因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

因幡屋11月のひとこと

2010-11-01 | お知らせ

 これから秋を楽しもうとしていたらいきなり冬が、さらに台風までやって来るとは。今年もあと2カ月になった。さまざまな舞台に出会えることを感謝して、一日いちにちを大切に過ごそう。
パラドックス定数 第23項『蛇と天秤』(1,2,3,4,5,6,7,8)
燐行群 『3分間の女の一生』 (1,2,3,,4,5,6,7,8,9,10,11)
劇団競泳水着 『りんごりらっぱんつ』
*新国立劇場 『やけたトタン屋根の上の猫』
こまつ座第91回公演 『水の手紙 少年口伝隊1945』 (1,2,3)
*『ザ・ピンター・ツアー』 ハロルド・ピンター「レビューのためのスケッチ」より

 喜志哲雄著『劇作家ハロルド・ピンター』(研究社)を読み終わった。ピンターの戯曲を1本ずつ、台詞の一語一語を、まるで顕微鏡で観察するように解き明かす。「不条理劇の作家」と安易に括られることの多いピンターの条理と魅力が理路整然と、しかも情熱をもって力強く語られており、読みながらぞくぞくするような高揚感を味わった。
 自分が90年代に最も影響を受けたのは、イギリス人演出家デヴィッド・ルヴォ―の舞台である。彼の舞台のうち、ぜひもう一度みたいものとして、自分はかねてからピンターの『背信』(93年夏 佐藤オリエ、木場勝己、塩野谷正幸 ベニサン・ピット)を考えていた。告白してしまうと、その理由は「一度みただけではよくわからなかった」からなのである。本書は『背信』については、ほかの章よりも多くのページが割かれ、さまざまな場面が挙げて、時間の逆行という手法をとりながら、3人の登場人物の心模様、それをみつめる観客の意識を喚起する本作の不思議な魅力が記されている。終章に「この本の第二十四章で、私は、『背信』の筋を手短に述べたが、それだけを読んで、この戯曲を読みたいとか、この戯曲の上演を観たいとか思う人がたくさん現れることを、私は全く期待していない」とあるが、や、ここにひとり、読みたいとか観たいとか思う人間が確実におります。それに全然「手短に述べた」とは思えませんし。

 10月は後半から観劇が増えて充実していたが、どの舞台にもまして本書に出逢えたことが自分には嬉しかった。ピンターはもちろん、ほかの劇作家の戯曲を読むときにも、本書は大好きな先生のように心強い存在になるだろう。因幡屋11月のひとことは、感謝と喜びをもって喜志哲雄さんの著作からいただきました。

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