*近松門左衛門原作 笹瀬川咲企画・原案 フジタタイセイ構成・演出 公式サイトはこちら pit北/区域 13日(日)まで
10月の板橋ビューネ2015『散る日本』の印象は強烈であった。それからわずか2カ月後に劇団の公演に出会えたのは幸運であった。
劇場の壁には、『曾根崎心中』劇中のたくさんの台詞が毛筆で書かれたものが釣り下がっている。出演者の筆によるもので、朱の直しが入っているところなど、いかにも「お習字」、学校の教室を思わせてほほ笑ましい。
現代の男女3組が登場し、黒子の司会で本日のテーマ「いままでいちばん燃え上がった恋について」、自分の体験を話しはじめる。が、この話がいずれも拍子抜けするほどぱっとしない。つきあってすぐ別れたパターンが多いせいだろうか、相手のこんなところが好きという理由があまりに凡庸なのだ。いや好きになるのに理由などいらないということなのか。心の様相を言葉にすることができないのか。それにしてもこれから芝居がはじまるのにだいじょうぶなのか?
ひとしきり彼らの恋バナが続いたあとで、『曾根崎心中』、つまり「恋の手本」に沿って彼らは徳兵衛A,B,C、お初A,B,Cとなって物語本編がはじまる。着替えてくださいというから和服になるのかと思ったら、さきほどの恋バナの設定か、教育実習生に恋をした女性は女子高生らしき制服に、相手の男性はサラリーマン風のスーツ、そのほかいずれも現代のままである。彼らは浄瑠璃台本のままの台詞を発語するので、歌舞伎や文楽の心得がない場合、内容の理解には若干の困難を伴う。
『曾根崎心中』のさまざまな名場面を3組が演じ継いだり、3組がすべて舞台に登場したりなど。ぜんたいにお初のほうがしっかりと自分の気持ちを主張し、有名な足を抱く場面では、3人の徳兵衛は互いに顔を見合わせてからようやく恋しい女の気持ちを受けとめ、その足を抱くといった具合に、現代の草食系男子を思わせるつくり。
最後の心中の場面、徳兵衛がお初を刺す。息絶え絶えになりながら、思わず激しいくちづけを交わす3組の男女にぶつけるようにサザン・オールスターズの「恋のジャック・ナイフ」が流れ、カーテンコールになだれ込む。
古典を自分たちなりに解釈したり、現代風にアレンジする手法は珍しくないが、肋骨蜜柑同好会は、現代の若者に江戸時代の狂おしい恋物語を演じさせるという構成で、「古典の人物に扮している若者を演じる俳優」を見せながら、両者がいつのまにか渾然一体となり、夢のように散っていくさまを鮮やかに示した。
草食系で消極的な若者の心のなかに、命がけで人を恋する情熱と狂気が眠っている。終演後の雨が心地よいほどの高揚感。またひとり、一筋縄ではいかない劇作家に出会うことができた。
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