5月は観劇本数が多く、どうなるかと思いましたが無事終了。wonderlandのクロスレヴューにも参加でき(1,2)、因幡屋通信38号、えびす組劇場見聞録37号も完成いたしました。感謝です。
とくに心に残った舞台は、声を出すと気持ちいいの会『被告人ハムレット』と、スタジオソルト『ビタースイート』でした。前者はメンバーがこの春大学を卒業し、いよいよ学外での活動に向けて走り出そうとする疾走感がこちらの心まで高揚させ、後者は若いとは言いかねますが(ごめんなさい)、舞台をみるごとに劇作家の作風や俳優さんの持ち味が親しく感じられるようになりました。ある劇評サイトに「自分が愛してやまない劇団」とあるのを読んで、身贔屓では決してなく、みる側からきちんと距離を保ちながら、率直に「愛しやまない」というその方のお気持ちに共感を覚えます。
以下今月の本と映画です。
【本】
*秋田光彦 『葬式をしない寺 大阪・應典院の挑戦』(新潮新書)
2月から3月にかけて観劇した劇団Mayの当日リーフレット記載の活動予定に、夏公演が「シアトリカル應典院」という劇場で行われるとあり、お葬式や法事をせず、檀家をもたないでNPO運営するこのお寺のことを知った。自分の寡聞、不勉強を恥じながら本書を一気読みする。お寺らしいことをしないにも関わらず、最もお寺にふさわしい在り方を模索する記述に引き込まれた。
シアトリカル應典院さんへは、最新号より通信、見聞録ともに設置していただくことになりました。重ねて感謝いたします。
*川上弘美 『神様 2011』(群像6月号)
1993年発表の『神様』を自分ははじめ、ラジオドラマで聴いた。すぐに原作を読んで大変好きになった。KAKUTAの朗読シリーズ「神様の夜」(1,2,3,4)はもう4年近く前のことだが、いまでも瑞々しく心に蘇る。その作品の2011年版である。「くまにさそわれて散歩に出る。川原に行くのである」。この書きだしは同じであるが、主人公がくまを散歩に出たのは「あのこと」、すなわち福島第一原発事故から数年後の同じ川原なのだった。物語の基本的な流れ、作者の飄々とした静かな筆致も前作と変わらない。しかしあの日以後であることの絶対的な違い、どうしてもそれ以前には戻れないこと、それでも日常は過ぎていくことが淡々とした記述の中に冷徹に示されている。
【映画】
*『キッズ・オールライト』 女性ふたりの同姓事実婚カップルが、同じドナーから精子提供を受けて娘と息子をひとりずつ産んだ4人家族。成長した子どもたちが遺伝子上の父親を知りたくなり、彼に会ったことからいろいろな騒動が起こる。
5月6日付朝日新聞に指摘されていたように、日本には本作の先駆的作品『ハッシュ!』(橋口亮輔監督)があった。これは子どもを産みたい女性(片岡礼子)がゲイのカップル(高橋和也、田辺誠一)に精子提供を持ちかける話で、身近にない設定に気構えたが、家族や家庭についての普遍的な物語と受けとめた。
「自分の息子は性転換手術をして女になろうとしている」と勘違いしている母親(富士真奈美)や、不仲な兄夫婦(光石研、秋野暢子)の日常の殺伐感、妻の一挙手一投足すべてに敵意と嫌悪を露わにする夫に対し、それらを無感覚に受け流す妻の気丈、険悪な両親のあいだで暗い顔もせず、ぽっちゃりと太って明るい一人娘等など、周辺の人々の描写が心に残っている。
『キッズ~』で感じたのは、同性愛のカップルのあいだに、夫=働いて家族を養う、妻=夫に養われるという図式、力関係があったことだ。夫的なほうは相手が仕事を辞めることを願い、自分の考えを強く主張し、妻的なほうは相手が自分を型にはめようとしていることに抵抗を覚える。そしてその両親の力関係が子どもたちに影響を及ぼすのは、どこの家庭でも変わりない。息子がふたりのママたちに、「お互いもう若くないんだから、別れるなんて言わずに仲良くやれよ」と言うラストシーンにほろり。
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