因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

青年団国際演劇交流プロジェクト2008『ハナノミチ』

2008-07-17 | 舞台
*ヤン・アレグレ作・演出 藤井慎太郎訳 公式サイトはこちら こまばアゴラ劇場 22日まで
 ヤン・アレグレは2006年に初来日、連日大相撲名古屋場所に通いながら、安宿で執筆をしたのが本作だそう。青年団を中心とする俳優たちが2週間のワークショップを経て、今回が世界初演となった。息の長い意欲的な試みであるが、自分が足を運んだ理由は、昨年放送のドラマ『SP』に出演していた多田淳之介(東京デスロック)が出演するからという、極めて単純なものであった。殺し屋4人組のリーダーを演じた多田の印象は鮮やかだった。アクションを中心とする見せ場はチョウソンハと中川智明にあるのだが、多田は終始知的で冷徹、得体の知れない役柄を自然に演じていた。テレビドラマに小劇場系の俳優が出演する場合、舞台ならではの個性を要求されるのか、ことさらに大仰になったり、逆に驚くほど精彩を欠くこともある。『SP』には「え、あの人まで」と思うくらい多くの舞台俳優が出演したが、多田に限らず彼らは皆、いわゆるスター俳優に対しても全く遜色なく、堂々と演じていることがとても嬉しかった。
 
☆心を「無」にして舞台に臨まれたく、未見の方はここからご注意くださいませ☆

 さて『ハナノミチ』であるが、全体のイメージを掴むことも、部分的な印象を述べることも難しい。戯曲があってそれを俳優が演じる型ではなく、かといってパフォーマンスやダンスでもない。ヤン・アレグレという人の心の風景が描かれるさまとでも言おうか。アフタートークで作者自身から本作執筆の動機、多田淳之介からは創作の過程などを興味深く聞いたが、作品を理解することの助けになったかというとそうでもなさそうで、いや、理解しようとしなくてもいいのではないかしら。ただみる、感じる。その感覚に素直になる…。

 アフタートークではヤン・アレグレのフランス語は美しい音楽のよう、通訳嬢がこれまた大変美しい方で、多田淳之介の進行も通訳をはさみながらのトークは難しかったと察するが、作者の言葉を引き出しつつ、客席の反応も配慮し(質問が多くありました。勉強家が多かったのでしょうか?)、トークにありがちな内輪話で盛り上がることなく、終演後の心持ちを落ち着かせるよい時間がもてた。

 駒場の町の静かな空気が好きだ。開場を待つあいだ、ロビーには蚊取り線香の薄い煙が漂う。終演後の町はさらに静まり返り、ひと休みできそうな店もない。駅までの道のりが好きだ。石段を上がって線路づたいに歩く。傍らにいろいろな花が咲いている。静かというより「無口」といったほうがいいだろうか。ここしばらく駒場に通う機会が増えた。行きと帰りで変化する心のうちを静かに受け止めてくれる町だ。

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