因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ハイリンドvol.16『弥次喜多』

2015-12-09 | 舞台

*矢代静一作 西沢栄治演出 公式サイトはこちら 日暮里d-倉庫 15日(火)まで (1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15
 昨年座長の多根周作が退団し、伊原農を新座長として新たな第一歩の公演である。江古田ストアハウスで旗揚げ公演『ー初恋』を見て以来、早や10年が過ぎたことを改めて考えた。いつもの顔ぶれが3人に減ってしまったことは確かに淋しく、残念だ。しかし演出の西沢栄治は、『牡丹燈篭』初演、再演、『幽霊はここにいる』、『ヴェローナの二紳士』に続いて今回で5回めの「共演」である。互いに気心の知れた安心感とともに、「もっとおもしろく、熱い舞台を目指そう」と心を合わせて戦える相手でもあるはず。客席にもいつものハイリンドではもの足りない、もっとおもしろく刺激的なハイリンドを見たい!という熱気があふれている。

 作者の十返舎一九を伊原農、弥次さんこと弥次郎兵衛をはざまみゆき、喜多さんこと喜多八を枝元萌が、つまり女優が男性役をつとめる。彼らが東海道を旅するあいだにめぐりあう人々を、客演陣が複数の役柄をつぎつぎに演じ継ぐという趣向だ。中央の演技エリアには八百屋型の台が置かれ、俳優たちはその四方を走り回っての大騒動となる。

 弥次喜多のふたりは女に振られ、金を無くし、だまされることの繰り返しである。劇中、「旅は道連れ、世は情け。金は天下のまわりもの」・・・といったことわざが何度も出てくるあたり、ほんとうにそのとおりの旅であり、人生であり、人間模様なのである。しかし兄と結託して弥次さんをだました女郎のおつめが盲目となり、最後の最後に彼の深い愛情に心ほどかれるところでは、思わずほろりとさせられる。

 初日の今夜は客席がまだ温まっておらず、舞台の熱気に圧倒されている印象であったが、だんだんに盛り上がってくることだろう。またもう少し抑制し、緩急のリズムを作ったほうがよいところもある。これまでのハイリンドの舞台を思い出してみると、「もう一度見たい」と思うものはもちろんあるが、それよりも「次は何を見せてくれるのか」という期待のほうが遥かに強い。「あのときの●〇はおもしろかったなあ」とノスタルジーに浸るのではなく、ハイリンドに対しては、いい意味で決して満足せず、まだまだもっともっとと楽しみが尽きないのだ。求められる劇団も大変であろうが、客席もまた過去の思い出に囚われず、いたずらに比較するのでもなく、心を新たに次なる舞台に臨まねばならないだろう。がんばります。

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