因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団青羽『そうじゃないのに』

2013-07-09 | 舞台

*李美慶(イ・ミギョン)作 金洸甫(キム・クァンボ)演出 タイニイアリス 7日で終了
 いつもより早くはじまったアリスフェスティバル2013のオープニング公演を飾ったのがソウルを拠点に活動する劇団青羽(チョンウ)である。2012年大韓民國演劇大賞演出賞、演技賞はじめ、10の賞に輝いた作品を引っ提げてタイニイアリスにやってきた。劇作家の李美慶も話題作を次々に発表しており、小さな劇場は彼らを応援する人々でぎっしり満員の盛況である。

 「韓国語のわかる方は前方の席へ、そうでない方は後方へお掛けください」と案内された。韓国の俳優による韓国語の上演なので、字幕を使うためである。字幕が映し出されるのは、プロセミアムアーチ上方部分である(←この表現でいいのか?)。

 ある日動物園から象が街へ逃げ出した。人も商店街もめちゃくちゃになぎ倒す大騒ぎである。象のトレーナーは鳩と鵞鳥のせいだと言うが誰も信じない。刑事は政治的策略だと考え、医者はトレーナーのファンタスティックなフェチによる性行動のせいだと分析し、トレーナーの母親は、彼が幼いころから家や学校で飼われている動物たちを自由にしてやりたいと考えており、動物たちを解放するために動物園に就職したのだと言う。

 異なる見解にトレーナーのことばはまったく通じない。彼は必死でくりかえす。「そうじゃないのに」

 というのが公演チラシに記載された本作品のあらすじである。上演前に読んだのでひととおりのことは頭に入っており、まったく白紙状態の観劇ではなかった。しかし残念ながら、今回の観劇はじゅうぶんな手ごたえをもつにはいたらなかった。

 最大の理由は字幕である。スタッフに案内されたとおり客席後方に座ったのだが、それでも舞台上方の字幕を読もうとすると、思ったより視線を上にあげねばならない。さらにテンポが早く、饒舌な会話劇ゆえ字幕はつぎつぎに進んでゆく。ひとつの台詞を目で読んで理解するためにそうとうな集中力をもって追わねばならず、その上で舞台で行われていることもみることになる。いろいろと試行錯誤したが、内容を理解することを優先させ、舞台の俳優をみることをなかば諦めざるを得なくなった。しかしそうすると耳から聞こえてくる自分にはまったくわからない韓国語の響きや、舞台上の激しいやりとりが気になって、字幕にも集中できない。

 舞台をみる上で何らかの妨げがあった場合、状況に応じてどのように対処するべきかを的確に判断する必要性を痛感する。何をあきらめるか、そのかわりぜったいにはずさず押さえるべきところはどこかを見極めれば、不完全な観劇であっても何かはつかめるはずだ。

 2月にシアタートラムで上演された『海霧』リーディング公演の充実を思い出す。かりにこれが韓国の俳優による韓国語の公演であったら。そして今回の『そうじゃないのに』が日本語上演であったら、自分はどのような印象をもつであろうかと考えるのである。

 

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