*テネシー・ウィリアムズ作 小田島恒志翻訳 鈴木勝秀演出 東京グローブ座 公式サイトはこちら 25日まで
はじめて『欲望という名の電車』の舞台をみたのはたしか1983年夏の青年座公演で、東恵美子のブランチに津嘉山正種のスタンリー、ステラは高畑淳子だった。自分もまだ子供といっていい年齢だった(でもないか)せいもあって、「何と暑苦しい芝居だろう」と思った。それから年月は一気に過ぎて、2002年蜷川幸雄演出、大竹しのぶ、堤真一、寺島しのぶの舞台になる(えびす組劇場見聞録の記事)。どの役にもそれぞれ一定の型があって、それは演じる俳優が相当に頑張ったり、斬新な演出を試みたりしても容易に崩せない印象がある。救いのない、やりきれない話。何度みても戯曲を読み返してもその思いは変らなかった。
今回はこれが三演めで演じ納めとなる現代劇の女形篠井英介のブランチ、父親の北村和夫が当たり役にしていたスタンリーには、息子の北村有起哉が挑む。北村有起哉が登場して最初の台詞を言ったとき、それが北村和夫によく似ていてどきっとした。血の繋がった親子だから当然とはいえ。自分は文学座の『欲望~』をみていないので、どんなスタンリーであったかは想像しかできない。またこれまで有起哉をみていて父親の影を感じたことがほとんどなく、彼は父親とは資質が違うのだという既成概念があったのだろう。伝統芸能の世界なら父親の芸が息子に受け継がれることは当然であり、普通に受けとめられる。しかし現代劇となるといささか違った感慨がみる側にも生じる。今回の配役も有起哉がこれまで体験した数々の作品があって行き着いたのであって、「お父さんの当たり役だから」という理由だからではないだろうし、継承する義務も責任もない。偶然であり、同時に必然でもある。だからこそ、『欲望という名の電車』という作品が持つ不思議な導きの力を強く感じるのである。
いいスタンリーだった。観劇後にまっさきに思ったのはそのことだ。スタンリーは粗野で下品で妻に暴力はふるうし、ブランチに対して何もそこまでしなくてもいいくらいに徹底的な仕打ちをする。あまり好きになれないタイプの男性というイメージがあった。有起哉もこれまでみたスタンリーに負けず劣らずよく暴れる。だが前半、ステラと激しい夫婦喧嘩をしたあとに、打ちしおれてそれでも虚勢を張りながら妻にすがりつく様子や、終幕ブランチを病院に送り込んだあと、悲しみに暮れてふらふらと歩いていく妻を見やる表情に惹きつけられた。彼のしたことは確かに少々乱暴だったが、あなたは家族を守ろうとしたのですね。これまでアタマで理解していたことが、スタンリーの体温とともに実感として受けとめることができた。
実は『欲望という名の電車』には、因幡屋個人にも家族にまつわる思い出があるのだが、それはまた別の機会に。
はじめて『欲望という名の電車』の舞台をみたのはたしか1983年夏の青年座公演で、東恵美子のブランチに津嘉山正種のスタンリー、ステラは高畑淳子だった。自分もまだ子供といっていい年齢だった(でもないか)せいもあって、「何と暑苦しい芝居だろう」と思った。それから年月は一気に過ぎて、2002年蜷川幸雄演出、大竹しのぶ、堤真一、寺島しのぶの舞台になる(えびす組劇場見聞録の記事)。どの役にもそれぞれ一定の型があって、それは演じる俳優が相当に頑張ったり、斬新な演出を試みたりしても容易に崩せない印象がある。救いのない、やりきれない話。何度みても戯曲を読み返してもその思いは変らなかった。
今回はこれが三演めで演じ納めとなる現代劇の女形篠井英介のブランチ、父親の北村和夫が当たり役にしていたスタンリーには、息子の北村有起哉が挑む。北村有起哉が登場して最初の台詞を言ったとき、それが北村和夫によく似ていてどきっとした。血の繋がった親子だから当然とはいえ。自分は文学座の『欲望~』をみていないので、どんなスタンリーであったかは想像しかできない。またこれまで有起哉をみていて父親の影を感じたことがほとんどなく、彼は父親とは資質が違うのだという既成概念があったのだろう。伝統芸能の世界なら父親の芸が息子に受け継がれることは当然であり、普通に受けとめられる。しかし現代劇となるといささか違った感慨がみる側にも生じる。今回の配役も有起哉がこれまで体験した数々の作品があって行き着いたのであって、「お父さんの当たり役だから」という理由だからではないだろうし、継承する義務も責任もない。偶然であり、同時に必然でもある。だからこそ、『欲望という名の電車』という作品が持つ不思議な導きの力を強く感じるのである。
いいスタンリーだった。観劇後にまっさきに思ったのはそのことだ。スタンリーは粗野で下品で妻に暴力はふるうし、ブランチに対して何もそこまでしなくてもいいくらいに徹底的な仕打ちをする。あまり好きになれないタイプの男性というイメージがあった。有起哉もこれまでみたスタンリーに負けず劣らずよく暴れる。だが前半、ステラと激しい夫婦喧嘩をしたあとに、打ちしおれてそれでも虚勢を張りながら妻にすがりつく様子や、終幕ブランチを病院に送り込んだあと、悲しみに暮れてふらふらと歩いていく妻を見やる表情に惹きつけられた。彼のしたことは確かに少々乱暴だったが、あなたは家族を守ろうとしたのですね。これまでアタマで理解していたことが、スタンリーの体温とともに実感として受けとめることができた。
実は『欲望という名の電車』には、因幡屋個人にも家族にまつわる思い出があるのだが、それはまた別の機会に。
長々と失礼いたしました。
私は高一の時に文学座の公演を観たことがあります。初めて観た本格的なお芝居の迫力に打ちのめされた記憶があります。後にこの日に杉村春子さんのご主人が亡くなられていたのを知りショックを受けた覚えがあります。昨日の篠井さんは本当に美しく可憐で可哀想で抱き締めてあげたくなりました。前から二列目のど真ん中迫力ありましたよ。
故・北村和夫さんは母が大ファンで私も好きでした。
昔、私の地元が舞台の「氷点」に主演なさって嬉しかった思い出が。
でも息子さんは・・・
まるっきり容姿も演技も魅力を感じませんでした。
ただの粗暴なチンピラにしか見えませんでした。体格も貧弱でただ暴れ回るばかりで「一種の哀しみ」というか観客を納得させる何かを感じませんでした。
途中からなるべく顔を見ない様にしていたので少し外れたかもしれません。
古田新太さんならぴったりのイメージですけど。
篠井英介さんの出身地とのことでとても力が入っていたと思います。はじめての篠井英介でしたがとても素敵でした。女性以上に女性らしい素敵なうなじから背中で思わずうっとりです。なぜブランチがここまでになってしまったかが丁寧に描かれていてどんな舞台なのかほとんど知らずに見に行った私にも理解できて物語にしっかり入りこんで感動でうるうるでした。スタンレーは思ったよりワルではなかったのでほっとしました。私はこのスタンレーには好感が持てました。
この数日前に「ワールドトレードセンター」も当地で観ることができて、このところとても幸せな地方になっています。