、素人には意外にむずかしい。この歌だけでなく、林光の歌は耳になじみよく、すぐに覚えて歌えそうだが、歌いこなすにはそうとうの修練が必要なものではないか。

 日ごろ芝居に明け暮れて歌やピアノのコンサートを聴く機会がほとんどない身にとって、心身ゆたかに養われるひとときであった。滋養になるとはまさにこのことであろう。願わくはプログラムについて、ある曲からある曲への関連性など、コンサートの構成に明確な「芯」があれば、受けとめ方も変わって、ますます楽しく豊かな時間になるのではないかと思われる。

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